小説「桜が咲くにはまだ早い三月」「無明の果て」 

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第三章  「着信」  三節




止まったはずの着信音がいつまでも耳に残り、

私を呼び出し続けているような錯覚の中でどうしたらいいのか分からずに、

私は名前が消えて真っ暗になった携帯の画面をずっと見ていた。


あの本屋のどこかで電話をかけている浩太の姿を想像しながら、

だけど多分、私の車の後を見つめていたわけじゃなく、

ただの偶然がこの着信を鳴らしているような気がしていた。


やっぱり浩太は気づいていたんだ、

なんてドラマチックな気持ちにはほど遠いモヤモヤっとした感じが

私の心に湧き上がって来た。


すぐに私から電話して

「しばらく」とか

「どうして電話くれなかったの?」とか言えばいいの?


「今電話くれた?」とか。


付き合っているわけでもあるまいし、

そんなセリフを言う女にだけはなりたくない。

そんな事ばかり言っていたあの頃の私には戻りたくないよ。

可愛い女になんかなれなくても、電話はしないと決めたんだ…


横断歩道を走り抜けたあの姿は、私の知らない浩太だった。


私の知っている浩太なら、

車が通り過ぎるまで私の姿を見つめていたはずだと

強気な心が叫び出したけど、

そんな事言っても何だかちょっとリアリティないじゃん。


車を停めて少し待ったけど、携帯はベルを鳴らさなかった。


へぇ…

二度はかかって来ないんだ…


私はサイドブレーキを下ろし、待ち合わせの場所に向かってアクセルを踏んだ。


その途端、メール音が響いたんだ。



あ…浩太?


赤信号で停まり慌てて開けたメールは、

「田辺浩太」と表示されている。




そこには走り去る私の車の写真。


三枚続けて小さくなって行く車の写真が添付してあった。



件名は 何もないまま。

左手に持った携帯の画面には、

ただその写真だけが表示されていた。



つづく・・・














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