日常の記録

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精霊流し


ところが夫が旅立って2ヶ月後、今度は夫の叔父が急逝してしまった
義父と叔父とで電話で夫の精霊船の打ち合わせをしていた直後の事だった

夫の故郷は長崎
さだまさしの「精霊流し」にあるように、長崎の人間にとっては、「通夜の席で精霊船の打ち合わせをする」というくらい、重要な事らしい

周りの若い衆が「叔父さんのためにでっかい精霊船を出そう!」と盛り上がり、そこに便乗させて貰うことになった


最初、義母からその話を電話で受けたとき、私は断った。
「彼の船なんか出したくない!」電話口で泣いて・・・義母は「ゴメンね、ゴメン、、、あなたのいいようにしてかまわないから」と言ってくれた

夫は故郷のお祭りのような精霊流しが大好きだった
結婚してから私も二度ほど見たけど、一見の価値がある
でも、まさか彼の船を出すなんて・・・・
だけど新盆の人だけが参加できる精霊流し、彼の船を出さなかったらずっと後悔するに違いない


一体どれだけの人が協力したのか、100人以上いたに違いない。大勢の力をあわせて、三連の大きな船が出来上がった
「流す」とは言うけど、船には車輪がついていて、実際には道路を延々と港まで押していく。
「♪そして黙って、船の後を・・・・ついて行きましょう♪」の歌の通り、悲しくて船の後を歩くのは耐えられない!

と、思っていたらとんでもないことでございました!

長崎の精霊流しは、道々大量の爆竹やらロケット花火を飛ばしながら歩く。
爆竹は手で持ったまま鳴らしたり、ワザと人の足下に投げたり、警備してる警官に向かって放ったり、、、、とにかくハンパじゃない!
飛ばしたロケット花火で、周りの家が火事になったこともあるらしい
耳をつんざくような爆竹の音と、煙、、、会話してる声も聞こえないくらい。
爆竹と花火のすごさを競ってる、と言っても良い。(聞けば爆竹代だけで35万円使ったらしい)

裕智は最初は怖がっていたけど、そのうち燃え残りの爆竹を拾うのに熱中し出す。
美佳莉も「お父さんが喜ぶから」と、手に持った爆竹に火をつけて投げる

うちの船の後ろには、偶々ヤ○ザさんの船がいて、さすがヤ○ザさん、
お金かけて立派な船を出している。
で、若いモンが粋がって、段ボール一杯の爆竹に火をつけては頭の上に掲げて走り回ってる・・・・・・と思ったらそれをこっちに投げてくる!
・・・・美佳莉の頭に火がつく・・・・それをこちらの若い人が駆け寄って叩き消す・・・・



ゆっくり悲しんでる暇などありませんでした



そう言えば家の前から出発するときの言葉が「喧嘩をしないこと」だったもの
あちこちの家、路地から思い思いに船が出てくるため、出会ったときに「どちらが道を譲るか」で、昔は大分喧嘩もあったらしい
船の先頭を取れるのは、そういったときに相手と交渉したり話をまとめられるような人間じゃないとダメなのだ

この辺では、お盆のお墓参りの時も、お墓でバンバン爆竹とロケット花火を飛ばす
文化が違うなあという気がする



長い時間歩いて、でも実際には大した距離じゃないはずだけど、港にたどり着いた
で、そんな巨大な船を何隻もまさか海に流すわけにはいかないので、どうするかというと、でっかいクレーンでガシャーンとたたき壊してしまうのだ。
当日の昼まで一生懸命叔父さんと夫のために思いを込めて作った船、
一瞬のうちにたたき壊される様は、さすがに心が震える思いだった

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