Sakinko Diary

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プレゼント



校舎から出たとたん、肌に当たる冷たい風。
最近、急に寒くなった。

「冬本番だよな~。そろそろ雪降るんじゃね?」
「まだそんな寒くないって!」
「え、お前マジで言ってる?12月23日だよ、冬だよ、冬!」

俺のすぐ隣には、この寒い時期に制服のワイシャツの上にカーディガンしか着ていないという、まったく季節感のないやつがいる。
椎名雪稀―俺が部長を務める、陸上部のマネージャーだ。

「もう、陸上部部長がそんな弱弱しくってどーすんの!?寒くないって!」

男勝りで、サバサバしてて、ほんと、男みたいな性格。
ま、だから陸上部マネージャーなんてやってられるんだろうけど。

「…はいはい。でも、部長だからって貴重な休みに呼び出しって…最悪」
「な~に言ってんの!休み明けの練習メニュー決めんのは部長の仕事でしょ」

ほんと、こういうところはちゃっかりしてやがる。
でも、呼び出されたのは実は俺だけだったんだけど、雪稀は私もマネやってるんだし、とか言って、部活は休みなのに一緒に学校まで来てくれた。
そういう優しさに気づいてはいるものの…なかなか素直にありがとう、といえない。ただ一言…それがなぜか難しいのだ。

「にしても、寒いよな~」
「だから寒くないって!あ、私冬生まれだから、寒さに強いのかな?
 なっちゃん、夏生まれだから寒さに強いんじゃない?」
「いーかげん、その呼び方やめろって」

なっちゃん―俺の本名は、今井夏樹。雪稀は、一年の時席が隣で、クラス分けのプリントを見ながら、俺に

「…いまいなつき…くん?これからよろしくねっ」

と、笑顔で言ってきた。そして次の日から、いきなり俺の呼び名は「なっちゃん」になっていた。一度、雪稀の友達に聞いたことがある。
―なんで初対面でなっちゃんなんて呼ばれるんだろーな
返ってきた答えは、意外だった。

…雪稀のね、元カレが…「なっちゃん」なんだよね…

南月。雪稀の元カレは、南月悠って名前だったらしい。
「なっちゃん」…俺は、そいつの代わり、か。
初めは、そんなことどうでも良かった。
でも、雪稀と知り合っていく内に、俺はどんどん雪稀に引き込まれていった。

『なっちゃん、ほんと速いよね~!県大会行けるんじゃない?』

そうほめたかと思えば、

『…今日、筋トレサボったでしょ。部長なんでしょ!?しっかりして!』

と、ちょっとしたサボりだって見逃さなかったし、甘やかしたりしなかった。
そんなサバサバした性格に、時折見える笑顔に、惚れた…んだと思う。
雪稀に対する自分の思いを自覚してからは「なっちゃん」と呼ばれるのが嫌になった。
「元カレの代わり」じゃなくて、「神田夏樹」という一人の男として雪稀に認めてもらいたいから。

「ハ…クチュンッ」

ふいに、雪稀が小さなくしゃみをした。

「やっぱ寒いんじゃん。風邪引くぞ」
「大丈夫だって!何か鼻にひっかかったの!」
「あそ。何でもいいから、これだけでもしとけって」

マフラーをとって、雪稀の首に無理矢理くくりつける。

「ほんっとにこういうことだけ強引だよね、なっちゃん」
「こうでもしなきゃ、お前本気で風邪ひくじゃん」
「何~?私が風邪引いて学校休んだらさみしい?」
「ばッ…!…ただ、部活ん時お前いないとやってらんねーから」





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