Heart Beat ~鼓動が聞こえるだろ?~

Heart Beat ~鼓動が聞こえるだろ?~

タイトルは未定。


「へへん、だから言ったろ。お前じゃ俺は倒せねぇって」

倒れている少年を見下ろしながら笑う少年――いや、よく見れば少女。お互いの手には木製の剣が握られている。
少年は無傷だが、その剣には無数の傷がついていた。

この村は十年前、戦争の惨禍に直面した。
多くの男たちがかり出され、悲しいことに、帰ってきた者はほんの一握であった。その日からだ。子供達には「おもちゃ」という名目で、木製の剣が与えられた。
本当の意味を子供達は知らず、ただただ無邪気に振り回して遊んでいる。

唯一、この少女を除いては。

少女の名はアサ。
父は帰ってこなかった。母さえもが、その苦しみに耐えかねて命を絶ってしまった。つまり、孤児である。
両親がいなくなってからの日々を、村長の家で生活してきた。幼いながらに、礼儀などはきちんとしていて、挨拶も手伝いも、そして運動・勉強も人並み以上にこなした。人を傷つけるようなこともしない子で、皆に可愛がられて育った。
ただアサは、自分が女であることを認めたくないのだろう、男のような言葉遣いは直そうとしなかった。ある日、村長から「お前はなぜそんな喋り方をするのだ」と、問われたこともあったが、その理由だけは話そうとしなかった。

「帰るぞ」
目の前で倒れている少年に手を差し伸べ、引っ張り起こすと、アサは空を見上げた。
太陽が山に隠れる瞬間を見ていた。空は優しい朱色に染まっていた。

「ねぇ、アサ。神様が絵の具、こぼしちゃったのかなぁ」
アサと並んで歩く少年は、アサの顔を見上げて、そう尋ねた。
「そうかもな」アサは微笑んだ。そして少年を負ぶり、走って村に戻った。

村に着くと、ちょっと甘そうなカレーの匂いが二人の鼻をついた。
「お帰り、ツキ、アサ」
二人は台所にいる村長の奥さんに駆け寄った。
ツキは、村長の家の本当の息子で、アサの弟のような存在だった。
アサは今年で十五歳、ツキは八歳だったから、並んで歩いていると本当の姉弟に見えた。
「僕、カレー大盛りね」
「俺のはそれより大盛りっ」
「はいはい、手を洗って待っていてね」
村長というのは、おじいさんと思われがちだが、この村は今年で三十五になるという青年が村長を務めていた。奥さんも、それぐらいの年。
なかなか器量のいい夫婦で、村の人の信望も厚い。アサも、この二人が大好きだった。
「うっめー。やっぱさ、母ちゃんのカレーはうまいぜ、なあツキ」
「んん、おいひい」
「ツキ、食いながら喋んなよ、って俺がいけねえのか」
小さい子へのフォローや、周りの雰囲気にまで気を配れるアサを、村長夫婦もまた、愛していた。
いつまでも、この平和なときが続くことを、夕食を食べながら、皆願っていた。
「ツキ、またカレーこぼしてるぞ」村長が怖い顔をして見せた。
「父ちゃん、口笑ってる。怖くないって」
「そ、そうか?」
食卓は笑いに包まれていた。


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