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臥雲県-ただ一つの森の中-
第十七説 中編
「元は何の動物だよ!!」
「元々?レッサーパンダやけど。」
「ぐおぉぉ!!!」
再び雄叫びをあげた。
「いや、違うだろ!!」
今回活躍できそうもないラキは、つっこみ役に徹底する。
「今は変化した姿なだから。ぬいぐるみに。」
「ぐおおぉぉぉ!!!!」
三度叫ぶ。
「叫んでるけど!?」
「意思を持っとるぬいぐるみなんよ。」
「ってことは・・・。」
「せやな。動くよ。」
ぬいぐるみが立ち上がった。水草先生、のどかの背景から喫茶店が消える。
「でかっ!!そして、天井高っ!!」
座ってただけででかかったのに立ち上がると更にでかい。ゆうに10mは超えてる。それでも自由に身動きができる天井の高さにラキはつっこむ。そして、ぬいぐるみは振り向く。
「どんな顔してんだ・・・。」
ラキは息を呑んで、どんな顔をしているのかをみる。その顔はかわいらしいクマだった。
「いや、顔おかしいわ!!」
「ギャオオ!!」
かわいいクマの顔で叫ぶ。
「迫力なくなったわ!!幽海、勝てるぞ~。」
「がんばる。」
ぬいぐるみに向かって、幽海は《狼蜂》を持って走った。
「やられる前にやったるわ。なぁ、ミク。」
「女の子かよ!!」
ミクが右手を挙げ、走ってくる幽海に振りかざす。だいぶ距離があったが、動かなくても、手を動かすだけで届く。なんておおきさだ。しかも、速い。幽海はなんとか《狼蜂》でガードするが、勢いに負け、ふっ飛ばされる。すごい速さでラキ、村雨の横を飛んでいく。幽海を目で追いかけたのは、横を通りすぎてから2、3秒後。その時にはもう、幽海は小粒のような小ささで、コンクリートの壁にめり込んでいた。
「ぐっ・・・。」
その幽海をかばうかのように、雪が幽海の下敷きになっていた。頭からは血が。
「セッちゃん!!?」
幽海は壁にめり込んだ雪の手を取るが、雪に払われる。
「(ちっ、肋骨2、3本イッたな・・・。あと・・・ちっ!意識がやべぇな・・・。)大丈夫か。」
「う、うん。ぼくは大丈夫だけど・・・。セッ・・・」
「よし、じゃあ、いくぞ!」
幽海の無事を確認すると、雪は幽海の心配の言葉をさえぎって、《狼蜂》に変化した。少し戸惑いながらも幽海は《狼蜂》を手にし、風鳴の元へ走っていく。
「・・・おい、猫無、起きろ。」
それでも起きない猫無に、ラキが腹に拳を入れた。
「起きたか。行くぞ。」
「・・・のどか、萌え~・・・。」
起きたものの、ラキの話しをあまりきいてない猫無。それにイラつき、もう一発、腹に拳を入れる。
「な、なにさ・・・。」
「行くぞ。」
ラキが《三日月》に変化した。腹を押さえながら、《三日月》を手にする。
『相手は思った以上にやるぞ。おそらくだが、ぬいぐるみであの速さってことは、両手両足に石かなんか、重いもん入ってるから、気をつけろ。』
「気をつけるって・・・?」
『攻撃は受けようとするな。避けろ。』
「了解!」
攻撃してきたときに備えて、ミキからできるだけ離れて、《三日月》をブーメランみたく、投げつけた。
「マズイ!肩で受けろや!」
肩で受けるように命令する、風鳴。その命令どおり、ミキは肩で受ける。《三日月》は猫無の元へ。切れた肩から、綿が飛び出す。
「ちょっと待っててや。」
風鳴は先ほどのクレーンを操作し、自分を掴むと、ミキの肩まで、運ばせた。そのあと、リモコンを取り出した方と逆のポケットから小さめの手芸セットを取り出す。そして、すごい勢いで切れた布を縫い合わせていき、あっという間に元通りに。
「よっしゃ!このままいくか。な?」
「ギャオオオオォォォォォ!!!!!!!!」
「くう!気をつけて!」
だいぶ後ろを走っていた幽海が猫無の隣にようやく着く。
「おれは大丈夫だ。遠くから攻撃できるから。幽海こそ気を付けろよ。」
「・・・うん。」
この間、ずっと幽海には雪の辛そうな荒い呼吸が聴こえていた。
『猫無!村雨に幽海のサポートをするように頼んでくれ!』
「え~、自分でいえばいいじゃん。」
『ったく・・・。』
ラキは《三日月》から戻る。
「村雨!幽海のサポート頼むな!たぶん、バカ犬は自分の意識保つのに精一杯なはずだ!」
「おお!任せろ!!」
「頼んだぞ!!・・・っと、そうだ。」
「・・・いって!」
ラキが猫無を殴った。
「あんまり調子のんなよ。」
そして、《三日月》に戻る。
「すいませんでした。」
猫無はもう武器になっているラキに向かって謝っていた。
「んで、また、投げればいいんでしょ?」
『いや、そんなんじゃダメだ。近づいて、あの何か入った両手両足を切るぞ。』
「ええっ!!?」
急に弱気になる。
『大丈夫だ。なんとかなる。』
「いざとなったら助けてよ。」
『まかせろって。千葉ロッテ。』
猫無が溜め息をついた。
「(何話してるんだろう?)」
幽海は猫無とラキがなにを話しているのかわからないので、なんで溜め息をついたのかわからなかった。その分気になった。
「・・・古いって、ギャグが。」
『おまえの親父さんがいってたんだけどなぁ。』
「もう言うのやめたほうがいいよ。親父のギャグ。」
『了解!さぁいくか。』
「おお!」
このとき猫無には不安だとか恐怖だとかそんなことは感じなくなっていた。おれにはラキがいてくれる。それが猫無の自信に繋がる。
猫無と幽海は走り出す。風鳴とミキの元へ。
『とりあえず、おれらは、手を狙う。それを幽海に伝えろ。』
猫無はうなずいた。
「俺達は手を狙う!」
少し減速する。足に気をいかせてから攻撃に移るつもりだ。
「わかった!」
「幽海!悪いがしばらく1人でがんばってくれ!攻撃パターンを見極める!」
「わ、私がッ!!」
ミキの後ろからのどかの声がする。こんな大声出したのはプリンセスホテル以来だ。
「私達がサポートするわ!!でしょ?」
「うん。」
水草先生がメガネに変化する。久々に水草先生の力を使う。
「頼むね!」
「ミキ。」
幽海がミキの手が届く範囲に入ると、すぐに風鳴が攻撃するように命令した。
「右手で下から上に真っ直ぐ、幽海君に攻撃してきます!!」
「わかったよ!!」
のどかが次の相手の攻撃をいったところで、後ろにミキが右手を引く。
「(もう移動したほうがいいんだよね。今からなら横に移動しても調節されないよね。)」
幽海がミキに近づきながら、少しずつ右に動いていった。ミキの右手が動く。あっという間に後ろだった手が前に移動する。
「幽海!!」
まだ右に移動している途中でミキの右手が幽海に襲い掛かった。
「くっ!」
雪が《狼蜂》から人に戻り、向かってくるミキの手を足で蹴る。なんとかミキの攻撃を避けきった。
「セッちゃん!!」
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・。」
黙って《狼蜂》に戻る。
『(やべぇな。思ったよりだいぶひどい。早く終わらせねぇと。)おい、びょ・・・。』
「幽海!今は足だ!」
「で、でも・・・」
村雨が声をかけた。ラキが猫無を通して声をかけようとしていた内容と同じだ。
「早く終わらせてくれ!!」
もう一言かけた村雨の言葉で最初の言葉の意味を理解する。早く終わらせて雪を楽にしてくれと村雨は遠まわしにいっていたことを。
「うん!!」
再びミキに向かって走り出す。
「今度は左手でさっきと同じです!!」
のどかから次の攻撃をきいた。もう同じへまはしない。左手を後ろに下げた瞬間、真左に思いっきり走って、そしてミキに向かって走る。
「ミキ、あかん!」
風鳴が止めるがもう遅い。左手は止まらない。左手が空を切る。ものすごい風が幽海の髪をなびく。
「ミキ、次いくで。」
風鳴はミキの肩から降りた。
「次は右から左へスライドさせてきます!!」
『まずい!!猫無!おまえはとりあえず戻れ!!』
「幽海は!?」
『今から戻っても、間にあわねぇ!!』
ラキが走って幽海の元へといっても、戻ってこれない。
「どうしよう!?」
『く・・・。』
ラキもどうすればいいかわからない。
「とにかく走れ!!」
「!?」
「全力で走って、ミキの足元までいけ!!」
村雨がいうには、腕の内側までいけということだ。今の幽海の位置からだと、幽海の足からは厳しいものがある。だが、可能性がないわけじゃない。今までの自分を超えられれば、可能性がある。
「走れ!!!!」
幽海は走った。周りから見れば遅いのかもしれないけど、自分の中では今までに無いくらい全力だった。ミキが腰を落とし、右手を動かし始めた。まだ距離がある。ミキが腕だけでなく、腰をひねる。錘が入っている腕では、重くて勢いがつけられないからだ。もう少し、もう少しで透き間にもぐりこめる。とうとう、ミキが動き始めた。腕の付け根の部分以外はべったり床についていて、しゃがめば避けれるわけではない。床にこすり付けていながらも、上から下、下から上の攻撃の時とあまり変わらないスピード。
「やばい!!」
「うああぁぁぁ!!!!」
ミキの腕が幽海を通りすぎる。
「は?」
ミキの腕が完璧に右から左に振り切られた。砂煙が舞う。
「幽海!!」
砂煙がだんだん薄くなっていく。ミキの足元で幽海が転がっていた。
「よかった!!ホントよかったぁ!!」
ギリギリで飛び込んでなんとか攻撃を避けられていた。
ドスン!!
コンクリートに叩きつけられた音。
「誰だ!?・・・猫無!?」
「いってぇ・・・。」
猫無が壁に叩きつけられていた。
雪と同じくらい壁にめり込んでいる。そうとうなダメージであろう。ただ、雪と違うのは幽海役の人がいない。背中の痛みだけで、お腹の痛みはないということだ。はて、ラキはどこにいったのであろうか?
「・・・いた。」
《三日月》は壁に刺さっていた。
「うっわ!やられた!」
風鳴の声。今度はなにごとだ。
「どないしよう、これ?」
ミキの右手から岩がこぼれていく。風鳴の力ではどうすることもできない。
「やった!だれだ?猫無だよな?どうやって?」
「それはおれから。」
「おお!?ラキ!?」
いつの間にか《三日月》から戻っていた。
「ミキの攻撃が始まったとき、皆、幽海に注目していて気付かなかっただろうけど、ミキの腕が猫無に当たってんだよ。んで、猫無が攻撃された時に防御に使ったおれを、とっさに投げて、ミキの腕に当てたんだ。だからミキの腕が切れ、中の錘、つまり岩が出てきたわけ。猫無の驚異的な反射神経が役に立ったわけだ。」
そういい終わると、ラキは猫無の元へ走り出す。
「よっしゃ!これで、少しは楽になった!猫無もやるときゃやるんだな!・・・っと、幽海!」
「もうやってる!!」
今度は猫無に注目がいってるときに、幽海の活躍。ミキの両足を《狼蜂》で切り、こちらも岩がミキから溢れ出てきていた。ミキはもう座っているしかなかった。
「あかん。もう負けや。お手上げや。」
岩を全部出してから、縫い始める。縫い終わると、レッサーパンダの姿になる。
「ん?なんだ。勝ったのか?・・・よっしゃぁ!!!」
「セッちゃん!!」
「猫無!!」
「おっと・・・大丈夫か!?二人とも!?」
村雨は強敵との勝利のうれしさのあまり、猫無と雪の大怪我のことを忘れていた。二人とも勝った瞬間意識をなくしていた。
「・・・とりあえず、死にはしないかな?」
水草先生の適当な診察。
「よかったぁ・・・。」
それを真に受ける幽海。んまぁ、本当に死にはしないだろう。雪の場合は入院ものだが。
「大丈夫か?ごめんな。」
風鳴が顔を覗かせる。
「大丈夫だよ。勝負だしね。」
「そういってもらえると楽やわ。」
「あ、あのっ!!」
「ん?」
メイド服姿ののどかが風鳴に声をかけた。
「ふ、服をっ!!返してくださいっっ!!!」
「え~。着てまうの~?・・・ちょっと、服なくしてしもうて、この服きぃひん?」
風鳴が取り出したのは、男物のワイシャツ。大きさも大の大人用だ。
「ほ、ほんとですか?・・・下はないんですか?」
「残念ながらないんよ。でも、でかいからええやん。」
「いやです!!!」
「そうかぁ・・・。(今度から下も用意しとこ。)いたっ!!」
風鳴が頭を殴られ、後ろを振り向く。さっきまで気絶していた猫無が起き上がっていた。
「あるんだろ?服。」
ものすごい殺気だ。風鳴はものすごい勢いで、首を上下に動かす。
「出せ。」
「は、はいぃぃ!!」
どこから出てきたかわからないが、最初のどかが着ていた服を取り出した。そして、誰にも見られず着替えるため、右手両足を負傷しているミキをでかいぬいぐるみの姿にし、その影で着替えてもらう。ようやく、のどかは普通の姿になることができた。戻ってくると、猫無はまた気を失っていた。
「・・・お、おそるべし、愛の力。」
猫無はメイド姿ののどかもいいが、服がなくて悲しむのどかを見ていられなかったのだ。
「うっ・・・。」
「セッちゃん!!」
雪の目がさめる。
「お、倒したのか?どうやって?」
風鳴を倒したと同時に気を失った雪だったが、それは倒してホッとしたからではなく、限界だったようだ。後半の意識はない。
「おれが1人で、パパッ!っとやっつけてやった。感謝しろ、チワワ。」
「誰が弱そうだ!!!っ!!」
「だから、他の犬に例えるのはやめろ。かわいそうだろ。」
「いてて・・・。」
叫ぶと骨に響く。
「ええなぁ・・・。仲間って。」
指をくわえて、猫無達を見つめている風鳴。
「おれも入れてくれへんやろか。」
「「「「「「はぁぁ!!!!?」」」」」」
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