宮脇淳北海道大学教授の講演


                     15:30~17:00(講座)
○場 所:勤労者福祉会館6階大会議室
       政策開発研修第一教室
○講 師:宮脇淳北海道大学大学院法学研究科教授  
○テーマ:「NPMの限界と向こう側」   
○内 容:以下のとおり(文責 山路)
<講演>
※最初に
・NPMについて、三重県はかなり前から取り組んできた。実践し
ていてそれなりに成果は見られるが、乗り越えられない壁が大
きくなってきている。
・NPMはわかりやすいところに限界がある。こんなことを言って
はいけないが、今日の話はわかりづらいと思う。
・行政や地域経営の地図の中でNPMがどこに位置しているのか
をきちんと位置づけた上で政策を考えていく必要がある。これま
で、それを意識しないままにNPMの実践が進んできた。
・NPMもオールマイティではなく限界や特性がある。

1 新保守主義とNPM理論
(1)新保守主義(新自由主義)とは
・NPMは新保守主義に位置している。市場が優位性を持っている。
市場を通じていろんなことをやるのがよいのだという考え方が、新
保守主義(アメリカにとっての保守主義)。アメリカにとっての保守
は市場であり競争である。市場が絶対の市場原理政策である。
・市場による資源配分の優位性。国や自治体が介入して資源配分
するのは最善ではないという考え方。
・非効率なものは非合法であるという考え方、非効率なものは社会
経済システムから排除していくという考え方である。
・これらから、「小さな政府」、「官から民へ」論へつながる。
・新興国のインフレを計算すると、1980年代からデフレが進んだ。
新保守主義、NPMの出現と同じ時期。ニワトリが先なのかタマゴが
先なのかということはある。
・デフレにもかかわらず、その中で日本は債務を増大させた。日本
においては、NPMが他国に較べて大きく遅れて動き出しており、財
政的にも世界のマクロの動きとは違う動きを見せている。

(2)NPM理論の内容と性格
・NPMの性格は、次の4点である。
①権限と責任を最終ユーザーに近いところへ移す(受益と負担を明
確化する)
②市場原理・競争原理を導入する(公務員制度を見直して、多彩な
人材が入れるようにするとか、財源調達においても税金だけでなく
金融市場の中で借金をするなど、今までと違う資源が入ってくる)
③統制基準の見直し(予算制度や予算執行のしくみが変わる、人事
システムが変わる、公務員の意思決定の仕方や行動様式などが変
わる)
④組織改革(ただし、組織改革だけをしても変わらない。北海道庁で
グループ制を導入したが、①~③が行われない状態では今まで以上
に情報共有がされなくなった)むしろ、組織変革だけだと弊害が起こる。

(3)NPM理論の特性
・NPM理論は実践性があるように思える。NPMはヨーロッパを中心に
調査した中から普遍的なものを汲み上げたもので、ケーススタディ的
なものを集めてきた。
・NPMは方法論、上向き論であるという限界がある。方法論には実践
性はあるが、普遍性はない。あるところで成功しても別の組織でうまく
いくとは限らない。三重県でうまくいったものが他の自治体で機能する
とは限らない。また、なぜうまくいったのかという理由付けが難しい。
ex.PFI
・NPMは道具であり、実践性はあるが、道具だけに集中したり、場当
たり的に使われると、理念なき実践になってしまう。実践性なき理論よ
りは有用であるが。
・政策評価のフォーマットをつくって、いろいろな自治体にあてはめよう
としている外郭団体があるが、うまくいかないのはNPMに普遍性がな
いからである。
・パートナーシップをやるときの最大の問題点は、パートナーシップを
組むことをアドホック(場当たり的)にやってしまうことである。

2 市場モデルにおける2つのアプローチ
・政策を考える時のモデルとしては、①市場モデル、②社会モデル、
③情報処理モデル、④政治モデル、の4つを踏まえておく必要がある。
・NPMは市場モデル。政策を考える時に、必ず経済主体(政府、企業、
住民(家計))をベースにして考える。
・市場モデルによる行政改革アプローチには、①厚生経済アプローチ
と②公共選択アプローチ(←NPM)がある。

(1) 厚生経済アプローチとは
・政府、企業、住民の位置づけとして、政府だけが公共性を追求してい
くという考え方で、企業、住民は自分の利益を追求していき、公共性は
追求しないと考える。高度経済成長期、右肩上がり成長の時の考え方
である。
・なぜ公共性を政府だけに任せるのかというと、経済成長期においては、
個々人の持っている能力を一番発揮できるところに置くのが最も効率
的であり、それぞれの能力発揮を徹底的に追及することが社会を成長
させると考えるから。政府という公共性のプロはそれに徹するという考
え方である。
・政府の役割は「市場の失敗」の補完である。企業、住民は自分の利益
を追求するので、公害など市場では対応できない問題を生み出す。それ
を補うのが政府。市場自らはその失敗を補えない。政府の役割は拡大
する。大きな政府論につながる。
・「市場の失敗」を改善するものは次のとおり。
①社会厚生関数・・・・家計や企業が自分の利益を追求し、政府がそれを
補完することによって社会全体の利益が最大化する。
②パレート最適・・・・一人の所得を伸ばしても、他の人の所得に影響を与
えない。(マイナスにならない。)通常はありえないことである。
③カルドア=ヒックス基準・・・・数人の所得は伸ばすが、他の人の所得は
落ちてもかまわない。全体として上がっていればいい。
④費用便益分析・・・・政策評価で費用便益分析を単純にやっていっても、
分配をどう変えるかという結論は出てこない。費用便益分析は、事務事
業単位など個別に行うので、分配そのものに対してどういう物差しを使う
かという答は出てこない。分配論を放棄して出てきたのが費用便益分析
である。
・訴求対象(影響を与える範囲)が官僚領域。政府が公共性を発揮する
ところで費用便益分析をやっている。
・費用便益分析とは、投入したコストよりも便益が大きければやるという
もので、コスト削減を図るためのもの。前年比減は前年比増と同じ考え
方、行動様式で、どれだけ満足が上がっているかという満足化原則によ
る。満足に上限がない。それと対比されるのが最適化原則

(2 )公共選択アプローチとは
・公共選択アプローチを理解せずにNPM、PPP(public private
partnership)をやるのは、単なるアドホック(場当たり的)な利用である。
・公共選択アプローチにおいて、政府、企業、住民は、各自の利益を追
求する。どの主体も積極的に公共性を追求することはなく、利己的に活
動する。
・公共性を担保するのは何か。個別の主体ではなく、個別の主体をどの
ようにネットワークするかによって、公共性を担保するシステムを構築す
る。例えば政府と住民のパートナーシップ、ネットワークを形成するとい
う仕組みの中で公共性を担保する。それを結び合わせるのが契約であ
る。
・例えばNPOに公共施設の運営を任せる場合、NPOが知恵を出したら、
行政はそれに対してどういう利益を提供するのか。NPOが提供した公
共サービスの利用権、知的所有権の問題。アメリカではサービス提供
に特許権が成立する。政府、企業、住民との関係の中で、どういう約束
事により、ネットワーク形成をするのか。そこでパートナーシップ論が成
立する。
・公共選択アプローチでは「政府の失敗」が重視される。市場の失敗を
政府が補いきれるのか、政府の失敗を市場が補う方が有効と考えるの
か。公的セクターに市場の考え方を入れることによって、政府の失敗を
市場が修正できると考える。必然的に、市場重視、小さな政府論になる。
市場の失敗の方が政府の失敗よりもましだと考える。
・パートナーシップを組む時にどう考えるか。政府といえども公共性を
追求する唯一の主体ではない。
・経済主体はそれぞれの利益を追求しながら、ネットワークをどう形成
するかによって公共性を担保する。社会的利益は個々の利益を積み
上げることで判断される。
・公共選択アプローチの中でも、NPMはしいていえば行政経営である。
PPP(public private partnership)(=官民連携)は公共選択アプローチ
の中のあり方の問題で、NPMと大きく違うものではない。

(3) 市場モデルによるアプローチの限界~分配論への限界
・住民が求めているものに対して公的セクターが対応すると考えると、
どうやって分配論に結び付けるのか。全体の中で誰のニーズを重視し、
優先順位をつけるのかという分配論は出てこない。これがNPMの一番
の限界である。
・費用便益分析という「大きな政府」(厚生経済アプローチ)における手段
を、NPMという「小さな政府」で使おうとしても無理である。
・費用便益分析とは、投入したコストよりも便益が大きければやる、小さ
ければやらない。コスト削減を図るためのもの。
・有効性評価において重要なことは、優先順位をどうやってつけるか。
目標値の設定と数値化をしても、客観性と規範性がそろって初めて有効
に機能する。分配をどう決めるか。100本の事業があるときに、ウェイト付
けをどうやって決めるのか。
・意識改革はNPMだけでは無理。NPMは市場モデルの限界から出られな
い。
・公共選択アプローチは、官僚領域への訴求(影響)力が厚生経済アプロ
ーチに較べると弱い。結びつきのあり方から入ってくるアプローチなので、
経済主体の意思決定の中まで踏み込んで自動的に影響を与えるもので
はない。官民連携をすれば意思決定に影響を与えるというブリッジをかけ
ることも考えられる。
・なぜNPMによって、市場モデルが大きな影響力を持ったのか。それは、
金融改革によって、財政に対して金融が影響力、有効性を持ったから。
金融を無視して財政運営はできないので、市場モデルを通じて行政のあ
り方を考えざるを得ない。
・その結果、市場モデルが持っている「分配論が弱い」という欠点が高ま
ってくる。それを補完、修正するために、市場モデル以外のもの(社会モ
デル、情報処理モデル)をそこに組み込んでいかなければいけない。
・NPMは市場モデルの一つである。NPMを社会モデルに持ち込んでも有
効ではない。公共選択アプローチとは何かということを理解しなければな
らない。政策評価をNPMからはずしている学者もいる。それを踏まえた上
で、市場モデルでの新しいアプローチを研究する。公共選択アプローチも
まだ未成熟な過渡期の段階である。

(4) 市場モデルにおける顧客主義
・NPMは顧客主義である。顧客主義はいい面もあるが、顧客主義をつら
ぬいていくほど、顧客以外のものが軽視されていく。
・顧客主義の顧客とは誰か。厚生経済アプローチでは、顧客は企業と住
民。公共選択アプローチでは、全ての経済主体が顧客でもあるし、公共
サービスの提供主体でもある。あえて言えば地域が顧客である。
・市町村の場合は、受益と負担が近いので、相対的に県よりは官僚領域
への訴求(影響)力が強い。

(5) 市場モデルの補完~情報処理モデル
・情報処理モデル=意思決定論
 情報処理モデルはすぐに実践できる、自己完結性が強い。
・官民の間で情報処理モデルを共有すれば、お互いの意思決定のあり方
を同じくすることができる。モニタリング。ex.公会計に民間会計処理システ
ムを入れる。

(6) 市場モデルにおける財政と金融の相互関係
・均衡財政の時には狭義財政だけ考えていればよかった。今日の行財政
は、金融と財政を担わないとやっていけない。財政に対して市場モデルが
強く働いてくる。
・日本では、デフレ期に債務が増加している。1995~2004の間にどれだ
け債務が純増したかというと、一般政府債務残高の対名目GDP比率は、
日本の場合80.4%→159.2%とほぼ倍増する。欧米諸国では、イタリアで
さえ減少している。
・なぜ純増したか。経済に占める財政歳出項目ごとの比率を見ると、日本
では固定資本形成(公的資本形成)と補助金の比率が変わっていない。欧
米諸国では全て減っている。
・分配論を機能させ、分配を変えなければ財政状況は変わらない。そのた
めには社会モデル、政治モデルとリンクしなければならないが、どのように
議論していくかが課題である。

3 縦型ネットワークと横型ネットワーク
(1) 縦型ネットワークとは
・右肩上がり成長の時代においては、問題解決に適した意思決定を効率
的に実施できる縦型ネットワークが有効に機能してきた。
・組織では縦型ネットワークが強い。リーダーシップは縦型ネットワーク。
ただし、何が問題かという問題点を抽出するのは苦手。
・縦型ネットワークの欠点を補うのが横型ネットワークである。

(2) 横型ネットワークとは
・右肩上がり成長が終わり、縦型ネットワークがうまく機能しなくなっている
現在、問題抽出型の横型ネットワークを形成することが必要になっている。
・横断的ネットワークでの議論をなぜやるかというと、縦型ではできない問
題抽出をやるためである。組織を背負っているとできないことが、横型ネッ
トワークでは問題指摘できるのが利点。徹底的に問題抽出する。これを庁
外まで広げたのが住民参加である。
・横型ネットワークの欠点は、指摘される問題点が枝葉末節のことから重
要なことまでたくさんあるということ。横型ネットワークに任せていると問題
解決ができないと言われる。問題解決をするためには、縦型ネットワーク
に落としこんでいくことになる場合が多い。

(3) 横型ネットワークの課題
・札幌市でオンブズマン制度を議論し、条例と制度をつくった。しかし、議論
してきた住民はオンブズマンになるのではなく、オンブズマンを監視したい
と言った。どこまで行っても問題指摘にとどまり、自ら問題解決することを
経験していない。公共選択アプローチでは、それぞれが問題解決しなけれ
ばならない。
・この4月の札幌市長選で選ばれた新市長とのタウンミーティングで、市民
自治を掲げる市長が批判された。従来の自治会など縦型ネットワークの住
民ばかりでなく、オープンになって横型ネットワークの住民が入ってきたため
である。
・北海道白老町の町長が不信任案を議決され、前町長を批判した人が新
町長になった。前町長がこれまでやってきた住民と行政のパートナーシップ
を守ったのは住民であった。議会が住民とタウンミーティングを行い、今ま
でやってきたことを守らなくてはいけないということになった。こういうことが
できるのが基礎自治体の強さである。
・都道府県は国、県、市町村という三層構造の中間組織であり、住民から
遠い点が不利。・NPMを発展させるためにも従来の議論を乗り越えなくて
はならない。NPMは行政の地図のどこに位置しているのか、進路はどちら
なのか。モデルやアプローチを共有した上でディベートする必要がある。

<質疑>
Q) 先生はパートナーシップには財政事情等が背景のご都合主義はだめ
 であるということを書かれていた。民間委託の場合、民間は収益第一主
 義なのでモニタリングが欠かせないということだが、行政にはその能力が
 ないということだ。
  では、どのようにしてその能力を養えばいいのか。
A) 民間部門も行政をモニタリングしなければならない。お互いにわからな
 いから社会的実験としてやる意味がある。お互いの内部にノウハウを積
 み上げていく必要がある。
Q) 意思決定における情報処理モデルにおいて、情報の共有が大事だが、
 どういう情報が意思決定に必要な情報なのか。横型ネットワークやタウン
 ミーティングをしながら、情報を収集していくということか。
A) 企業はクローズドな組織だが、公的組織は基本的にオープン型組織で
 ある。民間会計の情報はより多くの人が理解できる情報なので、公会計
 に民間会計処理システムを入れる意味がある。政策議論をする時に、精
 緻な情報は理解できない。プロとして問題解決するための政策情報は企
 業や住民には必要ない。むしろ、問題点を示唆する情報が必要。注意喚
 起型情報でよい。確度が低くても、住民がそれを認識した上で、より多くの
 人が理解できるものを情報提供し、議論しながらやっていくことが大切で
 ある。
  情報には雑音ーサインーシグナルのレベルがある。サインで気づく必要
 があり、シグナルまでいってはだめである。
Q) 札幌市役所での講演で「市役所は道庁や国に比べて市民の顔が見え
 るのが強み」だと言ってみえた。住民から遠い県はパブリック・コメントを
 やっても当事者意識がある建設的な意見が得られにくいが、何か工夫は
 あるか。
A) パブリック・コメントは基礎的自治体である市町村において一番有効に
 機能する。都道府県の場合、回数を重ねても意見が修練されていくことに
 はなりにくい。
  というのは県の総合計画が地域の計画ではなく、三重県庁の計画という
 扱いにされているからだ。このため住民との関係はドライになり、それを完
 全に克服するのは無理である。
Q) NPMとPPPの違いについて
A) NPMは官から民へ、大きな政府から小さな政府への流れであるのに対し
 て、PPPは必ずしも官から民へではない。
  日本と英国では公務員という職業に対するステータスが違う。(英国では
 民間と並びの職業の一種)そのため、英国ではPFIが比較的容易である。
  日本の自治体ではパートナーシップのモデルがない。英国では市場モデ
 ルから社会モデルになり、独は市場モデルを堅持している。日本ではPFIは
 公園事業に行き着く宿命にある。被害が少ないからだ。
Q) ぎょうせいの「ガバナンス」で「戦略的意思決定は罠に落ちる可能性があ
 る」ということを指摘してみえるが、この意味は?
A) 戦略とは、新しい取組みであって、成果が不明瞭になる。たとえば、ベン
 チャー融資や試験研究費は成果が見えないので延命しやすい。言い訳が
 でき、歳出構造や仕事の中で固定化する危険がある。
  そのため始めるときに期間を明確にしておく等の必要がある。試験研究
 機関は政策評価になじまないので別のものでゴールを決めるようにする。

<コメント>
・みなさんは、ディベートでしゃべったり、文章を書くときどのようにしている
か。
思ったとおりに書くのがいいが、それだと内言語のままなのでわからない。
頭の中で翻訳し、外言語にしてしゃべる必要がある。

○感想
・講演はかなりアカデミックな内容で事前に先生の「公共経営論」PHPを読ん
でいても難しい部分がありましたが、お話の基軸は理解できたように思います。
・少人数での質疑の席では、具体的にケースに沿って答えていただき、理解
が増しました。やはり、本や雑誌だけではなく、直接お話を聞くことのメリット
は計り知れないと思いました。



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