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私: われわれは、なんとなく日本語を使っているが、その使い方を改まって考えると説明に困ることがあるね。
この「目線」と「視線」の違いもそうだ。
知的な興味が湧いて、ついでがあったので図書館である程度調べたんだが、そうだね、まとめておきたいね。
A氏 :両方とも同じ意味ではないの?
私: そう簡単ではないみたいだね。調べるとね。
どうも、新しい言葉らしいね。
1984年に出版された 矢野誠一氏の「芸能辞典」 によると「『 目線』は国語辞典にはない言葉である。
カメラでとるときに、目線はここにきめてくださいなどという 。」とある。
例えば、ミュージカルの「マイフェアレディ」では多くの踊り手が踊るとき、 目線が違う人がいると目立つという。
それで客席の後の方に目線を合わせるスポットライトをつけるという。
A氏 :この場合は視線と同じだろうね。
私: 矢野氏が辞書にないというが、確かに 1980 年の三省堂の「新明解国語辞典」 にはない。
1988年の「大言海」 にもない。
ところが 、「広辞苑」第5版・1998年発行 にはあるね。
「 視線。もと、映画、演劇、テレビ界の語 」とあるね。
「大辞林」1988 年にもあるね。
「広辞苑」と同じ説明だ。
A氏 :どうも、 テレビ全盛となる1990年代になって市民権を得てきたようだが 、意味は視線と同じだね。
私: 業界用語だと思い、 米川明彦氏の「集団語辞典」(2000年発行) を見たら次の2つの使い方が載っている。
1.テレビ
カメラの目線。出演者がカメラの方向に視線を向ける。「目線をください」
2.テレビ・出版
目の部分を黒い帯でかくすこと。
関連した使用例「目線を読む」-- 登場人物が画面の外にいると想定される人や物の動きに合わせて視線を動かす。
A氏: 目の部分をかくすという新しい使い方 が登場したね。
私: 小学館の「日本国語大辞典」 は、20巻くらいある大辞典だが、2001年の発行だから、次のように「目線」の説明は詳しいね。
1.映画・演劇などで演技者が目を向ける方向 ・「 笑解現代楽屋ことば 」中田昌秀著1978年発刊による。
「 楽屋のことば 」(戸板康二著1984年発刊)では演技者が演技中に月を見上げたり、山を眺めたりするときの目のつけどころをいい、視線とは言わないとある。
2.転じて、一般に視線のことをいうとある。
A氏 :ここでは「目をかくす線」の説明が抜けているね。
私 :2003年の 「日本俗語大辞典」(米川明彦監修) も比較的詳しいね。
1.演技者の視線の向いている方向。
演技の重要な表現手段として、目線をしっかりときめなければならないという例をあげている。
2.1996年12月19日の朝日新聞夕刊(大阪支社)の記事 として「『 行革は住民の目線で 』など、紙面によく登場する『目線』という言葉が気になる、との便りをいただいた。視線や視点という言葉があるのに、目線を使うのは 即物的な表現 だし、耳障りだというのが趣旨。
3. 2003年「 やっぱ男は顔でしょう 」(内藤みか著・エッセイ)で「 目線だけで、いや目線なんか投げなくても 、その場にいるだけで、美男子は女心をとろかす何かを持っている」という表現を紹介しているね。
A氏: 何か「 行革は住民の目線で 」は視線の意味で使っていないようだね。
私: そこで、 三省堂・国語辞典・第5版・ 2001年登場するね。
この辞典がきわめつきだね。
次の3つをあげている。
1.演劇・テレビなどの業界で視線のこと 。「--が合う」「---をはずす」
2. 公開写真の目に太い線をいれ誰かわからないようにする 。「---を入れる」
3.(その人の)ものの見方、とらえ方 。「幼児のーー-で見る」
A氏: 3.が追加になったね。
「行革は住民の目線で」は3.の意味だね。
「 住民の立場で考える 」という意味だね。
2001年当時でよくこれだけまとめられたね。
私: 1.の使い方は視線でも代用できるが、映画、演劇、テレビ業界は目線になれているからこだわるだろうね。
カメラ撮影をする人も目線を使う例が多いね。
3.では何かわれわれは無意識に使い分けているようだ。
例えば「 首相の目線で 」という使い方はしないのではないの。
どうも、 同じレベルか下のレベルに使うようだね。
だから、テレビキャスターが「 視聴者の目線で 」というときは、視聴者が下という意識が無意識にあり、腰を落として、目の高さを視聴者と揃えるという意味じゃないかと思うね。
それをいうと、キャスターは「いや、視聴者はお客さまです」というかもしれないがね。
背伸びして、目の高さを地位的に高い人の位置に維持する場合に「目線」は使わないのではないの。
A氏 :どうも日本語はむずかしいね。
私 :即物的な表現としては、英語に、「見る、目に留める」に 「 lay eyes on 」というのがあるよ。
目を見ようとするものに乗せるイメージだね。
A氏 :ブログで「 目線 」を索引すると、すごいね。
ランニングしている人のブログがあったが、走っている間、いろいろな建物などを見るのも目線、足元を見るのも目線、全部、目線だったね。
私: そういうのは、視線のほうがニュアンスとして合うのではないかね。
まぁ、人生いろいろだね。![]()