放浪の達人ブログ

自由人

  【自由人】

5月下旬、俺はオーストラリア人のデイヴと南アルプスにある冬期避難小屋にいた。
長野県南部とはいえ5月の3000m前後の山はまだ雪と氷の世界である。
コンロで雪を融かしてコーヒーを飲んでいると年配の単独登山者が入って来た。
その夜は持参したランプの下で色々と楽しく3人で語り合ったのだが、
デイヴはニホンゴワッカリマセ~ン、年配登山者は英語がわからないので
俺が通訳をして会話は成り立っていた。しかし俺の英語力はズバリ言って悪い。
高校時代は赤点ばかりだったし、今でも息子が英語の宿題の答えを訊いて来ても
「お父さんはちょうどその日は特別な用事があって学校を休んでいた」とか
「すぐに答えを教えたらお前のためにならん」とか言ってごまかしているほどだ。

その年配登山者は退職した後にキャンピングカーを買って日本各地を回っている自由人だ。
観光地に行く時は奥様同伴だが、山にはいつも独りで登ると言う。
奥様はちょっと太っておられるので「山登りはどでもじゃねえが無理だんべえ」だそうだ。
麓の駐車場まで一緒に下山した時にそのキャンピングカーの内部を見せてもらった。
キングサイズのベッド、壁面をひっくり返せば上部にシングルベッドが現れる。
簡単なキッチン、万一の時のためにポータブル洋式便器までが揃っている。
静かな所に車を停めて抹茶をたてて飲むのも好きだそうだ。
男ってそういうのに憧れるんだよね。家族から離れ(正確には家族がついて来てくれず)
気の向くままに車を走らせ旅をする。(言い換えれば車に乗った浮浪者)

さて、それらの彼の話を英語がダメな俺はデイヴに訳していく。
「彼が言うには、俺は風の吹くまま日本中を旅する自由人だ。今夜の宿も決まっちゃいねえ。
時々は女房も小旅行に連れて行くさ。このキングサイズベッドは女房用。
なんたって女房はデップリと太ってるからな。上のシングルベッドは俺用さ。
車のスプリングは硬くしてある。女房が乗ると車の腹が地面をガリガリ擦っちまうからな。
燃費もすげえ悪くなっちまう。繰り返し言うが俺の女房はどえらい体重だからな。
だから俺は大抵1人旅だ。このトイレを運転席に置いてクソしながら運転するんだ。
運転中にクソしながら抹茶を飲むってえのは気分いいぜ。なんたって俺は自由人だからな。」

まあ多少の誤訳はあっただろうがデイヴは「スゲエ!」と笑いながら聞き入ってたよ。
おっと、デイヴ、あんたの事も相手には「金がなくなるとライフル持って森に入って行き、
鹿を撃って暮らしてる浮浪者ハンター」ってテキトーに紹介しといたぜ。
年配登山者さんも「スゲエ!」って聞き入ってたぜ。
いや~、通訳って案外おもしれえな。


【その時の日記と写真】


ランプで過ごす避難小屋


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