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サイド自由欄

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トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2009年08月03日
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この人の笑顔は危険だ、といいかげん刷り込まれているトールは、ドアを閉めるなりため息をついて言った。

「……今度はいったい何をさせるつもりです? アシュタール」

「おう、勘がいいのう。助かることじゃ」

「まだ受けるなんて言っていませんよ。それでなくても他の仕事で忙しいんですから」

ではそういうことで、と踵を返して帰ろうとするトールを、アシュタールはひきとめた。
もう一人呼んであるから、という。
するとタイミングを合わせたようにノックの後ドアが開き、エル・フィンが顔を出した。

「お呼びと聞いて参りましたが」

エル・フィンの声に、アシュタールはにこにこと笑顔を見せた。そして何を言い出すかと思えば、二人に剣術の教師も務めてほしい、という。
最近生徒が増え、元々手が足りていないのはわかっていたが、先日の模範試合で生徒達からもぜひという要望が出たらしい。

そこまで聞いた段階で、隣にいるエル・フィンがトールを睨んできた。謀りましたか?という目つきだ。
トールは苦笑しながら、軽く首を横に振った。

(誤解だよ。こちらにも話がきて困っているんだ)

すみません、と心話が返ってくる。
それは構わないのだが、問題はアシュタールのほうだった。トールは老紳士をまっすぐ見て口を開いた。

「ひとつ確認したいんですが。大戦が終わった、というこのタイミングで、なぜ剣術の教師を増やすんです? 戦場は減るはずだ」

白髭の老人はその質問を予期していたようだ。あたたかな目で二人を見比べ、ゆっくりと含めるように言葉をつむぐ。

「剣、というのは象徴じゃ。たしかに大戦は終わった。わしらはその痛みを少しずつ手放しながらも、辛い思いをしてようやく経験したものを忘れずにいなければならない。
危険だからといって刃物のすべてを遠ざけることに意味はあるじゃろうか?
切られたときの痛みを知らずして、戦いの不必要さをほんとうにわかることができるじゃろうか。
いつかは、真実剣が不要になるときもこよう。しかし今は過渡期じゃと、わしは思っておる。今までは渦中にいたために見えていなかった、大戦の傷跡があらわになってくるのは、これからじゃ」

アシュタールの言葉には一理あった。
戦乱の渦中にあって見えていなかった自分の傷、知らず失っていたものの存在。そういったものに気づいて混乱する者も現れてくるだろう。
そのとき、精神や身体の鍛錬という以上に、剣という存在がどんなものか、何を果たし何を失わせたか、肌で知っておくのは無駄ではないと思われた。

結局、部屋に入った当初から嫌な予感がしていた通り、「他の仕事に支障の出ない範囲内でなら」という条件で受けることになってしまった。



翌週、演習場の中心に立つトールの周りには、腕におぼえのある最上級生たちが四十人ほども群がっていた。

トールの担当を初級クラスにするか上級クラスにするか、職員会議で大揉めに揉めた末、ばかばかしくなって当の本人は「どちらでもいいから週に一コマにしてください」と言い置いて帰ってきてしまったのだが、どうやら上級クラスに決まったらしい。

エル・フィンが担当することになった初級クラスの生徒たちとは違い、皆体格もいいし、どの顔にもそれなりのふてぶてしさが見て取れる。
誰か一人を指名して模範試合をしてもいいが、皆期待に目を輝かせていて、それでは収まらなさそうだった。
授業と実習だったら、皆即座に実習を選びそうだ。

仕方がないな、とトールは軽く頭を振って、手の中に杖術用の木の棒を呼び出した。棒術のものより短く、身長の半分ほどなのが特徴だ。これなら怪我をさせることはないだろう。

「皆、よく見えるように大きめの輪になって。一人ずつかかってきなさい」

そう言ったとたん、生徒達の顔がかがやいた。やはり皆、一度手合わせしたいと思っていたらしい。
ひととおり基礎をおさめて自信の出てきたころ。このくらいが一番剣を振り回したがるし、その分怪我も多いのだ。

誰からでもいいよ、と言うと、一番体格のいい生徒が輪の中に歩み出てきた。

「カイオンです。実戦にも先日出ました。よろしくお願いします」
「よろしく」

赤銅色の短い髪を振り立てるように頭を下げ、剣を構える。確かに慣れているようだ。
やああっ!と振りかぶってきたのを半歩しりぞいて避け、その脇を棒先でつついた。

「上段の時に脇が開きすぎだ。次」

「セイクルです。よろしくお願いしますっ」

横合いから鋭い突きが繰り出されてくる。今度は大きく踏み出して斜め後ろから首を叩いた。

「いい突きだが周りも見るように。次」

「体重が右にかかりすぎてる。次」
「ぎりぎりまで相手を見なさい。次」
「上腕に力を入れすぎ。もっと楽にして。次」

前後左右から飛び出してくる生徒達を難なくいなす。グラディウス時代の教練に比べたら、これくらいは何ということもない。
息も乱さず次々一本ずつ手合わせしているうちに、あっという間に一巡してしまったようだった。

「おや、次は?」

「もう全員やりました……」

腕を押さえて顔をしかめた生徒が言う。そうか、とトールは棒先を地につき、あらためて周囲を見回した。
膝を叩かれて倒れている者、肩や脇を押さえる者。
どうする? もう終わるかい? と聞くと、生徒達はいっせいに首を横に振った。さすが根性も一人前だ。ここは一度、彼らが他で痛い目を見る前に実力の差を叩き込んでおくほうがいいかもしれない。
上級クラスの教師にはそういう役目もあることを、トールは承知していた。

「わかった。では休憩のあと総がかりでもやるか」

歓声が沸き起こる。

数分の休憩のあと、演習場は興奮のるつぼとなった。
四十人の生徒たちが、一斉に銀髪の教師にむかってゆく。

トールはさすがに一人ずつアドバイスを入れる暇はなく、杖を旋回させては剣をいなして突きを送り、移動しながら右に左に相手を倒していった。
四十人もいると、一斉にかかるにも限度がある。輪の外側にいる生徒達が夢中になって、倒れた仲間を踏みつけないように常に場所を動いておかねばならない。

結果、演習場は一帯に屍累々、といったありさまになった。
全員倒すとさすがに息が乱れてくるのは、手加減をするのが手間だからだ。一撃で急所を打ちながらも、後に残る怪我はしないようにしなくてはならない。
思い切りやるわけにはもちろんいかないが、せめてもう少しかわしてくれるとよいのだけどな、と彼は思った。
エル・フィンあたりが聞いていたら、それは無茶な要求だ、と即答したことだろうが。

「もういないか? では、これで今日の授業は終了」

立っている生徒がいないのを確認して宣言すると、ふへぇい、という力の抜けた返事があちこちから返ってきた。















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>>【銀の月のものがたり】  目次1  ・  目次 2

>> 登場人物紹介(随時更新)



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最終更新日  2009年08月03日 11時22分14秒
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