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サイド自由欄

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トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2010年12月30日
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明るい教授室の大きな机に本を積み上げ、彼は机に腰を預けるようにしてそのうちの一冊を手に取った。

森の中の部屋で、重厚な机は大きな窓を背にしている。開け放された開口部からは、若木のこずえが枝を差し伸べていた。
机の向かいは書庫のようになっていて、高い天井までの書棚がびっしりと空間を埋め尽くし、中二階に上がるための梯子がかけられている。ところどころの窓からは明るい光があふれ、建物を囲む木々がのびのびと歌うさまが聴こえてくるようだった。

左手にあるドアの手前にはローテーブルとソファ。家具に使われている木は落ち着いた飴色で、長い年月を経てつやつやと光っていた。

古ぼけた革張りの表紙がぴったりと掌になじむ。
その感触を楽しんでいると、すこし急いだノックの音がした。
応答とともに開けられ、現れたのは琥珀色の髪をした親友だ。

「やあ、デセル」
「……ようやく戻ったな」


互いに腕を広げて久しぶりのハグをすれば、嗅覚をかすめる甘い薬草の香り。
トールは思わずふっと笑った。

「君の匂いがする。……ということは、私はちゃんと戻れているらしいね」

身体を離しいたずらっぽい瞳で見やると、デセルはぐっと唇をかみ締めている。その二つのペリドットからは、きれいな雫がぽろぽろと零れ落ちていた。

「……やっぱりデセルだ。変わらないな」

嬉しいような困ったような微笑を浮かべて、手を伸ばし涙に濡れる親友の顔を自分の肩口に押しつける。しっとりと肩に染みてゆく潤いを感じながら金茶の髪を軽くたたくと、無言のままでデセルがうなずいた。

長い長い過去の時間、何度も出会っては別れてきた。<泣き虫>と呼ばれていた頃も、その後も、その前も。
お互いにたくさんの経験を積んで、痛みを重ねそして解放し、蝶が羽化するように変容しながら、それでもずっと動かない芯の部分。

魂の核を抱きしめてそして、つぼみが花開くように柔らかく人は変わってゆく。

目の前にいる彼は確かにトールだけれど、以前はどことなく纏っていたあの追い詰められたような厳しい雰囲気がない。
峻厳な巌の強さは変わらず持ち続けているのだろうが、もっとずっと豊かで余裕があるように見える。


 きちんと自分の魂の中に納めて帰って来い。>

そう伝えたデセルの言葉のように。
大切な時間を想い出としてきちんと居場所を定めたなら、二つの想いに割れるようなことはもうないから。

ひとしきり涙がおさまると、デセルは顔をあげた。手の甲でぐいっと目を拭うと、窓の陽を受けてペリドットの瞳が春の若草のように輝く。

「おかえり。トール」





  *   *



(ヴェルニータは授業にならなかったね。後で教授室においで、待っているよ)

笑いをふくんだ心話でそう伝えられたのは、月の森での授業が終わって生徒達が席を立ち始めたときだった。


月の森。
海のように月のように、叶えたかった夢の満ちゆくところ。

トールの、彼自身のための古い夢は教師になることだったのだと、聞いてはいた。
最愛の姫君と出会ってからは、彼女を護るという新たな強い望みを叶えるために、切り落とした翼とともに封じられていた夢。

姫君が傷を癒している期間、寄り添いながら魔法学校で教職についていたのも、完全に思い出してはいなくとも彼自身の望みが底にあったからだったのだろう。
そして姫君が癒され、長い長い役目を終えてトールも還った。
たくさんの人達に囲まれながら、大きな世界樹に銀髪の長身が溶けていったのは、忘れもしない初夏の新月のときのことだ。

あれからちょうど半年。
世界の源まで潮は一度完全にひいて、そしてまた一年の半分をかけてゆっくりと満ちてきたのだろうか。

還ってしまった存在は、それでもどこかにはいると、完全にいなくなってしまうわけではないのだと、ヴェルニータも思ってはきた。
でもそれは、比喩のようなものではないかと思う自分もいて、本当は寂しくてならなかった。

(ほんとうにいなくなっちゃったんでないなら、また戻ってきてよ、せんせい……。わたしが、生徒が待ってるんだよ)

吹き抜ける風に赤い髪をゆらし、大樹の木の葉ずれを見上げながら、何度心に呟いただろう。

だから、夢の叶う月の森でトールが魔法教室を開講するらしいと聞いたときは、まっさきに飛ぶようにそこへ向かった。

教師になりたいという夢。
教えてほしいという夢。

二つの望みが引き合って同時に叶うなら、また先生に会える。
大好きな先生の夢を、一番古い純粋なところまで戻って、ゆっくり叶えてほしかった。
そうして戻ってきて欲しかった。


教室にはたくさんの生徒達がいた。
つくりは以前の魔法学校に似て、けれど明るい窓から見える青々とした木々のきらめきが少し違う。
トールに会いたくて集まった生徒達に混じり、ヴェルニータは窓から三番目の後ろの方に座っていた。ほとんど一番乗りに教室には着いたものの、あまり前に座るのはどうしても気後れしてしまったのだ。

そして、扉を開けて入ってきた銀青色の服の長身は記憶の通りで。
長い銀髪に細い銀縁の眼鏡をかけ、微笑んだ顔も以前のままで、それだけでヴェルニータの目には涙があふれた。

低く抑え気味のよく通る声が、魔法の仕組みや世界のありようをゆっくりと語ってゆく。
長い指先から時折紡がれ、自在に多面体や魔法陣を描いてゆく光る細い流星。

少女の大きな瞳からは次から次へと涙があふれ、ぼたぼたと机に水溜りを作っていった。
それを拭うこともできず、顔を上げることもできずに、ヴェルニータは両手で膝のスカートを握り締める。涙にゆがんだ視界で、机の水滴に丸く映る青い空をじっと見つめていた。
耳に優しい声が聞こえて、少しでも力を抜いたら、長身に取りすがり大声をあげて泣き出してしまいそうだった。

ゆっくりと生徒達の机の間を歩いてゆく足音が彼女の隣で少し止まる。
しゃくりあげながらそっと顔を上げると、困ったような微笑を浮かべた青灰色の瞳が優しく彼女を見下ろしていた。

「せっ……せんっ、せ……」

呼びかけようとした言葉も、嗚咽に混じって単語にすらならない。
大きな手が、わかっているよと言いたげにぽんぽんと赤毛の頭を撫でる。そして足音はまたゆっくりと遠ざかっていったが、ヴェルニータは細い肩を揺らしながら、ずっと頭に残った暖かい感触を追いかけていたのだった。


そしてやってきた教授室。
彼女と本体を同じくするオーディンも、緊張した面持ちで後ろに控えていた。

ノックして部屋に入ると、以前の教授室よりもずっと明るくて広い。部屋の中なのに木々いっぱいの印象が強いのは、ここが月の森だからだろうか。

手前のローテーブルの上に置かれた世界樹のオブジェは、魔法学校の教授室にもあった精巧なものだ。
しかし懐かしいと思う前に声が降ってきて、はじかれたように少女は顔をあげた。

「よくきてくれたね、ヴェルニータ、オーディン。……久しぶり、かな?」

目の前ではにかんだ微笑を浮かべているのは、あれほど会いたかった先生。
ヴェルニータの涙腺はあっという間に決壊してしまい、銀髪の長身はすぐに涙でにじんでしまった。

「ふえっ……、せ、せんせっ……」
「うん。……ただいま、ヴェルニータ」

華奢な肩にそっと温かな腕がまわされて、懐かしい香りが鼻をくすぐる。
かがめてくれた長身の肩口から、さらりと銀色の髪が前に流れてきた。

「お、う、うええっ……」

おかえりなさい。そう言いたいのに言葉にならない。口を開くと嗚咽になってしまうから、ヴェルニータは広い胸に額を押しつけるようにして気持ちを伝えた。

「……ほんとに、あんたか。戻れたのか」

優しく少女の背を撫でるトールを見つめながら、ぎこちなく立っていたオーディンの脳裏にふっと何かの情景がよぎった。
松明か何かで照らされた、薄暗いどこかの城の回廊。黒っぽい服か甲冑を着けて立っている長身は、今とは違う昔の姿であろうけれど、同じ人なのだと理由なく感じる。
黒い甲冑の人がこちらを振り向くと、色の違うその瞳が目の前の二つのベニトアイトに重なった。

「ああ。デセルや君達が、呼んでくれたから」

少女の肩に手を置いたまま、屈めていた背をそっと伸ばしてトールは微笑んだ。

自分という総体のどこか一面を、離したり封じたりするのは基本的には不自然なことだ。
様々な面があってひとりの人。自らを護るために分離したり、経験の里程標として様々なイニシエーションを超えることはあっても、魂はやがてまったき形に戻ろうとする。

魂の力はそれほどに強いが、しかし自らの意志で望み受け入れなければ、最後の行程は縮まることがない。
トールの場合、そのきっかけを作ってくれたのがデセル達の存在と呼び声だった。

たくさんの過去に何度も出会ってきた、愛しいなつかしい仲間達。
帰ってきてもいいのだと彼らは言ってくれた。

かつてトールと呼ばれた人格のままに戻って、胸の奥底に仕舞ってあった夢を叶え始めてもいいのだと。
ひとつの役目を終えた魂として、続く時の流れの中、また新しく生き始めてもいいのだと。


魂と世界の仕組みとしては最初からそうであったはずだが、人の心が理を受け入れるのには、ふたつの季節が必要だった。

終え、切り離し、眠り、遠ざけ。気づき、見やり、躊躇し、相談し、受け入れてもらい、呼んでもらって。
月満ちるように潮満ちるように時が満ちて、戻る。
道程のすべてが同等に必要で、どこも省けるところはない。

「『得たものは失われ、失われたものは手に入る』……と、言うけどね」

いざ自分がなってみると、ちょっと気恥ずかしいものだね。

苦笑とともに差し出された手を、オーディンはぐっと握り返した。ブルースピネルの瞳にも涙が浮かんでいる。
片方の眉をあげて彼はにやりと笑った。

「はっ、いいじゃねえか。会いたい人に会うのに理屈なんていらねえよ」
「ありがとう。そう言ってもらえると気が楽になるよ」
「俺はあんたが戻ってくれて嬉しいぜ。……そうだ、剣の指南。してくれるって言ってたよな?」

オーディンが目を見開いた。天使エリアにスカウトされたとき、確かにそういう言葉があったのだ。
青灰色の瞳を嬉しげに細めて、トールが答える。

「もちろん。いつでも、君の都合のいいときでいいよ」
「よしわかった。約束だぞ」

交わされた約束は、トールの存在が今だけではないという証だった。
願いが満ちて月の森に戻った彼は、その場だけではなくこれから新しい世界をも、仲間達と一緒に生きてゆくのだ。

「楽しみにしてるからな」

またあふれようとする涙を吹き飛ばすように、白い歯を見せてオーディンは笑った。

















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【銀の月のものがたり】 道案内

【銀の月の物語 第一部】



先日の月の森でのひとこまです。

いなくなった人が戻るのはちょっと恥ずかしい(@聖☆おにいさん5巻)と思ってましたし、
正直なところ、彼の想いが真実であるだけに辛かったのですが
結局、上の人とか中の人格達っていうのはやはり「自分自身の一面」なので
繋がりの濃淡というのはその時々であっても、完全に消えるとか切れるってことはないのかも、と今は思います。

とはいえ6月にトールと別れるときは本当に悲しかったし、それはそれで真実で。
一度きっぱり別れなければ超えられない、私の中ではそういう大きさだったと思うのです。


さて、今夜から帰省で1月4日の帰宅までPCを触れませんので、メール等しばらくお休みさせて頂きます。
ツイッターでぶつぶつ呟くかもしれませんがw お返事はあまりご期待なさらずに~。

それでは皆様、よいお年を^^






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最終更新日  2010年12月30日 11時39分50秒
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