Rin's

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うらめしや富士山。

私は富士山をきちんと見た事がない。
生まれも育ちも関東なのだから、見に行けなかった訳ではない。
・・・見に行ったが見られないのだ、いつも。

誰に聞いても富士山を見た事があるという。
それも「絵葉書に印刷されているような雪化粧をした青い富士山」を見た事があるというのだ。
一度しか富士山を見に行った事が無いという人でさえ。
私は過去5回、富士山を見ようと山梨静岡方面へ行った事がある。
綺麗な富士山が見られるというペンションや、河口湖、箱根。
どこも私が行くとことごとく雨、雨、雨。しかも大降り。
富士山の「ふ」の字も見えやしない。
遠くからでも拝みたいと東京タワーに登っても、雨。
都庁に登っても、雨。
不運というより、富士山に避けられているとしか思えない。
私みたいなヒヨっ子にまだ日本一の山を拝む権利など無いというのか。
横暴なり、富士山。

富士山も見た事が無いまま私は結婚し、1人暮し生活を抜け新しいアパートへ移った。
横浜はほとんど平地が無く、高台を切り開いた段々畑のような急斜面に家が建っている。
アパート自体はそんなに高台にあった訳ではないのだが、玄関を出た共用廊下からはわりと遠くまで見渡す事ができた。
遠くの団地群や、灯台のようなものも見えた。
「もしかしたら?」私はそう思った。
ここから富士山見えるんじゃ・・・そんな期待を胸に、朝早くそうっと廊下に出て外を見てみた。
・・・いた。日本一の山は朝日に神々しいまでに光りながらそこにいた。
夢にまで見た富士山が、まさかこんな所で拝めるとは。
ああ、結婚万歳。
あまり関係ない事にまで感謝しつつ私は初めて「絵葉書のような富士山」を見る事に成功した。

喜び勇んで、アパートの近所に住む同じ職場の友人にその事を報告した。

「見えた!見えたんだよ~!すごいね!富士山!!」
「ああ、見えるよね~あそこならちょろっと。・・・でもね、本物はあんなんじゃないよ」

・・・26年かかってやっとこ拝めた富士山を偽物呼ばわりするのか。
しかし、もっとすごい富士山の姿を周りは普通に何の苦労もなく見ている。
私程度にはまだこの程度しか見せられないとでもいうのか、富士山。
日本一だと思ってお高くとまっているのではないか。
うらめしや、富士山。

私の富士山への挑戦はまだ続いている。


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