小説「桜が咲くにはまだ早い三月」「無明の果て」 

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第十三章 「罪」 一節




今の私が、あの時の涼の事を愛していたのかと聞かれたら、

どんな言葉で私の気持ちを伝えるのが適切なのか、

慎重に言葉を選ばなければならないだろう。



涼に対して私が出来る最大の応援と同じくらいの心を込めた返事が、

涼だけでなく一行にもまた大きな意味を持つのだと、そう思えるからである。


ある日美しい青年が、仕事ばかりしてきた大人の女に恋をした。

素敵な事じゃないかと、ドラマチックな話じゃないかと、

台本のない人生はエンディングを知らぬままでも、

それだけで輝いているじゃないかと。


愛され慣れていない私がそんな風に思ったなら、

きっと結婚などしてはいない。


一行というただひとりの愛しい人に、見付けてなどもらえてはいない。



そんな涼の一途な気持ちを知りながら、あの時だけ、

私の魂は涼を求めてしまったのだ。


いや本当は、自分の元から遠ざかってしまいそうな一行の幻を涼に求めたのだと

今ならはっきりと解る事も、

あの時だけ、あの美しい瞳は私の心を揺さぶり、私に罪を作らせてしまったのだ。


涼、私のキャリアにずるい事などなかったはずなのに、私の重い罪は

「愛されている」

という、自分だけを大切にする身勝手な思い上がりだったね。


「愛してはいない」


あの時伝えなければならなかった言葉は胸に潜ませたまま、

涼の気持ちを置き去りにしてしまった事を、


「大丈夫」

だなんて。

そんな風に言えるなんて。


切ないその想いはそのまま捨て去り、そして涼自身の決着を、

私に見せてくれたようだった。


人を許す事が出来るのは、余裕があると云うことなんだと

あの微笑みは教えてくれたのだ。


だけど、涼。

気付いている?


あなたの生き方が、みんなの人生までをも変えて来ていると云うことを。


園がもう一度歌う事を夢み、

一行が仕事を見つめ考え、

私も一から一行と生きて行くんだという事を

この身体に突き付けられたと云うことを。



信じて来た事をちゃんとやったのか、

やれなかったのか、


それとも、やらなかったのか。



涼が目指している厳しい世界は、正にそれが全て、

自分との戦いの真っ只中に、西山涼という青年は自ら飛び込んだのだ。


自分自身と向き合う、簡単そうで本当はとてつもなく困難な挑戦を、

涼は先頭をきって進もうとしているのだ。


こんなにも苦しい試練が、

駆け抜けた先の穏やかな未来に必ず繋がっていると確信しているのだ。




私はここに残り、正幸さんにメールを送った。


「ご迷惑をおかけしました。

私の至らなさがみんなを傷つけました。

いつか私らしく仕事で恩返しが出来たらと思っています。

早く良い報告が出来るようにアメリカへ戻ります。

正幸さんの奥様になられる方に宜しくお伝えください。

また会える日を楽しみにしております。

どうぞお幸せに。

麗子」


少しして返事が来た。


「僕は親の仕事の後を継ぐ事を誇りに思っています。

お見合いをしてそんな話を熱心に聞いてくれた彼女と一緒に

頑張って行こうと思っています。

麗子さん、一行を頼みます。」


地に足をしっかりつけて、私は一行を守って行こう。


少しして一行からメールが入った。


「涼から連絡があったので、夜会って来ます。

心配しなくて大丈夫です。

一行」



心配なんかもうしない。



きっとまたいつかみたいに、


「しばらく」なんて言いながら、


肩を並べてる二人が私の目には見えている。




つづく・・・






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