小説「桜が咲くにはまだ早い三月」「無明の果て」 

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第十四章 「岐路」 四節




アメリカへ来てからの暮らしが会社設立という目標に向かって少しずつ形を見せ始め、

日本に戻ってからの足掛かりになるかもしれないプロジェクトや、

私が必要とする知識や経験が、まるで私を試すように次から次へと舞い込んで来る。


会社に辞表を出した時専務の勧めを断っていたら、

この経験をせずにどんな顔をして会社を興すなどと大口を叩いていたのか、

考えただけでも顔から火が出る思いだ。


簡単な事ではない。


妻の役目も放棄したまま遠い未知の夢を選んだ私に、

やり遂げ成し遂げる事、今はそれだけを見つめていてもいいんだと、

いつも耳元で囁きかけているのは、

キャリアウーマンなんて呼ばれていた少し前の私自身。



だけどそんな事より、今いる所ここが出発点だと、

いつでも何度でも立ち上がる事が出来るんだと、

私はまた知らされここにいる。



一行が私を送り出し、遠く離れて頑張っているように。


涼が勝負をかけ、ひとり闘っているように。


園が魂の歌声で挑戦しているように。


そして岩沢が決断の道を歩き始めたように。



夜中まで仕事が続いた日、

一行の仕事終わりを見計らって電話をかけた。


「もしもし、一行?

聞こえる?」


「うん、聞こえているよ。

そっちは変わりない?」


「うん元気よ。

ねぇ一行の方は、仕事うまくいっているの?

食事はちゃんとしてる?」


「麗ちゃんこそ、ちゃんと食事してますか?

またジャンクフードばかり食べてるんじゃないの?」


あ、ばれてる。


「たまによ。

だってアメリカだもん。

大丈夫、ちゃんと節約して一行がこっちに来る準備してるから。」


「アメリカは行った事ないんだよ。

緊張するなぁ。

あと一ヶ月ないね。」


そう、あと一ヶ月で私の三十代は終わる。

終わるその日に私達は結婚式を挙げる。


私達ふたりだけでとわがままを許してくれた両親に、

アメリカでと更に驚かせてしまった事を、

これから時間をかけてふたりで恩返しをして行くつもりである。


「一行この間ね、ドレス見に行って来たの。」


「あぁ、語学スクールの人が紹介してくれたって、そこ?」


「そう。

気に入ったのが見つかってね、写真撮ったから後で送るわ。

あ、やっぱり止めとく。

秘密 秘密。」



「何だよ。

ひとりで楽しんじゃって。

ごめんね、麗ちゃん。

全部ひとりで準備させて。

なんだっけ。

岩沢さんだっけ?

その人はどういう人なの?」



「こっちに来た時会わせるわ。

色々お世話になってるの。

奥様は亡くなってしまって、お仕事もリタイヤされてね。

一行からしたら父親みたいな年齢よ。

でもとっても素敵な人なの。」


一行に伝えようとすればするほど言葉足らずで、

岩沢との出会いを説明するには、この電話この時間ではもどかし過ぎた。



でもその先に、想像を超えた驚きの筋書きが待っていた。




そこにはまたひとつ

別の奇跡があった。






つづく・・・





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