のんびり生きる。

のんびり生きる。

そのよこしまな知識を武器に彼らは常に勝つ


 一方ソシアのような人間は、しばらくの間は――多少長くなることはあるかもしれないが――なんとか生き延びていけるだろう。人を殺し、手足をもぎ取り、まわりにいる人間の人生を滅茶苦茶にしながら。だが遅かれ早かれ結局は、高架下で脳みそをしたたらせて死んだソシア自身のような最期を遂げることになる。…
 …政治家は溺れる者の叫びを聞かなくてすむよう浜辺の家の中に坐って波の音を聞きながら、わたしたちの憎しみや偏見に油を注ぎ、初心に帰ればいいだけのことだという。そしてわたしたちは、その言葉に耳を傾けるのだ。
 彼らがこれは人種問題だといえば、わたしたちはそれを信じこむ。彼らがそれを「民主主義」だといえば、わたしたちは満足して首を縦に振る。わたしたちはソシアのような人間を非難し、時にはポールソンのような人間をあさ笑ったりもするが、スターリング・マルカーンのような人間に一票を投じることをやめはしない。そして時々訪れるいわゆる正気の瞬間にふと思うのだ、なぜ世の中のマルカーン的人間たちはわたしたちに敬意を払わないのかと。
 彼らはわたしたちに敬意を払ったりはしない。なぜなら、わたしたちは彼らに犯される子供と同じだからだ。わたしたちは朝な夕な犯されるが、彼らが優しくキスをして寝かしつけてくれるかぎり、「パパはおまえを愛しているよ、おまえの面倒はパパが見てあげるから」と耳元でささいてくれる間は、わたしたちは目を閉じて眠りにつくのだ。二十世紀が夢見た偽りの偶像にすぎない、「文明」や「安全」のうわべだけの心地よさと引き替えに、心も体も売りわたしながら。
 そしてわたしたちがその夢にすがることこそ、世の中のたくさんのマルカーンやポールソンやソシアやフィルやヒーローのような人間がよって立つところだ。そのことを、彼らは密かに知っている。そのよこしまな知識を武器に、彼らは常に勝つのだ。
            『スコッチに涙を託して』340ページ

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: