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サイド自由欄

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トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2009年04月22日
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新月をすぎて、トールは雪崩のようにメッセージを発信していた。そろそろ緑の少女の本体の仕事が一段落するとわかると、そちらへ直接手伝いにもいった。なぜだか今、どうしても傍にいたいと思ったのだった。

異変は風に乗ってやってきた。
いつもと違う気配を感じたトールは、本体のほうが問題ないことを確認したのち、緑の少女のもとへ向かった。

彼女は新月の世界にいた。
月のない闇の空間に、彼女はたったひとり立ちすくんでいるように見えた。トールが駆け寄っても気づく気配がない。
どうしました、と問いかける言葉が声にならないうちに、一陣の強風が彼を襲った。
少女はガラスのような瞳を見開き、虚空を見つめている。普通の状態でないことは明白だった。

少女の肩にそっと触れようとしたトールの手が、なにものかにバチンと弾かれた。
指先に何条もの赤い線が走る。
少女が無意識に張っているシールドだと気づいて、トールは一瞬の逡巡ののちにそれを解除に動いた。血の滴る指先で、直接シールドの魔法式を書き換えてゆく。そうしても少女の表情は変わらなかった。人形のようにただ虚空をみつめるばかりだ。

解放して小さな肩を抱き寄せると、トールにも彼女が見ているものが見えた。
・・・・・・戦いだ。
愛や光など、言っていられる余裕のない激しい戦闘のさなか。必要のために冷酷になったのか、極限まで研ぎ澄まされた強い光は闇と同質であるのかわからない。
問答無用で光の剣で一閃し、邪であると判断すれば、泣いて命乞いをしていても斬る。敵の心理攻撃を受けつけないためには、猛スピードで機械的に動く狂戦士であらねばならない戦場。
心を封じているのか凍りついてしまったのか、死体の山を目の前にして、何の感慨も感じない、感じることを忘れてしまった空虚な世界。

「う・・・・・・ああああああ!」

駆け巡る映像に押し出されるように、少女の唇から叫びがあふれた。その手が背中の大剣にかかろうとする。
剣を抜かせてはならない。我に返ったトールは少女の腕を押さえ込み、強く抱きかかえた。それに反発し、小さな身体からあふれる衝撃波。
ふくれあがっていく内圧に、ひたすらトールは耐えた。何本もの真空の刃が彼を襲い、彼の服と肌を切り裂いてゆく。
だがステーションすら一瞬で消し飛んでしまう少女の力を、コントロールできないこの状態で解放させるわけにはいかなかった。

いくつもの魔法陣が果てもなく展開され、何重にも彼らを包む。
しかし意識のない少女から発される強烈な力とぶつかり合っては、緩衝波を生み出しながら次々に相殺されて消滅してゆく。
自分の持つすべての護りの力を使ったなら、周囲に被害を及ぼさず、この衝撃に耐え切ることができるだろうか。

冷静に彼我の力量を考え、おそらくできるだろう、と彼は結論づけた。
だがその場合、すべてが終わった後に彼が立っていられるかどうかはわからない。
命をつなぐための力も尽くさねば、彼女と周囲とを同時に護ることはできないかもしれなかった。

「私は死んだりしません・・・・・・たとえそれが、あなたを護るためであっても」

その誓いは、今もトールの胸中にある。
破るつもりはない。すすんで死のうという気は彼にはなかった・・・・・・だが。
どこまで耐え切れるだろう。
小さなノヴァを腕に抱くトールの唇から、一筋の血が流れた。


脳裏に、もうひとつの方法が浮かんではいた。
本当はそちらを選ばなければならないのだとわかってもいる。
しかしそれを選べずに彼はいた。
ぎりぎりまで悩むそれを弱さと言われれば、そうかもしれなかった。

無言で眉をしかめる目元に風の刃がおそいかかり、新しい血を流す。少女の声なき叫びが続くなか、拮抗する力の臨界点が近づいていた。



「トール、どけっ!」

鋭い一陣の風は黒カイルだった。
長剣をかまえ黒い鎧を身につけた彼は、半ばつきとばすようにしてトールと少女とを離した。
強引に自宅へと転送されたトールの耳に、少女の悲鳴だけが尾をひいて長く聞こえた。



「くそ・・・・・・っ」

鈍い音をたてて岩壁に打ちつけられたトールの拳から、たらりと赤い筋が流れる。銀髪は乱れ、着ている銀青の服はずたずたで、各所に血がこびりついていた。

耳の奥から彼女の悲鳴が離れない。

冷たい岩に頭を押しつけて、彼は唇を噛んだ。涙も流れないほど心が痛く、己の弱さが呪わしかった。
結局黒カイルがすべてを処理した・・・・・・それはつまり、少女自身にその責を負わせてしまったということに他ならない。
それくらいなら自分が引き受ければよかったのに。
彼はもう一度力いっぱい拳を岩に打ちつけた。こんな自分は壊れてしまえばいいのにと、心のどこかで思いながら。

「そんなことはないさ」

ポータルを使って現れたのは黒カイルだった。
鎧装束もそのままに、マントをひるがえして窓際に立つ。黒いその瞳がまっすぐにトールを見つめた。

「さっきは悪かったな」
「・・・・・・いえ」

私こそ、と食いしばった歯の奥から漏れる。
カイルはそんな彼を見やって尋ねた。

「おまえ、必要ならマリアを斬れるか」

「斬れます」

ほとんど躊躇なしにトールは答えた。自分の中にも、あの映像で見たような冷酷な部分があることを彼は知っている。黒く染まった背中の翼はその・・・・・・証だ。
黒カイルはうなずいた。

「そうだろう。俺も、俺自身をふくめて緑も黒もグレーも斬れる。
・・・・・・だが、おまえを手にかけることはできない。すべての人格において、だ。それと同じことだ」

カイルの背後の窓のむこうで、満点の星がきらめいていた。
彼の優しさを感じながら、それでもトールは無理に口角をあげ、微笑みを作っていった。

「でも、次は、必ず」

あなた自身にその重さを背負わせるよりは。

黒カイルの瞳がふっと和む。

「俺の出番をとってくれるなよ・・・・・緑を頼む」

カイルが消えると、入れ替わりに少女の身体が部屋に届けられた。
まだ意識が戻らずにぐったりしている。
トールは両腕をのばしてその小さな体を受け取ると、椅子に座ってそのまま抱きしめた。
彼女が少しでも癒されればいいと願いながら。








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最終更新日  2009年04月22日 11時54分32秒
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