桜工房(だったところ)

桜工房(だったところ)

#1



 一面、目が痛くなるような光に満ちた、白一色の世界。
 綿菓子のようなとはよくいったもの、白い雲のじゅうたんの中に存在するその場所は、天使たちが暮らす天上の楽園であった。

 その日も、一人の天使の女の子、ハルカは、お気に入りの場所にやって来ていた。
 そこは雲の割れ目と呼ばれている場所で、大人の天使たちが、幼い天使が穴から落ちてしまわないよう大きなかごで穴の周囲を囲み、注意を呼びかけている場所だった。
 しかし、ハルカにとっては大人の注意よりも、お気に入りの場所に行くことの方が重要だった。 雲の上に立っているかごなんて、あってないようなもの。簡単に足元の雲を掘れば、潜り抜けるトンネルが直ぐに開く。そうやってハルカは、何度もそこを訪れては、その大きな雲の穴を覗くのだった。
 穴を覗き込むハルカの心情は、まるでケーキを前にする人間の子供と同じだった。

 ――憧れのものに対する羨望。

 今のハルカは、穴から見えるものに対する憧れの方が何よりも優るものなのだ。
 ハルカの眼下に広がるものは、青々とした海に浮かぶ――というよりは深く根ざした――果てしなく広い大地だった。
 深い緑色の森林が広がるところ、雲を突き抜けるような山脈、鏡のような湖などなど。
 どれも素晴らしいものだが、ハルカが一番興味を持っているものは、そんな自然に比べれば、埋もれてしまいそうなくらいとても小さなもの、

 ――地上に住む、人間の子供たちが通う学校だった。

 一応、天使にも学校みたいなものは存在する。地上の世界にもある「教会」がそれである。
 子供の天使たちは、そこで音楽や神様の教えを勉強するのだ。
 しかし、ハルカはそれがつまらなかった。教会では私語を慎まなければいけないし、休み時間に友達と遊ぶということもできない。それは、時に雲のトンネルを掘ってしまうくらいの行動力を見せるハルカには、刺激が少なく満足のできるものではなかった。

(…はぁ、私も人間のがっこぉ、いきたいですぅ~)

 ハルカの地上への憧れは、募る一方。
 そんな彼女の思いを知ってか知らないでか。運命の女神様は、その後に彼女に優しく微笑み掛ける事になるのだった…。

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