※R15程度の描写があります
ここは水都アンディーン郊外―――打ち捨てられて久しい廃絶貴族の古城である。
嘗ての城主ベルナードは、かなり特異な性癖の持ち主だったらしく、近隣の村々から年端もいかぬ子女ばかりを拐かし、地下の拷問部屋で身の毛もよだつ所業を夜な夜な繰り返していた。 年を追うごとに苛烈さを増した虐殺行為が明るみになると、公国はベルナードの貴族位を剥奪した後、家名断絶の処置をとった。 だが、べルナードは公国の出頭命令に従わなかったばかりか、公国査察官を人質にとり城に立て籠もった。
ひと月にわたり膠着した事態は、身内を殺された領民の反乱により、唐突に終わりを告げた。 逃げ込んだ離れで自ら火を放ち、押しかけた領民・人質共々、焼死したとされている。
凄惨な終結を迎え公国直轄領となった後も、住む者がいなくなった廃城から、虐殺された領民の怨嗟の呻きや、ベルナードの哄笑が聞こえてくるといった噂が相次ぎ、残された領民も次々とこの呪われた地を離れ、今では怪事件が多発する立入制限地区となっていた。
そして、この血塗られた土地マイノムをラグナウェルは一時の塒としていた。
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耳障りな金属音を発して、薄暗い獄舎が顎を広げる。
「確証は得られたのか?」
ラグナウェルは、両開きの地下扉を引き開けたまま、眼下で低頭するアーネルに尋ねる。
「依然として手のつけられない暴れようで、会話さえ儘ならず……」
アーネルの表情には、当惑の色が滲み出ていた。 泰然自若を地でいくこの娘が感情を顕にするとは珍しい。 よほど手を焼いているのだろう。
「あの餓鬼の内在的価値を説いたのはお前だぞ、アーネル」
「申し訳ありません……」
アーネルがプルミエールの助命を申し出たのは、帰城して直ぐのことだった。
“死せざる王”を呼び戻す為に、霊環アシュタリータが宿す反魂の秘法の発動は必要不可欠である。 当初の計画ではラールウェアの呪法で霊環の“力”を強制的に引き出す手筈だったが、アーネルはその役割をプルミエールに代行させようと、進言したのだ。
「あのちんちくりんに聖女の資質があるとは到底思えんがな」
「計画の確実性を期すなら考慮すべき可能性かと」
アーネルは静かな声音で理を説く。
リュズレイの血統内では、本来、男子は生まれることがない。 聖女の資質を受け継ぐ嫡女は、その初産において例外なく女子を身篭り、同様の資質が受け継がれるものとされていた。 先代の聖女であるエレシアムが屍族との間にラグナウェルを産み落としたことは、そういった意味でも忌避視されるものであったのだ。 恐らく、教会や王家の人間も、その時点でリュズレイの血脈から聖女の資格者は、消失したと見做したのだろう。 故に偽の聖女であるシャルロットを後釜に据えたまま、今日に到るのである。
「まぁ、いい。 あの餓鬼が反魂の呪法に失敗して命を落としても、殺す手間が省けるだけだからな」
口ではそう言ったが、ラグナウェルもプルミエールが唯一条件に適う存在であることは理解していた。 エレシアムの嫡女であるプルミエールに聖女の資質が受け継がれている可能性を、安易に否定するのも早計である。 アーネルの本意がどこにあったにせよ、死せざる王のチカラを必要とするラグナウェルにとって捨て置けない見解といえた。
故に、ファナに負わされた傷が癒えるまで、プルミエールの処遇に関しては先延ばしにしていたのだ。
「御理解頂き光栄に存じます」
「ふん、どちらにしても、あの手の小生意気なメス餓鬼には、二度と逆らう気が起きないようきつく躾けてやる必要がある」
ラグナウェルは鋭い口調で告げると、暗闇へと続く石段を降りる。 目的の地下拷問室までは一本道で迷う心配はなかった。 生者の侵入を拒む朽ちた空気も意に介すことなく歩を進める。
「ここか」
ラグナウェルは目前に立ち塞がった赤錆が浮く分厚い鉄扉を躊躇なく押し開く。
「は・ず・せーっ! ろうぜきモノめー!!」
途端に罵詈雑言の雨霰が叩きつけられる。
「威勢だけは一人前のようだな」
ラグナウェルは冷然とした視線を、哀れな虜囚―――同腹の妹へと向ける。 当年とって齢十二歳となるアダマストル公国の第二王女は、地下室の中央に位置する腐敗した拷問台の上で、天井から吊るされた鉄鎖に両腕を掲げた状態で拘束されていた。 たかが人族の小娘ひとりに対して、大袈裟過ぎる処置であるが、全てはラグナウェルの指示であった。 捕らえた獲物の絶望と苦痛を、その掌中で悪戯に揶揄し蔑む事で、その苛烈な復讐心を満たそうとしているのかもしれない。
「そこの目つきワルワル男聞いてるですかー!! さっさと、はずしなさいです!」
「それにしても、大した品揃えだな」
少女の悪態を敢えて無視すると、ラグナウェルは初めて訪れた地下牢を見渡して、興趣をそそられたように笑みを零す。
壁面の篝火が揺れて、地下牢の様相が斑に浮き彫りになっていた。 壁際には鉄の処女から頭蓋骨粉砕器、挙句には拷問水車まで、古今東西あらゆる拷問道具が所狭しと立ち並んでいた。 嘗ての家主の残虐な野獣性が見事に反映されている。
「は・ず・せーっ!!」
無視されたことに激昂したプルミエールが、愛らしい口唇を尖らせて馬鹿の一つ覚えのように同じ言葉を連呼している。
「アーネル、お前はもう下がっていいぞ。 後は俺が処理する」
「で、ですが……」
アーネルが言葉を濁しながらも異を唱える。
「どうした?」
ラグナウェルが意地の悪い笑みを浮かべる。 アーネルの性格を考えれば、無抵抗な者を甚振るような真似は、到底許容し難い非人道的な行為に映る筈だ。 今までも、屍族相手に刃を振るえても、不殺の誓いを立てた人族へは、如何なる理由があっても自ら手を下すことはなかった。 ラグナウェルはそれを理解した上で、己への忠誠心を試しているのだ。
「いえ、出過ぎたことを申しました」
「ふっ、見ていたいのならば残っても構わないぞ」
「……では、そうさせて戴きます」
アーネルの返事に、ラグナウェルは僅かに眉根を顰める。 受け入れ難い現実から目を逸らし、この場から逃げ帰るものと高を括っていたようだ。
「ま、いいさ」
不快気に鼻を鳴らしたラグナウェルは、狂眼をプルミエールへと向ける。
「な、なんですか!? プルにナニかしたらタダじゃすみませんですよっ!」
身の危険を察知したプルミエールが、舌足らずな声で威嚇する。
「ほう、どう済まないというのだ?」
「きまっていますっ! ボコボコにして、ゴミ箱にポイッです」
そう言って唯一自由になる両足をバタつかせて、ラグナウェルを蹴ろうとする。
この状況下で、どこまでも強気になれるプルミエールの精神構造に、ラグナウェルは幾許かの興味を抱く。 それと同時に、少女の強気な表情が羞恥と絶望に歪む様を想像して、冥らい嗜虐心を煽られていた。
「面白い。 たっぷりと辱めてやる」
「にゃっ……!?」
唐突に、細腰を抱き寄せられ、プルミエールは驚きのあまり目を何度も瞬かせた。
異性に身体を触れられることすら慣れていないのだろう。
「……!!」
徐々に、少女の柔らかそうな頬が桜の色を帯びてくると、
「うにゃぁあぁああ! は・な・せーっ!!」
プルミエールは些か緊張感の欠如した声で慌てふためく。
「このまま、俺たちの眷属にしてやろうか?」
ラグナウェルはニヤリと笑って乱杭歯を剥き出しにすると、腕の中で滅茶苦茶に暴れる短躯を力尽くで抑え込む。 そのまま、恐怖心を煽るように少女の細い首筋に唇を這わせた。
「くっ、よくも……っ! このっヘンタイ魔人め!!」
次の瞬間、少女の口から鋭い呼気が発せられて、下顎を削り上げるように肉薄する戦闘靴を、ラグナウェルは頭を傾けてやり過ごした。
「チッ」
しかし、完全には躱しきれず、紅衣の胸元が切り裂かれ、左頬から耳垂にかけても、鋭利な刃物で裂かれたような裂傷が刻まれる。 更に息をつく間も無く、跳ね上がった少女の左足が、思いも掛けない方向から振り下ろされる。
「調子にのるなよ」
ラグナウェルは両腕を交差させるようにして打ち下ろされた少女の靴踵を受け止める。 そのままプルミエールの両足首を鷲掴むと、担ぎ上げるようにして少女の頭の上まで持ち上げてしまう。
「うにゃっ……!!」
幼い身体に密着した武闘着の前垂れが捲くれ上がり、少女の下腹部を覆う幼げなショーツが丸見えになる。 更に、慌てて閉じようとするプルミエールの両足の間に身体を滑り込ませて抵抗の手段を奪う。
「餓鬼が、身の程を教えてやる……」
ラグナウェルは頬から滲み出るねっとりとした液体を舐めとると、掌にスッポリと収まるプルミエールの小さな膨らみを押し潰すように揉みしだく。
「やだ……あぅ……!?」
プルミエールが痛みと嫌悪から全身を痙攣させた。
少女が身悶えする度に、強化金属製の拘束具から伸びた鎖が重い音を響かせる。
「実の兄に穢される気分はどうだ」
ラグナウェルの嗜虐性は単純な性欲や破壊行動とは一線を画しており、復讐対象外には無関心を通り越して、寛容ですらあった。 利用価値が高い場合など、殊更その傾向が強かった。
そういった意味でプルミエールは微妙な立ち位置にいた。
聖女の資質を持つ人間は紛れもなくラグナウェルの標的である。 だがその利用価値を考えれば、壊すには惜しい存在だった。 より効率的に復讐を果たす為に、目先の復讐心は抑える必要があった。
「プルに兄さまはいないです」
「どうやら、本当に何も知らないようだな」
ラグナウェルは鼻で笑う。
「お前が姉と呼ぶシャルロット・リュズレイは前聖女エレシアムの御子ではない」
「ウソですぅ」
プルミエールが八重歯を剥いて反論する。
「お前に信じてもらう必要はないがな」
ラグナウェルがプルミエールの上半身を包む戦闘衣の繋ぎ目に指先を引っ掛けて、無造作にたくし上げる。 肌着を身に着けていなかった少女の控えめな膨らみが小さく揺れてまろびでる。 幼い乳房の先端は、先端部分のみが僅かに桜色がかかり未発達な佇まいを呈していた。
「もっと甚振ってやりたいところだが……」
ラグナウェルの視線が、プルミエールの胸元で硬質な輝きを放つ、金細工のペンダントに吸い寄せられる。 その中央には太陽の刻印が刻まれていた。
「やはり、持っていたか」
前傾姿勢になったラグナウェルの開いた胸元からも、流麗な月の紋様が施された白銀のペンダントがこぼれ落ちる。
「これが何だかわかるか?」
そして、己が持つ白銀のペンダントをプルミエールの眼前に突きつける。 材質と中央に刻まれた刻印こそ異なるが、それは少女の胸元で輝く金細工のペンダントと瓜二つだった。 いや、ふたつは左右対称―――鏡写しの形状だった。
「そんなの……知らない……です……」
プルミエールにはラグナウェルの言葉の意図を理解することが出来なかった。 少女の持つペンダントは母エレシアムの双子の妹―――プルミエールにとって叔母にあたるソフィアから10歳の誕生日にアナタの母親の形見だと渡されたものだった。 なぜ、それを自分に渡したのか、少女は深く考えることもなく受けとっていた。 母親の顔すら肖像画でしか見たことがなかった少女にとって、母の形見のペンダントは、その日からかけがえのない宝物になった。
「この月のペンダントは、お前が持つ太陽のペンダントと対になるようにと、俺たちの母エレシアムが、ある男―――俺の父親ルドルフに手渡したものさ」
「……?」
「まだわからないか? オレとお前は血を分けた異父兄妹ってことさ」
ラグナウェルは衝撃の事実を知らされ、目を丸くするプルミエールを嘲笑うように言葉を続ける。
「屍族と情を通じたオレたちの母親は、アダマストル王家と聖アルジャベータ公会の体面を取繕う為だけに謀殺されたのさ」
ラグナウェルが抱く憎悪が、正面からプルミエールへと吹きつけられた。
「後はお前次第さ。 今までお前のことを欺き続けてきた人間たち―――教会に傅くウジ虫どもに復讐する為に、自らの意思でオレたちに協力するか…」
ラグナウェルはそこで一旦、言葉を切ると、冷淡な視線をプルミエールの幼い裸身へと向ける。
「お前みたいな餓鬼は、本来、俺の趣味じゃないが、従う気がないなら、徹底的に痛めつけて服従させるだけだ」
「わからない……わからないよ」
語られた真実を嚥下できずに、プルミエールは呆然自失だった。
「……」
傍から静観していたアーネルが、初めて眼の前の光景―――ラグナウェルの顔から 視線を外した。
少女を傷つけ、懐柔する為に放ったラグナウェルの言葉が、彼自身をも深く苛んでいるように思えたからだ。 誰一人幸せになることなく、言葉が連なるごとに、聞く者は鮮血に彩られて堕ちていく。
ラグナウェルに対して同情したわけではない。 ただ救いようのない現実の只中で、自分自身を傷つける方法でしか先に進めないラグナウェルに、アーネルは己の姿を重ねていた。
「お前の回答次第で、解放してやらんこともない。 せいぜい、手遅れになる前に決めるんだな」
そう言うとラグナウェルは露出した少女の柔肌に唇を押付けて、ぷつんと吸血牙を突き立てる。
紅い線がなだらかな膨らみに線を引く。
「っ……いっ……」
未成熟な果実に食い込む二つの牙の痛烈な感触にも、プルミエールは僅かに身を捩るだけで反応は薄い。
ラグナウェルは幼い肌に張り付いた唇を離すと、あらためて妹の様子を窺う。
「さっきまでの威勢はどうした?」
ラグナウェルは殆ど肌の色と変わらない妹の乳首を含んで吸い上げる。 ざらつく舌先で弄ぶうちに、少女の意思とは無関係に硬さを増していく幼い蕾。 虚ろに焦点のぼやけたプルミエールの瞳に大粒の涙が滲む。
「ん……やぁ……母さま……」
プルミエールが苦悶の声と共に、ちいさな呟きを洩らす。
「……」
母を呼ぶ妹の姿に、ラグナウェルの動きが僅かに停滞する。 だが、それも一瞬で、凌辱の矛先は、剥きだしの腹部へと移り、そのまま下へ下へと這いずるように少女の下腹部に近づいていく。
「ぁあ……いや……やだぁーっっ!!」
受け入れきれない真実よりも、蹂躙される恐怖から我に返ったのか、プルミエールは、唯一自由になる頭を狂ったように振る。
「強情なのか、単なる馬鹿なのか、わからんが―――」
呆れたラグナウェルがプルミエールの股間を覆う薄いショーツを悪戯に睨め上げる。 そして、更なる恥辱を強いるべく、少女を守る最期の砦に手を掛けた。
「やっ……!!」
プルミエールは処女の本能で必死に、兄の獣欲から逃れようとするが、白い布切れはあっさりと取り払われてしまう。
「答える気がないのなら、骨の髄まで穢し尽くしてやるだけだ……」
血欲へと誘う甘い香りに触発されたのか、ラグナウェルの両眼に冥紅色の燐光が灯る。 徐に豪奢な紅衣を脱ぎ捨てると、死に物狂いでもがき捲くるプルミエールを乱暴に押さえつけて、圧し掛かっていく。
「ラグナウェル様……」
黙して、成り行きを見守っていたアーネルがラグナウェルの行動を咎めるように口を挟んできた。
「この少女にはまだ利用価値があります。 必要外に手荒な真似は控えるべきかと」
「俺に意見するつもりか?」
「聖女の『力』の源が如何なる平衡によって保たれているのか、それが判明するまでは果たすべき御私怨はお治めください。 無駄にこの少女の心身を損なえば、取り返しのつかないことになるやもしれません」
アーネルは遠まわしに、処女性が聖女の資質を保つ条件のひとつかもしれないと言意に含ませていた。
「ふんっ、まぁいい。 俺の気が変わらぬ内に、その餓鬼を別の場所に移しておけ。 こんな場所で斃られては元も子もないからな」
ラグナウェルは忌々しげにアーネルを一瞥すると、踵を返して地下牢を後にする。
「御意にござります」
アーネルは脱ぎ捨てられたラグナウェルの上衣を拾い上げて、静かに瞑目した。
「ぅぅ……えぐ……ぇ……ひっく……」
今まで信じてきた全てを否定されたプルミエールは、錯乱したまま、全身を震わせて泣き続けていた。