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サイド自由欄

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トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2009年09月27日
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「そっちはどうよ」
「解放されたから楽だよ」

フェンリルはいい笑顔で答えた。闇の泥に浸かっていた彼しか知らない本体は、フェンリルってこんなにノリ軽くないぞ、と思わず眉根をよせてしまう。
それに気づいたトールが言った。

「いや、もともとはこういう感じだったんだよ」
「ええそうなんですか?」

思わず耳を疑ってしまう。彼女が知っていた、朴訥で言葉少ないという印象はきれいに拭い去られ、まるで火の精霊のように勢いがあっていたずらっぽい感じがする。
これが元の姿だというなら、ああなるまでにはどれほどの重しを背負い込まされていたのだろう。

顔を見上げると、フェンリルはにっこりと笑った。
そして、どこからか二匹の狼を出す。
一匹は、宵闇のブルーに赤い目の狼。しっぽが九本に分かれ、額に赤い宝石がはまっている。力の強さは一目瞭然だった。

「ルースを護る、俺の眷属だから」

フェンリルがそう言うと、緑の少女はにやりと笑った。

「あたし強いんだよ!」

そうよねえ、護る必要ないわよねえ、と即座に言ったのはフレデリカと本体。その件に関しては、トールですら微妙に思うところだ。
しかしフェンリルは真顔で続けた。

「なにいってる。こんなか弱い可愛いお人形さんは、ちゃんと護らないと」

どうやら、彼の目には少女は「風が吹いただけで倒れるようなか弱い乙女」に見えているらしい。
ルースが呼べば出てこれるけど、ここより下の次元だと物質として存在できないから、お守りだよ、と彼は言った。

狼はフェンリルの髪の毛でつくったものだから、一部といえば一部となる。しかし狼自身の意思はきちんと別にあった。
すらっとして凛々しく、普通の狼より若干大きな体躯をしている。頭もよさそうで、少女になついてその頬に鼻先をすりよせていた。

「連れて歩く訳にはいかないから、指輪の中に入れておく。必要のあるときに出てくるだろう。それからいい遊び相手になると思う」

「ありがと。じゃあおまえの名前はシュヴァンツ(しっぽ)ね」

少女が言うと、狼は嬉しそうにぺろりと彼女の頬を舐め、そして胸に下がっている指輪に吸い込まれていった。


もう一匹の狼を、フェンリルは本体にやると言った。
しかしこちらは丸っこい体型の、狼というよりは犬のような感じでもふもふしている。すこし青みがかったダークグレーの毛並みに黒い目だ。

「こいつなんか特殊技能あるの? 護ってくれるの?」

丸っこい狼をなでながら本体が聞くと、フェンリルはぱっととてもいい笑顔を返した。

「ううん。ただの狼だよ……君は……色々大丈夫だよ!」

それを聞いた本体が思わずひっくり返りそうになる。
残りの三人は笑うに笑えず、内心必死にこらえるしかなかった。

「だ、大丈夫ってどういうわけよアンタ! ちっとは護んなさいよ」

「だって大丈夫だから。え、その狼の名前? じゃあ……永太郎。forever poleposition man だよ。北極星みたいな」

「えいたろう?」

それ何か間違ってるだろう、だったら最初から北斗とかにすれば、と本体は思ったが、当のフェンリルは大真面目な顔をしている。彼女はため息をついた。

「わかった、永太郎ね。じゃあ永太郎、アンタ可愛いがお仕事なんて卑怯じゃないのよ。キー! かわいい!」

まるっこいもふもふを抱き上げて頬ずりすると、その狼も彼女の頬をぺろりと舐め、揃いの指輪の中に入っていった。


それを見届けたフェンリルの身体が光に明滅しはじめる。

「もういっちゃうの?」

半泣きの顔で少女が言った。フェンリルが申し訳なさそうな顔をする。ずっとそばにいてやりたいが、そうもできない。
少女は慌てて手の甲で顔をこすると、まっすぐに彼を見上げた。

「あのさ、あたし思ったんだ。お話では、フェンリルって終末思想の象徴だったでしょ。そのフェンリルがこうして昇華するっていうのは、あたしたちの個人的なことだけじゃなくてさ。
きっと……きっと、本当に新しい時代がきて、暗い未来なんかもうこないんだって、そういうことなんだよね?」

少女の言葉にフェンリルは一瞬目を瞠り、そして微笑んだ。

「そうだよ……ああ、そして、いま、本当に終わった」

遠く夢見るような顔で、ほうっと息をつく。その赤い瞳から片方、すっと涙が落ちた。

長かった。
なんと長かったことだろう。

形なき泥濘であったあのときから、ただひたすらに見つめてきた空。
その青い空に、自分はいま還ろうとしている。


最後の最後にも、お前は私を抱きしめてくれるのだな。

はじめのとき、形すらない私に歓喜を教えてくれたように。
虚無の淵に沈みかけていたとき、涙を教えてくれたように。

こうして最後の瞬間にも、お前は私に大きな光を指し示す。


お前を追ってきてよかった。


愛する者よ、私は幸せだ。

お前という魂に抱きしめてもらえて、私は幸せなのだ。



次々に生まれくる光が彼をつつみこみ、そして小さくなって消えてゆく。
ひとひらの笑顔を残して、彼は光の中に消えた。



ありがとう。

だからもう泣くな、愛する子よ。





……彼の長い恋は実った。




















*************

>>【銀の月のものがたり】  目次1  ・  目次 2

>> 登場人物紹介(随時更新)


フェンリル編、これにて幕でございます。
旧暦重陽の節句によせて。



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最終更新日  2009年09月27日 00時23分01秒
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