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2008.11.08

筑紫哲也がいない世界

テーマ：ニュース(95898)

カテゴリ：ニュース

筑紫哲也
７３歳だった。

筑紫哲也さん死去：「沖縄の恩人だった」県内関係者言葉失う（毎日新聞）

０７年に肺がんが見つかり、番組を降板。
以後は特別出演の形を取り治療に専念したが、がんは転移してしまっていた。

筑紫はもともと朝日の記者だった。
それがアンカーマンとしてテレビに登場した。
（ＮＥＷＳ２３が始まったのは８９年から）

テレビに登場するようになってからも、彼はスタンスを変えようとはしなかった。
反戦、沖縄、原爆、そして反権力。
ネットなどで右翼の意見が増える中、そうした意見は貴重だった。
ジャーナリストとして好奇心が磨耗しないこと。
それがどれほど大切かを彼は自分自身で物語っていた。

彼がクロンカイトを手本としていたことについては、以下のページに書いた。

報道～クロンカイトと筑紫哲也～

クロンカイトは「ニュースでない意見」でベトナム戦争を批判。
彼の言葉がアメリカの敗戦に結びついた。

筑紫は「報道は客観であるべきか」ということについて考え、答えを出した。
それが「多事争論」という形になった。

だが、筑紫がイラク戦争に批判的であっても戦争終結には直接結びつかなかった。
筑紫はクロンカイトにはなれなかった。

テレビで筑紫のことをいろいろ語っている。
にもかかわらず、クロンカイトとの関係を前面に出さないのはどうしたことか。
私には理解に苦しむ。

クロンカイトは第一線から去り、ダン・ラザーが後任となった。
ラザーのライバルはＮＢＣブロコーとＡＢＣのジェニングス。
しかし、ジェニングスは２００５年８月７日に亡くなった。
筑紫と同じく肺がんだった。
環境問題を語る人が、自身で禁煙できないのは矛盾を感じる。

筑紫にとって最近の危機は９６年。
９５年にＴＢＳがオウム真理教の関係者に坂本弁護士へのインタビューを見せていた。
筑紫はＮＥＷＳ２３で 「ＴＢＳは死んだに等しい」 とコメント。
しかし番組降板や打ち切りなどにはならなかった。
筑紫自身が語っているように「カッコ悪い」選択をした。

０４年５月には年金未納問題で出演を控えた。
しかし彼は戻ってきた。

山本モナの降板については、批判されても番組に戻るべきと考えていたのだろう。
「残念です」という一言がそれを表している。

彼の死に関して、いろんな人がコメントしている。
鳥越俊太郎 は筑紫のことを「座標軸」と表現した。

「久米宏と筑紫によって、ニュースはニュースショーになった」

これは正しい評価だ。
挑戦的な久米と、久米に比べて控え目な筑紫。
表現は違っても、彼らは日本のニュースを変えた。

「多事争論」は私にとって「座標軸」ではなく「叩き台」だった。
何でも筑紫の言うことを信用するのは私にはできないこと。
彼に足りない部分はたくさんあったし、間違っていると感じたことも少なくない。
しかし、「筑紫がこの事柄についてどう考えているか」ということは気になった。

多くの人が、筑紫の意見を必要としていたのではないか？
夜寝る前、風呂上りに筑紫の意見を聞いて眠る。
それはある種、精神安定剤の役目を果たしていたのかもしれない。

では、筑紫亡き後の世界はどうなのか？
多くの人は、「自分の意見がどこに位置しているのか」が気になる。
特に日本人は他人との違いを気にする。
「少数意見であること」を気にしたがる。
多くの場合、「多数派でいたい」と思っていしまう。
それが日本人だ。

筑紫がいなくても太陽は昇る。報道がなくなるわけではない。
それでも今後は自分の位置を自分で見つける必要がある。
そこに筑紫の存在する意味があった。

筑紫の冥福を祈る。合掌。

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