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2006.12.22

西澤保彦の本格推理短編集を読んだ

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○ストーリー
会社勤めの後に，作家として独立できた主人公は，20年ぶりに郷里に帰り，高校の同窓会に出席した。ところがその会には，死んだはずの女性が出席していた。主人公は確かに死亡記事を読んだ記憶があったのだ。やがて明らかになった真相とは？

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本格ミステリーのノンシリーズ短編集を目指し「パズラー」というタイトルを与えられたこの本だが，やはり西澤保彦のファンで無いと取っ付きにくいのではないかと思う。そういう意味で，この短編集を出版した集英社ってエライなあ。

僕は常々，良質の短編小説は必然的にミステリーに近いものになると思っている。わずかな枚数で一場面を描きあげ，かつ作品として成立させるには，気の利いた結末があることが望ましい。結末の小さな驚きに向けて，伏線を張ったり，意図的に描写を控えたり，と言う流れがあると，これはほとんどミステリーと同じになるからだ。短編小説の王様O.ヘンリーもミステリーを書いているし，「最後の一葉」も「賢者の贈り物」も結末がひねってあるし。

この作品にも，ごく普通の短編として成立するものがある。一方で，ミステリーとしても「ちょっとこれは？」と首をひねる作品も含まれている。だから正直，タイトル負けしているのでは？と言うのが僕の感想だ。

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「蓮華の花」：ふるさとに帰った作家が出会った”死んだはずの女性”の真相とは？・・・長編「夏の夜会」に似た設定，展開の作品だ。ただし，謎のポイントと，ストーリーのテーマが一致しており，短編のこちらの方が，出来が良い。

「卵が割れた後で」：アメリカの地方大学で日本からの留学生が殺された。犯人は同じ日本人なのか？・・・西澤保彦お得意の”留学生モノ”だ。刑事たちに魅力があって面白いんだけど，謎解きのヒントが目立ちすぎていて，すぐ分かってしまう。残念。

「時計じかけの小鳥」：高校からの帰り道，ある本屋の前を通ったとき，奈々の親友・満智子の言動がおかしくなる。その本屋で手に取った書籍には，奈々の母親宛のメモがはさまれていた。・・・日本の警察ここまでバカじゃないだろう？西澤保彦らしい作品なので，なれない人は，「それで真相はどうなのよ？」と問いたくなるだろう。まあ，主人公が元気だからいいんじゃないかな？？

「贋作『退職刑事』」：別れた妻を言い争いの末殺してしまった男。しかしその事件の真相とは？・・・都筑道夫の「退職刑事」シリーズのパスティーシュだそうだが，僕にはどれくらい似ているか分からない。犯人や被害者たちの行動が極端すぎて，コミカルなのか，ダークなのか分からないなあ。

「チープ・トリック」：街の乱暴者スパイクが首をはねられて殺された。スパイクの手下のゲリーはトレイシィと謎を解こうとするが？・・・いくらなんでもこのトリックはないでしょ？しかも伏線見え見えだしなあ。雰囲気は初期のSFミステリーに似ている。

「アリバイ・ジ・アンビバレンス」：自宅に押し掛けたクラスメートに乱暴され，彼を殺してしまった少女。しかし僕はその時間，別の場所で彼女を見ていた。・・・キャラクターがマンガ的で，魅力的なんだけど，その分もう1つ安っぽいカンジを受ける。ミステリーとしては悪くないが，内容に救いがない。

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