せいやんせいやん

せいやんせいやん

その1(10話)


【君が代ラップ】


キミがヨのキミって いったい誰だ

キミがヨのキミって タマゴじゃねえのか

チヨニってなんだ ヤチヨニってなんだ

サザレってサザエさんのことじゃねえのか

石野さんって誰だ 岩雄さんって誰だ

そんなもんになりてえ やつなんかいるのか

コケコケ コッケイ むーすんで ひらいて

コケコケ コッケイ 手を打って むすんで







【ティッシュ】


すこし風邪ぎみだ。

こたつの上のティッシュをシュパっと取って、グガァ~っと鼻をかむ。

そういえば、このティッシュ、だいぶ前から使っているのに

いっこうに無くならないなあ。

シュパ シュパ シュパ……

二十枚くらい取ったが減ったようすはない。

シュパ シュパ シュパ シュパ……

五十枚くらい取ったが無くならない。

シュパ シュパ シュパ シュパ シュパ……

百枚くらい取ったが無くならない。

シュパ シュパ シュパ シュパ シュパ……

ヤケになって取り続けるが無くならない。

シュパ シュパ シュパ シュパ シュパ……

右手が疲れてきたので両手を使う。

シュパ シュパ シュパ シュパ シュパ……

部屋がティッシュでいっぱいになった。

シュパ シュパ シュパ シュパ シュパ……

家中ティッシュが埋め尽くした。

シュパ シュパ シュパ シュパ シュパ……

息が苦しくなってきた。

シュパ シュパ シュパ シュパ シュパ……

ティッシュの色が白からピンクに変わった。

シュパ シュパ シュパ シュパ シュパ……

そろそろ打ち止めか?

シュパ シュパ シュパ シュパ シュパ……

シュパッ!

やったあ!

最後に出てきたのは百万円の請求書だった。







【インスタント】


「宅急便で~す」

マユミの家に大きなカップ麺のドンブリが届いた。

直径、高さとも1メートルほどある。

さっそくフタを4分の1ほど開け、お湯を注ぎ、フタをする。

3分ほど経っただろうか。

「もういいかなあ」

フタを少し開け、のぞいてみる。

すると、フタがドバッ!と開き、

「ジャジャ~ン。初めまして!」

と、中から男があらわれた。

「ぼく、インスタントお婿さんで~す。よろしくおねがいしま~す」

マユミは首を上下させて数秒みた後、

「ダメダメェ~! 返品!」

と言って、男のあたまを押さえつけ、フタをした。







【空から】


雲ひとつない空。

まぶしい太陽。

深呼吸しながら天を仰いだら、青空の彼方に点が見えた。

なんだろう。

あれれ、だんだん大きくなる。

なにかの蔓(つる)かなあ。近づいてくるぞ。

それはニョキニョキ~っと伸びてきて、わたしの鼻をかすめ、

地上すれすれで止まった。

あっ、だれかが下りてくる。

あたまを下にしている。少年だ。

「……よいしょ、よいしょ……」

止まった。

目が合った。

「こんにちは」

逆さまの顔。

青い瞳、そばかすのほっぺ。

「わっわっ! だ、だれ?」

「ぼく、ジャック。で、これ、豆の木」

「え? わあああああぁぁぁ……」

わたしを含む地上のすべてが、空に吸い込まれるように落ちていく。







【鉄棒】


小学4年生のマサルくんは、鉄棒が得意です。

将来は、体操種目の鉄棒でオリンピックに出て、

金メダルを獲るのが夢です。

きょうも、校庭の鉄棒で、大車輪の練習に励んでいます。

ぐるんぐるん、ぐるんぐるん……。

「わああ!」

たいへんです。

体が真上にきたときに、手がすべって、鉄棒を放してしまいました。

すると、あっというまに地球が銀河の彼方に飛んでいきました。

以降、マサルくんは、砲丸投げに転向しました。







【十五夜お月さん】


サトシくんは窓を開け、お空をながめています。

ママは居間でおせんべいをバリバリ食べながら、テレビをみています。

「ママぁ、まんまるお月さんのとなりに、もうひとつ、小さいお月さんがあるよ」

「そんなはずないでしょ」

「あれぇ、だんだん大きくなっていく」

「なに言ってるの」

「あっ、お月さんを飲み込んだ」

「ふざけないでね」

「わああ、お空いっぱいに広がったあ」

ドォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオ……







【蚊】


入浴中、目の前を蚊が飛んでいた。

つぶさないように、両のてのひらをふくらまし、そぉ~っと、やさしく、

つつみこむようにつかまえ、一気にお湯のなかへドッボ~ン。

へへへ、いじめてやれ。

こんな時季に、こんな所を飛んでいた、おまえも不運よのぉ。因果よのぉ。

いま、おまえの命はオレの手中にある。

生かすも殺すもオレ次第だ。

ほれっ。

手をパッとひらく。

すると、蚊はじょうずに泡のなかを浮遊し、水面から飛び出て、

ほそくひらいている窓から逃げていった。







【特技】


「きみ、お尻で話せるんだってな」

「うん」

「じゃあ、これ読んでみて」

「いいよ。どれどれ──。

 『パッとしないお天気。くまのプーさんは、ポットからカップに

  お湯を注いだ。いや、待てよ。ペプシコーラのほうが……』」

ぱ行が多かったので、オナラを連発した。

「『……旅行はバリ島、好きな犬はブルドッグ、歌はビリー・ジョエル、

 魚は鰤(ぶり)……』」

実(み)も出た。







【雑巾】


うちの会社は、お盆休みの前に大掃除をする。

バケツに水を汲み、雑巾をすすぎ始めると、

掃除もせずにデスクでぼぉーっとしている部長が、

「うひゃあ」と言ってお腹を押さえた。

あれあれ。ひょっとして──。

雑巾をおもいっきり絞ってみた。

「ううう、痛ててててて……」

部長はデスク上の書類をわしづかみにし、

ものすごい形相で苦しみだした。

これはおもしろい。

雑巾を持ってトイレに行き、便器をたんねんに拭き、

ピッカピカにした。

三日後、部長は赤痢で死んだ。






10
【家庭内別居】


妻が口を利かなくなって1ヶ月になる。

「おい、どうして黙ってるんだ。何とか言え!」

無言でわたしを見つめる、冷蔵庫内の妻の生首。

冷たいやつだ。









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