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カテゴリ: 本の話
去年、当時の文化庁長官だった河合隼雄さんが脳梗塞で倒れられた、というニュースを小さな新聞記事で見つけたときは、喉のあたりがキュッとしめつけられるようなショックを受けました。

その後も、意識が戻られない重篤な容態が続き、長官職は後任に譲られ・・・
約一年を経て、とうとう、訃報に接することとなりました。

私が、中学・高校時代を通して、授業以外にも多くのことを学んだある先生は、教職の傍ら、ユング心理学を研究し、カウンセリングを学んでおられました。
まだ「学校カウンセラー」なんて存在が日本で認められていなかった、二十数年前のことです。

日本におけるユング研究の第一人者が河合隼雄さんです。
その先生が、よく河合さんの著書や、言葉を生徒たちに伝えてくれました。
生徒たちに課題図書として紹介してくれた 「大人になることのむずかしさ」 という一冊の本が、どれだけ、自分と周囲の折り合いがつかない、思春期の嵐のような私の内面を鎮め、救ってくれたか。



臨床心理士の仕事の現場で、時代精神や社会のしがらみにうまく対応できない、たくさんの(多くは若い)人々と全力で向き合ってきた、その経験の重み。
それが一つひとつの言葉、文章から滲み出て、生きにくいこの世を生きていく力を・・・と、語りかけてくれたように思います。

一度だけ、文化庁主催のお堅い講演会を聞きに行って、ご本人のお話を直接聞きました。
やわらかい関西弁、柔和な笑顔が印象的でした。

思えば、かつての私の恩師は、大げさにうなづいたり、こちらの目をまじまじと覗き込んだりするようなことは全くなかったけれど、静かに目の前にいてくれるだけで
「あぁ、先生は私の話を全身で受け止めてくれている」
と、素直に信じられるような人でした。
その佇まい、河合さんにも通じるものがあったように思います。

訃報を聞いて、本棚から吉本ばななさんとの対談集を取り出し、読み返しました。

なるほどの対話


この対談集は、京都の町屋で撮影されたという、火鉢をはさんで向かい合う二人が表紙になっていて、掲載されている対談中のショットもとてもいい写真ばかり。

もちろん、二人の言葉も味わい深く、考えさせられたり元気をもらったり出来るのだけれど、ここではばななさんの「あとがき」を引きたい。


 一人の人の人生がここにあるんだな、とその傘を見て私は強く感じ、胸がしめつけられた。
 その町屋の居間でお茶を飲んでいるとき、
 『こういう造りの家にいると、なつかしいし、くつろいで眠くなってきた』と河合先生はおっしゃっていた。
 でも、じゃあそこで三時間くらい寝ていくか、とはいかないスケジュールが切なかった。

 天職にあり志がある人の常で多忙を極める毎日だと思うので、そんなふうにちょっとくつろいだ気持ちになれる場所が、地球の上でたくさん、たくさん河合先生を待っていることを、心からお祈りしています。」



河合さんの魂が、これから地球を離れた夢の世界で、安らかな旅路を辿られることを。
深い感謝とともに、祈っています。今日は本当に哀しい日でした。





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最終更新日  2007.07.20 13:20:30
コメント(8) | コメントを書く


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河合さん  
まろ0301  さん
 私は実は、お兄さんの雅雄さん(サルの研究者)の業績の方を先に知りました。
 弟の隼雄さんのことを知ったのは、後になりました。よくテレビにも出演されていて、話題も広くて面白い方でしたね。
 横にいて、静かに話を聞くだけで生徒の気持ちは随分と穏やかになるもんだ・・と何度も体験した事があります。
 どうしても、アドバイスしたり説教大好きというワタクシですが、そういう時は静に聞く事にしています。
 ご冥福をお祈りいたします。
   (2007.07.20 20:03:10)

哀悼  
エヌ さん
サリィさん こんばんは。
河合さんの訃報に接し、一人で寂しい気持になっていたところ、サリィさんの文章を読ませていただいて、なんだかいっしょに悲しんでもらえたようで
うれしくなりました。(悲しいのにうれしいって変な表現ですが。)
河合先生とは、若い頃勤めていた職場で「箱庭療法研究会」に講師として来ていただいて、食事や宿泊のお世話をさせていただいたご縁があります。
当時から高名であられたのですが、私たち一般の研究会にも気軽に来て下さり、寝食を共にしてくださる気さくなお人柄でした。
河合先生に生まれて初めて「カップラーメン」を食べていただいたのも懐かしい思い出です。
エンデの「モモ」や「はてしない物語」についての
お話を伺って、児童文学の世界の奥深さに目を開かれたことも貴重なかけがえのない思い出です。
今日は静かにご冥福を祈ります。 (2007.07.20 22:57:28)

井戸を掘る  
私も今日、村上春樹氏が先生に会いにいった本を引っぱり出してきて読んでいます。
読み直すと、その内容以前に「そうそう」という相槌がとっても多いことに気づきます。
誰でも「そうそう」と話を聞いてくれる人がそばにいて欲しいと願っているはずです。

ご冥福をお祈り致します。 (2007.07.20 23:30:17)

Re:「なるほどの対話」を読んだ。(07/19)  
SEAL OF CAIN  さん
さっき眠剤を飲んで頭ボーの中必死で読みました。
亡くなったって、知らなかったんです。
河合隼雄は、それほど良く知っている訳ではないのですが、凹みまくってどうしようもない時期に読んだ本が、とても私の助けになったので。現代新書だったような記憶があるのですが。
(2007.07.21 02:05:57)

Re:河合さん(07/19)  
サリィ斉藤  さん
まろ0301さん

> 私は実は、お兄さんの雅雄さん(サルの研究者)の業績の方を先に知りました。

京大の霊長類研究所長だった方ですよね。時々、テレビ欄の出演者名を見て間違えてしまったりしました。お兄様の研究の分野もとても興味があり、このご兄弟には本当にお世話になりました。

ただ「じっと対象に向かい合い、受け止め続けること」、それは語りかけるよりも時にエネルギーを使うけれども、場合によっては必要なことなんだ・・・ということを、私も教えられました。
まろさんの教え子さんたちの世代にこそ、多くの著書の言葉を伝えてあげたいと切に思います。紹介したばななさんとの対談本でも、河合さんは心の底から、現代に生きる子ども達をかわいそうに思い、心配されていました。 (2007.07.22 00:09:18)

Re:哀悼(07/19)  
サリィ斉藤  さん
エヌさん

>河合さんの訃報に接し、一人で寂しい気持になっていたところ、サリィさんの文章を読ませていただいて、なんだかいっしょに悲しんでもらえたようで
>うれしくなりました。(悲しいのにうれしいって変な表現ですが。)

思いを共にする、ということ、こういう打撃を受けたときには救われるものですよね。エヌさんのお気持ち、そして貴重な思い出をお聞かせいただいて、私も心にぽっかり穴が開いたようだったのを、ホッと助けていただけたような思いでした。
ありがとうございました。
(河合ファンの一人として、直接お人柄に触れられたエヌさんがとってもうらやましいです!) (2007.07.22 00:12:15)

Re:井戸を掘る(07/19)  
サリィ斉藤  さん
デヘヘヘラーさん

>私も今日、村上春樹氏が先生に会いにいった本を引っぱり出してきて読んでいます。

その対談もとても素敵な本ですよね。
春樹さんも、今頃はとてもお嘆きのことかと思います。
覚悟はしていたことですけど、これからも時折、すごく喪失感に襲われたりするのかな・・・と。でも、言葉は沢山遺されている、そのことが救いですね。

私も、微力ながら日々生きていく中で「良い聞き手」でいられるような心構えをしたいと思いました。 (2007.07.22 00:15:03)

大丈夫でしたか??  
サリィ斉藤  さん
SEAL OF CAINさん

>さっき眠剤を飲んで頭ボーの中必死で読みました。

えっ、それで体調は大丈夫でしたか?ちゃんと眠れましたか?
眠剤や導入剤の服用経験がないのですが、どうぞムリなさらないで、眠いときにはお休みくださいね。安眠妨害になってしまったらごめんなさい。

CAINさんの読まれた本がすぐに特定できないのですが、「こころの処方箋」など、平易な言葉で人の気持ちをホっとさせてくれる名著は多くありますね。昔話や民話について著述されているものも大好きなんです。 (2007.07.22 00:18:52)

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