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母が逝ってしまってからもう12年もたちます。何の前触れもなく涙が出る頃を過ごして、今では事あるごとに心の中で話ができるようになれました。
その母がいっぱい残してくれたものの一つが着物でした。
いくつももらった中にこれがあったのです。

始めは姉がもらったものでした。姉はどの着物よりこれを欲しいといったのです。
今はコートに仕立て直していますが元は袷の着物でした。お召しで細かい縞とほんとに細かい仮名が織り込んであるのです。

この着物にはちょっとしたお話があるのです。
母が結婚したのは、昭和19年。戦争の末期です。何もかもなっかた時代に結婚したのです。
おじいさんはその頃、杜氏の親方をやってました。その造り酒屋のご主人が娘が結婚することを聞いてそのころ貴重だったお酒を何本かお祝いに下さったそうです。おじいさんはそのお酒を母のための嫁入り道具を買うのににつかったのです。
でもその頃嫁入り道具をそろえていることを誰かが警察に通報したのだそうです。闇で物資を流していると。
おじいさんは留置所に入れられたのだそうです。何日か後にやっと無実が証明されて釈放されたおじいさん(その頃はおじいさんじゃないけど)の髪の毛はすっかり白くなってしまっていたそうです。
そんな思いのある着物だったから、姉も私もとても大切に思ってました。
姉はとっても大事に着た後で、生地が弱ってきたのでコートに仕立て直したのでした。
でもその姉は今、肺の病気になってしまい酸素吸入なしではすごせなくなってしまいました。着物が好きで、いっぱい自分でも作って楽しんでいたのにもう着ることはないのかもしれません。
それで、私に着るようにと譲ってくれたのです。あんなに好きだったのに。
なんだか涙が出そうです。
母の思いと、姉の思いと。
重い思いです。