小説「桜が咲くにはまだ早い三月」「無明の果て」 

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第十二章 「必然」 一節




私達は二度目の園の歌を聞き終わる前に、ドア近くの席に移り、

目立たないようにそのままそっと外へ出た。


彼女にとっては私の存在が、覚悟や現実を受け止めなければならない対象そのもので、

私はひどく残酷な時を運んでしまったのかもしれないと、

店の外で彼女の心を思い量っている。


私の独りよがりな想いだとしても、彼女のひたむきさとその強い想いが

いつかきっと注目を浴びる日が来ると、

園という女性はそんな人だと信じてみたい。


私だけの勝手な願いが叶う時を待っている。



「一行、園さんがもう一度付き合いたいって言った時、どうして断ったの?」


いつか聞こうと思っていた事が、自然に口から出てしまった。


「何言ってるんだよ。

その時は麗ちゃんともう一緒にいたじゃない。

でもね、麗ちゃんと一緒にいなくても付き合う事はなかったと思うよ。

彼女はいつも俺の年上だったんだ。

たったひとつだけど、俺はどんな時でも年下だった気がする。

年齢なんかどうってことないけどさ、たぶん俺はそれを窮屈に思ってたんだ。

麗ちゃんはもっと年上だけど、

年下みたいな麗ちゃんも俺はちゃんと知ってるよ。

園は、ん~彼女は麗ちゃんと似ているような気がした時もあったけど、

やっぱりちっとも似ていないんだ。」


知り合った頃、涼に言われた言葉を思い出していた。



”似ているんですよ。

一行の元カノに“







園が歌い終わって、誰もいなくなったカウンターは、

空になったグラスだけがそのままに置かれ、

二人が確かにそこにいた事を証明しているようだった。


園はもう一度同じ席に座り、

さっきまでここで流れていた表現のし難い空間を思い出していた。

ずっと吸わないでいた煙草に手をのばしながら。



私が歌うこの歌が、世の中に通用するはずのないつまらない歌だとしでも、

それを覚悟はしていても、

この強がりは諦めない事への私なりの精一杯の表現なのだと、

二人は気づいてくれただろうか。



姿のない椅子に漂う自分には無い繋がりは、

もう彼とはここまでなんだと、

はっきり区切りを見た気がした。


一行はもうあの人のもの。



「楽園」は、一行へ向けたラブソングだった。



「園ちゃん、電話だよ。」


マスターが「西山くん」と電話を差し出した。


「もしもし、涼?

どうしたの?

黙って帰っちゃって。」


「うん。ごめん。

あのさ、忘れ物しちゃって、カウンターの隅に封筒ない?」


「あっほんとだ。あるよ。」


「これから取りに行くよ。」


何事もなかったように、冷静を装い言った。


「涼さっきね、一行と麗子さんがここにいたの。

涼、今どこにいるの?

店の近くに居るなら会えるかもしれないわよ。

もしもし涼?

聞いてる?」


「うん」


「涼に頼まれてたことは前に伝えておいたけど、おめでとうって。

涼、自分で直接言ったら?」



電話はそのまま、切れた。


空も大地も水も緑も、一時だって同じ形でいる事はない。


自然が作り出す美しいと感じる物の、

その表現の仕方を、私も一行も涼も、探し続けているのかもしれない。






「あっ、麗ちゃん。

正幸先輩、結婚するって。」


「ほんとに。誰と?」


「お見合いしたらしいよ。

会長辞任ってメールが来た。」


「そう、良かったね。

明日電話してみるわ。

アメリカへ行く前に会えなかったし、お祝いしなきゃ。」


「ちょっと待ってて。

何か飲み物買ってくるから。」


一行は走って今来た道を戻って行った。


半年と云う月日は、それぞれの人生を変えた。

何が答えなのかは、自分で探し自分で見い出す。



誰かに見られている気がしてまわりを見渡すと、

街灯に照らされている影がそこで立ち止まっている。


「あっ、涼くん・・・」



「麗ちゃん、お待たせ。

何?

どうかした?」


「ううん、何でもない。

ありがとう。」



見間違いかと思ってもう一度振り返った。

でもそこにあったのは、居たかもしれない涼の残像だけだった。






つづく・・・





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