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カテゴリ: 映画の話
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舞台機構の一部だろう、と想像はつくものの、何なのかさっぱりわからないでいると、ゆっくりと動き始める。するとカメラが上に移動していく。
やがて舞台の床とその向こうの客席が見えてきて、あぁ、これは「せり」の中なんだ、拍手に迎えられてせり上がってくる時、俳優さんにはこういう光景が見えていたんだ…と気づきました。
その瞬間、激しく心がゆさぶられて、訳のわからない涙がボロボロとあふれてきたのです。

昨年の4月をもって、建て替えのために閉場した歌舞伎座の、最後の姿を記録したドキュメンタリー。
思いのほか地方では上映期間が短く、前夜のサッカー観戦でかなりの寝不足の中、早起きして隣県まで観にいった甲斐がありました。それくらい感動的な作品でした。

夢のように華やかな表舞台と、労働環境としては劣悪、と言ってもいいくらいの古さ、狭さが背中合わせになった劇場。それがひとつの生き物のように、芝居興行に向けて機能している様子。
えっ、見えないところでこんなことをやっていたんだ、あれはこんな風になっていたんだ…と、驚かされることも度々。
3時間という上映時間が、ちっとも長く感じられないほどでした。


舞台の様子もふんだんに盛り込まれ、かつてのスター俳優の名場面集も出てきます。

歌舞伎の舞台は、私のように安いチケットで、天井間近の席で見る観客でも存分に楽しめるものですが、映画では俳優の表情に、クローズアップで迫る場面が多く見られました。

白塗り、隈取りの化粧の上に汗がにじみ、眼から涙がこぼれる様子を大きなスクリーンで観ていると、演者の気迫と、多くの場合理不尽な運命に翻弄されている芝居の主人公たちの魂の叫びがひしひしと伝わってきます。

歌舞伎は、様式美やしきたりを重んじながら、同じくらい感情表現や心理描写を観る側に訴えかけてくる、生々しく心に届くもの。違う時代の物語に、今の人間につながる真実がある。
そんなメッセージを感じました。

閉場式が終わり、カウントダウン時計が消えて建物が静まり返るラストシーン。
「お名残り惜しい」という言葉しか見つからない思い…。
でも、過去の建て替えは火事や、戦災による悲劇からの復興だったことを思えば、平和な時代に、お年寄りにも身体の弱い人にもやさしい劇場として歌舞伎座が生まれ変わるということは幸せなことなのですよね。
そして、こんな風に格調高い記録を遺して、あの大好きだった場所が使命を終えられたことに、寂しさを慰められました。

実は、公開直後に実家の母からメールで「本当に素晴らしかった。絶対に観に行った方がいい、おすすめ」と、興奮気味に勧められていたのですが、その気持ちがよくわかりました。
多くの方に観ていただきたい映画です。







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最終更新日  2011.01.31 16:06:33
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