消失を彷徨う空中庭園

消失を彷徨う空中庭園

第十三章 情報


「教授、まず何を探したらいいかしら?」
「できれば全ての情報をこちらに転送したいが。施設はアメリカ政府機関にすぐ調べられるだろうから、明日にでもネット回線は遮断される恐れがある。だとしたら、それまでに何とか手に入れる方法はないものだろうか」
「難しいでしょうね。フリーパスがあるとはいえ、向こうもデータ流出を防ぐ仕掛けを用意しているでしょうし。それに、膨大なデータを全て入手するのは困難でしょう。時間も少ないとしたら、重要なところだけに絞るべきでしょうね」
「ふむ……」

 しかし、何が重要なデータかは読んでみなければ全く判断できない。だが、一つ一つ開いて選り分ける時間もない。
 サラは、最近の映像データを検索した。そして、オアシスフラワーの映像記録のファイルを見つけた。すぐにそれをダウンロードした。
 再生された画面には、躍動する花の様子が映し出される。研究員が、不気味にうごめく花の周りで何やら話をしている。
「花の様子がおかしいようだが」
「そうですね。でも、彼らは平然としてます」
 確かに、花は不気味なうごめき方をしていた。しかし、どの研究員も特に気にとめる様子もない。しかし、花の動きの様は、サラから見て異常だった。
 もしかしたら、薬物の投与実験をしているのかもしれない。前に少しだけ聞いたことがある。彼らは花を動物であると仮定して研究していた。植物と動物の特徴に関するデータを集める実験なのか。画像がかなり荒いので細部はほとんど見えない。しかし、薬品棚が多く並んでいる。
 その部屋を見て、田島は渋い顔をした。
「これはかなり危険な実験だね。相手は殺人植物だ。私ならあんな軽装で近づくことすら嫌だけどね」
「彼らは、多方面から検証することが得意なチームです。もう、危険性に関するデータは調べ尽くして把握している自負や、あるいは奢りのようなものがあったのかもしれません」
「私に言わせれば、悪いがずさんな研究だね」
 しかし、サラは別の感想を抱いていた。彼らは、知っているのだ。花を正しく扱うことさえできれば、この花は全く無害な存在であることを。
 だが、花の様子は明らかに緊張していた。襲いかかる寸前の姿勢に近い。それでもなおおとなしくとどまっているのは、研究員によって操作されているのだろう。薬物か何かで。

 その間に田島もパソコンのキーボードを高速で叩いていた。
「別回線からも接続できそうだ。回線が二つも接続に成功すれば、もっと多くの情報を得られるかもしれないね」
 サラは、田島がどうしてこのような技術を持っているのかは知らない。ただ感嘆した。行動の早さも正確さも、いつも常軌を逸している。
「教授。随分と手慣れたものですね」
「当然だ。私は、向こうのデータが欲しくてたまらなかったのだ。今までずっとね。欲を言えば、君が持ってる資料も全て欲しかったほどだよ」
 田島は諧謔を込めて笑って見せた。今までサラが見たことない顔だった。
「あら。言ってくだされば、私のファイルなら全てコピーして差し上げましたのに」
 倣ってサラも悪戯っぽく、心にもないことを言った。

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: