小説「桜が咲くにはまだ早い三月」「無明の果て」 

小説「桜が咲くにはまだ早い三月」「無明の果て」 

第一章  「優二」




優二など愛してはいなかった。


愛とか恋とかそんな面倒なものではない、

そう思っていた。


電話口で優二が泣きながら私に訴えている。


「うるさいなぁ・・・だから 愛せないのよ。」

冷たく、残酷な私の心が叫んでる。


「もう最後にするよ。

僕のために何か言ってよ。

何か言ってよ・・・」


深くため息をつきながら、ちょっとだけ時間をおいて、

私は黙って電話を切った。

優二の声をさえぎった。


優二が私のこと好きって言ったから

何度かなんとなくキスをし、なんとなく寝た。

それも飲んだ帰り道。

そんな事、よくあるじゃない。

だから、そんなありがちの成り行きに、

特別な感情も湧いては来なかった。


優二の事が嫌いじゃなかっただけ。

ただそれだけだった。

優二だって分かっていたでしょう?


だから恋人なんて呼べなかった。

何だかちょっと面倒くさかった。


うまく言えないけど、縁がないと云う事かもしれないと、

大人がよく口にするつまらない言葉を思ったりした。



名前の通り優しさが全てのような優二は、

少しだけハンサムで綺麗な指をしていたけど

穏やかな微笑みが似合う利発な人物に見えたけど


だけどその時、優二に恋なんかしてはいなかったと、

私はそう思っていた。










真夏のライブハウスは、人々の熱気で息苦しいほどに盛り上がっていた。

誘われるままバンドスタッフだと言うその人に連れて行かれたテーブルの隅に

優二は立っていた。


裕子と静江と私の他に、

演奏を終えた十人程のメンバーとそれをねぎらう

スタッフ達で溢れかえっていた。


若いというだけで全てを味方に出来そうな勢いや、

華やかさだけを受け入れるような空間がそこには満ちあふれていた。


「私達場違いなんじゃない?」


裕子も静江も落ち着かないようすで、

それらしき業界の話題や、

専門的な知識をひけらかす派手な男達にうちとけられずにいた。



「CDあげるよ。聞いてみて。

それと、はいビール」


男達が慌ただしく通り過ぎる。



「良い曲が入ってるよ。どんなジャンルの曲がすきなの?」



つまらなそうな私達を、見透かしたように彼は話しかけてきた。


それが優二との始まりだった。






優二、 忘れられない。


あの頃、誰もが来るはずはないと信じたかった、

遠い未来に私はいる。



優二



あなたの好きだったマイケルフランクスは、

あの頃と同じように今もこの部屋に流れている。




つづく・・・






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