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サイド自由欄

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トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2010年07月14日
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「どけっ!」

グラディウスは叫ぶと、右手の長剣を一閃させた。
まだ年若い少年兵に向けて飛び出しかけた薬剤噴霧器のひとつが叩き斬られる。
しかし左奥にもうひとつ。こちらは剣が届かない。

少年は固まってしまったのか、動く気配がなかった。
短く舌打ちすると、グラディウスは足を伸ばして黒髪の少年を蹴り飛ばした。
「うわあっ!」叫び声に被さるように、ビビッドな色をした酸性溶液が今まで彼がいた場所に降り注ぐ。

溶液が床や壁を溶かして嫌な匂いを振りまく中、銀髪の男は剣を構えて突進し、床に転がるアランをまたいで奥の装置に剣を突き刺した。

「いってえ……」


短く言い捨てて通路を進んだ。



-----



そういえば、双子の両方を蹴飛ばしていたことになるのだな。

ベッドで昏睡しているデュークの脇で椅子に腰かけるグラディウスは、記憶の淵から視線を戻し、たくましい腕を組んで口の端でふっと笑った。


デュークが対価の支払中で昏倒していると聞いて、彼は滝の……溶けていた世界から一足先に戻ったのだった。

待っていてくれとは、とても言えない。
そう思っていた。
今まで、あまりにも長く長く待たせてきたから。
それはある意味、彼自身にとってトラウマの言葉でもあった。

帰れる時期もわからないのに、いずれ帰るからとだけ約束すれば、相手の未来を縛ることになる。
それは卑怯ではないだろうか。



しかし、約束のない空白はかえって相手を追い詰めてしまうのだということがわかり、グラディウスは考えを改めた。

相手が倒れるまで追い詰めてしまうことを看過できるほど、自分にとってそれは重要な拘りだろうか?
骨を軋ませる恐怖から逃げたい自分のほうが重いだろうか?

考える間もなく出た答えは否。

天秤にかけられるほど大事なものなど、何も無い。





何があっても、どんなに時間がかかっても、必ず最後には帰ると。

だから待っていてくれと、言おう。



……約束は、守る。



自分の望みに改めて気づいた彼の心は落ち着き、揺るがなくなった。

幼少時から染み込んでしまった恐れは、まだ消えていない。
少しずつ慣らしてゆかなければならない部分は今でも沢山あるけれど。
うさぎのように怯える子供は、デセルの手に預けてあるけれど。
その子のことはまた、徐々に見てゆくことになるのだろう。

それでも、今の彼の心は定まった。


はじめは、この闇に沈んだ部屋の扉の前に陣取って、不寝番よろしく剣を持って座っていた。
アスタロトに支払いの半分を申し出たのだったが、はぐらかされて何も受け取ってもらえなかったから。
その後、部屋の中に入れてもらって今に至る。

(アイレイ……そうか、俺は奴に過去の自分を見ていたのだな)

暗闇を満たす静寂の中で、心にグラディウスは呟いた。



アイレイとアラン。
十三歳ほどで施設にやってきた黒髪の双子。
戦禍で家族を亡くしたそうだが、二人ともなかなかの素質で、二年後には初陣となった。

まだ成長しきらない、細い身体に装備を背負って戦場をゆく彼らと、グラディウスはたまたま同じチームに配属されていた。
戦況が膠着して二日目、三日目ともなると、野営の空気も段々だれてくる。

野営地を移動するどさくさ紛れ。
幼さを残した顔立ちや体つきを下卑た興味のもと狙われていることに、背を向けて荷物を整理する少年は気づいていないようだ。

舌なめずりしているのは屈強の男数人。まともにやりあったら、いくら筋が良くても初陣のアイレイの勝ち目はまったくないだろう。

目の隅にその様子を認めたグラディウスは、無造作に近づいてその少年兵の頭を蹴り飛ばしたのだった。

「いってええええ! 何すんだよ!」

さすが双子、そういえば上げた声がそっくりだった。
後頭部を押さえて振り返ったアイレイに、ひとこと「遅い」とだけ呟いて踵を返す。
蹴ったのが特Aクラスの戦闘員であることを知り、少年や周囲の様子がさっと青ざめたのが気配でわかった。

手を出そうとしていた一団も、グラディウスの長身に圧倒されたかのように去ってゆく。銀色の魔物、その持ち物にうっかり手を出したのでは堪らないとでも思ったのだろう。

それを無視して次の野営地に向った。
グラディウス自身は少年に興味はない。ただ移動するのに邪魔だっただけだ、そう思っていた。今までは。

その少年の後姿に、昔の自分自身を重ねていたのだと、ようやくわかった。
狙われるままにはしておけなかった。
助けたかったのだ……たぶん。

「……デューク、アランの奴はな、その後の戦地で俺に向ってきたんだ。奴らは、互いに相手のためには身を捨てるのを厭わないな」

青ざめた顔で眠り続ける男に、独り言のように語りかける。
意識のない人間にもなにか話しかけるといい、そう聞いたのはどこでだっただろう。
自分ではない、他の名を持つ銀髪の分身たちの知識かもしれない。

根源や世界樹に溶けたり戻ったり、多くの縛りを外し傷を超えて、グラディウスは以前よりずっと口数が増えていた。
アルディアスやトールの持つもの柔らかさとは程遠いが、かつて肉体を持っていた頃のようにほとんど無言でいることはなく、それなりに話もするようになった。

彼はかつての双子の様子を思い出すと、ぽつぽつと眠れる人に語りかけた。


アランとアイレイ、二人を蹴飛ばしたのは、考えてみれば同じ行軍中だった。彼らの初陣の初日の戦闘でアランを、その後の移動中にアイレイを仲良く足蹴にしたことになる。

このことで、双子はグラディウスの所有物であるという噂が水面下で広がったらしい。
それをグラディウス自身は知っていたが、あえて誤解を解こうとはしなかった。実力のあるものの庇護下にあると思われていれば、この施設ではある程度の安全が確保できる。

それを知らないのは当の双子だけだった。

「あ、頭を蹴ったら危ないじゃないですか。手加減しないなんてひどいです」
「おい、やめろ、アラン」

泣きぼくろのある優しげな顔をゆがめて直訴してくる少年。同じ顔でほくろのないもう一人が必死に止めているが、聞こえていないようだ。
自分が蹴られたのは状況としても仕方がないが、双子が蹴られたのが納得いかないらしく、緊張のあまり身体を細かく震わせて銀髪の長身を見つめている。

グラディウスはちらりと彼らを一瞥すると、無言で身を翻した。相手をしてやる気はない。
なおも言い募ろうとした少年は、どうやら同胞に実力行使で止められたらしく、くぐもった声のかけらだけが彼の耳に届いた。

そして向った戦場で。
敵意とは言えないまでも睨んでくるアランの視線を、グラディウスはずっと感じていた。
ほとんど初陣の少年兵の視線など痛くも痒くもなかったが、それが続くとさすがに面倒くさくなってくる。

紅い瞳でちらりと双子を見やると、グラディウスは血刀を振って転がっている敵兵の服で軽くぬぐい、鞘におさめた。
まだ戦闘のさなかだ。双子が息を呑むのがわかる。

その彼らの前を護るかのように、彼は手ぶらの長身を敵前にさらした。
予測したとおりに相手方の戦闘員が三人ほどまとめてかかってくる。

ふっとグラディウスは身体をかがめた。次の瞬間弾丸のような拳が正面の心臓を精確に打ち倒す。間髪入れずに左拳でもう一人の顎を狙い、流れに乗ったまま右足で三人目の頭を蹴り抜いた。
首が折れ、身体ごと吹っ飛んだ先の壁に叩きつけられる軟らかい音。

一瞬で終わった戦闘に、双子が目を見張っている。
同時にどれほど自分達が加減されていたのか、痛いほどわかったようだった。グラディウスが本気で蹴れば確実に殺しているが、二人とも脳震盪すら起こさなかったのだ。

その後、彼らは今までと違う目でグラディウスを見るようになった。


-----


そんな思い出話をしながら、彼はデュークの魂を繋ぎとめていた。
どんなに細かく砕けても、どんなに遠く消えてしまっても、彼にはその在り処がわかる。集められる。
肉体を持っていたときには知りもしない技だったが、今の彼は確かにアルディアスの末だった。

アイレイとアランに……
今生で再会したあの双子に、お前達が道を選びゆくまで消えはしないと約束した以上、ここに帰ってこさせなければ。

そしてそれは、単に会いたいと思う自分のエゴであるかもしれない。
けれど、今はやめない。
急がせるつもりもないけれど。



  ……デューク、ゆっくり戻ってこい。
  気がむいたらな。

  いつまでかかったっていいさ。
  一万年でも十万年でも、星が生まれて死ぬまでかかったって構やしない。

  俺はずっとここにいるよ。
  お前の気の長さを見習ってな 笑


  いつか帰ってきてくれるなら、旅はどれだけしたって構わない。
  お前には帰る場所があるんだってことを忘れるなよ。
  俺がお前めがけて帰還したように。

  どんなお前だって俺には必要だ。
  いくらでも試せばいい。


  お前にもらった言葉。

  今、返すよ。














<デューク  - living dead ->
http://blog.goo.ne.jp/hadaly2501/e/0e4a539e95a7b11b45daa04abeffeec8


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【銀の月のものがたり】 道案内


外伝 目次


ゆきつもどりつ戸惑いながら、それでも歩くこと。
……まだちょっと続く、かもしれません。(遠い目


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最終更新日  2010年07月14日 15時52分39秒
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