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2006.11.16

「閉じ箱」竹本健治を読んだ

テーマ：最近、読んだ本を教えて！(24648)

カテゴリ：きらきらポストモダン推理

ミステリーランドシリーズに収録されていた「闇のなかの赤い馬」が，気になる作品だったので，竹本健治の作品を読んでみた。

○ストーリー
ボクとヨタカは中学の天文学部の友人だ。2人で休みのたびにヨタカの別荘に泊まり込み，近くの病院で療養しているイチノに会いに行く。行くたびに顔色が悪くなるイチノ，そんな彼に殺人の予告状が届いた。そして雪の夜に，イチノは殺されてしまった。少年たちの友情を引き裂いたのは誰なのか？

－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－

稲垣足穂を読んでいるような気分になった。それくらい，気持ちよく文章が心に沁みてくる。日頃は同じ日本語なんだけど，美しい文章ではないものを読んでいたんだと，つくづく思った。調べると，やはりと言うべきか，竹本健治はミステリーというより，幻想文学の出身だ。

間違いなく美しく上品な文章だ。描写は的確で情景が鮮やかに展開する。登場人物の気持ちはさりげない表現で表されている。僕にとっては，宝石箱のような短編集だった。

久々に興奮してしまった。

－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－

それぞれについて簡単に述べる。

「陥穽」：雪に降り込まれたロッジで起きた殺人事件の真相は？この本の中で一番ミステリーらしい作品だ。

「けむりは血の色」：ボクとヨタカとイチノ，少年たちの友情の結末は，とてつもなく切ない。夜の描写が美しい作品だ。

「美樹、自らを捜したまえ」：美樹は，父親かもしれない人物の出身地を訪ねるのだが？一時期の三島由紀夫を思い出させる作品だ。

「緑の誘ない」：瑞希があこがれている近所の男性は，緑に染まった旧館に住んでいた。しかし，その秘密とは？ジュブナイルミステリーのような作品。完成度はもう1つか？

「夜は訪れぬうちに闇」：ボクとゴーちゃんが招待されたのは黒魔術のパーティーだった。そこで・・・萩尾望都にぜひマンガ化してもらいたい楽しい作品だ。

「月の下の鏡のような犯罪」：月夜，向かい合った2つのアパートで起きた不思議な出来事とは？乱歩だなあ。

「閉じ箱」：街で出会った男が神父に見せたのは，ガラスで出来た三角形の箱だった。しかしその中には世界が入っているのだった。悪魔のようなロジックと文章に圧倒される。

「恐怖」：恐怖心を消し去る術を施す，という賭けをした2人の男が10年後に直面した事実とは？作品としてのまとまりは一番優れているが，ややロジックに流れすぎていて，僕としては少し不満だった。

「七色の犯罪のための絵本」：赤，黒，銀，白，ラピスラズリ，緑，紫とやや変わった色をテーマにした詩のような作品のグループ。イメージが豊富で感心した。

「実験」：精神を破壊する実験の対象となった女性を監視するうちに，俺の周りに不思議な現象が起きはじめる。一連の「千尋シリーズ」の中では，最も判りやすい作品だ。

「闇に用いる力学」：俺が拾った金属片で，千尋は殺されていた。不思議な物体をキーにして，世界が一気に崩壊していく展開が面白い。

「仮面たち、踊れ」：クラスメートの千尋を相談相手になろうとしたあたしは，いつしか彼女の妄想の中に捕らえられてしまう。「千尋シリーズ」はすべてほぼ同じテーマなんだけど，少しずつ趣向が違うので，楽しみに読めてしまう。ラストの学園祭のシーンが圧倒的だ。素晴らしい完成度だ。

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