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2014年01月29日
トレジャーハンター 4
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カテゴリ未分類
室内には、膨大な本が本棚に収まっているが、おそらく、ここにどんな本があるのかは一部
の者しか知らないだろう。王国の系譜がメインで、今年これこれどうあった、ということが追
記されていく。ほかにも、国民の名簿も収録されている。
なお、全然関係ないが、城下町にある国が運営している博物館には、パピルスや、壁画の残
骸なども多数収録されている。民族意識も強く、伝統も根強いのも、こうしてきちんとした歴
史を確認できるからだろう。脳震盪を起こしたように、くらくらする、明るい国――。
山の空と相咬む波状の輪廓の麗美なる色彩にみちたこの王国――。
ステンドグラスなどがはまっている独特なデザインの大きな窓が特徴で、話によれば、この
、理想的な換気装置。
また、先程からクラシックの音楽が流れ、これなど、贅沢な仕掛けだ――もちろん、ここに
は、世界中の名著も健在で、この国の文化教育の高さがうかがえる。
と、俺はここで、『初心冒険者セット』と銘打たれた、マニュアル書の類を全員に配った。
これは俺が作ったものではないが、やはり、トレジャーハンターとして名高い、俺の先輩でも
ある、先駆者が作った。
大分前に出たものだが、いま読んでも目から鱗のエピソードがあるから、すごい。
また。トレジャーハンターたるものなら、当然できていなければおかしいことが書かれてい
る。エッセイなども収録した分、分厚いが、テントを張って一人淋しくなる時にこの本に何度
助けられたかわからない。俺がトレジャーハンターで尊敬している数少ない一人だ。
もちろん、ここにいる者は、そんなものに目を通したことすらないだろう。
でも、これ一冊と、俺の・・と、宣伝してどうする。
でも、たとえば『アムニの神霊的空間』の話。これは神獣の話。ちなみに先程、講義してい
たのもそのひとつで、これから、『闇の洞窟』を目標にさまざまな場所でのモンスターハント
をするにあたって、しておいたものだ。
もちろん、これは伏線として、試験的な意味合いがある。
しかし犬猫たちが、浮かれ歩いて行く情景しかそこにはない。
そう、結果たるや散々なもので、数名の者は意図をわかっているようだったが、いつもなら
訓練に明け暮れているだろう頑強で、国家愛の強い彼等・・騎士道精神も女がいなければこんな
ものか、という、たくましき男たちは、こんな眠気催す話に、何度も眠い眼をこすっていた。
お前はアライグマか、と思う。
まあ、股間をこすっているよりはよい。そして今度は、一心不乱にせっせと少しばかりのこ
われおもちゃをいじくり回している。
ともあれ『初心者冒険セット』には、最初の段階のことが事細かに書かれている。
だが、全員に配る必要はなかったのかも知れないとも思う。そもそも、話の意図がわからず
に、寝ぼけている時点で、アウトだ。
いくら俺の採点を甘くしたって、モンスターたちは優しくない。
最初からガツンと基礎を叩きこむことで、一発死亡の危機を回避できる、という意図もあっ
た。もちろん、誰がそんな間抜けになるものかと、思っている。当たり前だ。お金を稼ぐのが
、トレジャーハンターの仕事だ。でも、毎年トレジャーハンターにはそういう奴がいる。けし
てそいつの腕のせいだけじゃない。初心者がいきなりモンスターに囲まれて、とか、下級モン
スターを仕留めようとして上級モンスターと遭遇した、という笑い話にはならないようなこと
が、起これば――・・。
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
勿論いつ天国行きの切符を手に入れてもおかしくない。
誰に言えるだろう――・・。
吐息――。俺は、眼を見開く。
欠伸する。そして、泡立ち、緊張する・・。
かの勇者どのだって、昔は苦労をしまして、と謙虚なことを言っていたものだぞ。おもむろ
にしかも絶え間なく、後へ後へと流れて行った。経験、苦労・・もしその中に一つでも動かない
ものがあれば、それは薄雲を漂わせる、お前の手や、しみや、切り傷。
いまの俺なら下級モンスターどころか、中級モンスター十匹に囲まれたって平気だが、それ
でも、上級モンスター十匹に囲まれたら間違いなくお陀仏だ。いざ、それが自分だったらどう
する。そんな時は、勇敢さなど無用だ。必死こいて逃走しまくるしかない。あと、パニックに
ならないこと。敵の目を避けるように、攻撃をよけ続けながら逃げる能力。
そいつが追いかけてくるか、来ないを一瞬で見定める直感力――・・。
当初から推奨される仮説は、消音機つきの銃をかかえたテロリストが狙っているぞ、だった
。トレジャーハンターの仕事にそんなものはないが、そう考えていろという心構えをあらわし
たものだ。危険な状況の時にそなえて、いつもガムを噛んでいろ→敵と遭遇したら、とりあえ
ず、ガムをふくらませて、ぱちんと破裂させろ。鞭を持つ→お前は馬だ。
が、こういう子供っぽいことを言わなければならないのも野暮だが、あらゆる職業の中で、
もっとも危険で、もっとも死亡確率が高いのは、トレジャーハンターなのだ。
それに、一見のほほんと講義しているように見えただろうが、こいつらの大半、つまり九割
は催眠を使うモンスターという教訓を、一切受け容れてないと見える。知識不足を補うため
に、町の研究所に頼んで、データブックをデジタル化、さらに携帯化するかとも考えた。
しかし、だからといって、頭をどつくわけにもいかない――・・。
昨日まで彼等は国を守ることが目的だったのに、今日からアクティヴにも、全員がトレジャ
ーハンターになり、国を守る役目をしろ、ときた。もちろん、全員参加させるような話ではな
いものの、十二人ほどの候補者を探すつもりだったのだが、めぼしい奴は片手ほどしかいない
。しかしそれだって、おそらく、何マイルも離れた場所から企てられた暗殺なりの流れ弾が、
たまたま当たったようなものなのだろう。
突拍子もない上、突然身に振りかかってきた火の粉に緊張するやら、不安でいっぱいやら、
けれどそれでもやっぱり眠たいやらといった顔を浮かべているのが、おおよそだ。
トレジャーハンターになるのだ、という意気込みは、まったく感じられなかった。
俺は黒板に、文字を書きながら、初心者マニュアルと経験を参考にして、武器や装備、戦術
などを説明していく。たとえばモンスター退治においては、好き勝手に武器を持っていい、と
いうこと。ただ、近距離攻撃、遠距離攻撃、あるいは回復系の魔法を使う者のパーティを組む
ことを前提とした。
「セルビア先生、質問です」と、真面目そうなロバートが言った。
剣技の腕前がピカイチということだったな、とざっくり書かれた兵士一覧表を見る。
ちなみにこいつは頭角で、よいトレジャーハンターになりそうだという勘があった。
「先生はよしてくれ、ロバート。でも、お前が言いたいのは回復系の魔法のことだな、自分
たちは魔法を使えないのに、どうするんだ、と。」
「はい。」
いいね、こんな気持ちのいい受け答えするトレジャーハンターはいない。
まず、受け答えに基本敬語はない。そういう世界である。
クローゼットを掻きまわしてセーターを見つけるような世界だ。
「安心しろ、初級の魔法なら、契約を結べば誰にでも出来る。向き不向きはあるがな。魔法
はそもそも、火、水、風、地で説明される。サラマンダー、ウンディーネ、シルフ、ノーム。
みんなも知っての通り、俺はあのアストリアで兵士をしていたことがあるんだが、そこに魔法
が使える奴が混じっていて、そのやり方を教わった。あらゆる魔法は、精霊との契約だ。ただ
、回復系の魔法、もしくは、暗黒系の魔法だな――それはまったく別の管理下にある。精霊じ
ゃなく、前者なら、この場合、土地の神霊との契約にあたる。まあ、後者、暗黒系の魔法につ
いてはあまり説明する必要のないことだが、もう知っている者もいるかも知れない。悪魔に魂
を売った連中だ。肉体や魂を売り渡すことで、強くなろうとした連中の最後は――死んだ時に
わかる。絶対にするな・・もしそんな考えを持っている奴がいたら、俺が殺す。」
一同が、ごくり、と生唾を飲み込むのがわかった。潜伏期ほど、野良猫は虎になりたがる。
塗りつぶしたような暗闇――ジメジメした陰湿な空気・・。蛆虫・・蠕虫――。
生者が覗き見てよいものではない。貧乏や、孤独や、小さな虚栄やわびしい歓楽。
そこで、爪先が痛む、腓が痛む。ひと刹那の間一層暗くした、呼吸・・。
膝関節がいたむ、腿がいたむ、ついには腰までも――喰われる・・ほぼ薬籠中とする、
軽蔑すべき連中。悪魔に魂を売るだけで、進取的精神が麻痺する。誹謗中傷は増加する。
鬼に。狂気に――蛍光性のようなグレーの膜に。灰は掃除したことがあるまい・・
きっとないと請け負えるくらいの穢たなさの暖炉――・・。欠点や弱さは、個性になる、
必ずいつの日にか強さになる。うやむやに葬ってしまうな、向かい合え。
向かい合うしかない・・。根本的問題は、新鮮なエネルギーになる。
スキルになる。カメラ・アイになる。いまは欺瞞に思えても・・。
意気悄沈、今にも泣き出しそうな顔をしている奴もいて、目隠し状態になる。
金魚鉢にいる――ああ、オタマジャクシみたいだ・・河豚みたいなツラ――。意気地なしの、
はたらきの無いその顔には、ありありと当惑の色が現れている。でも、うつむくな、
忘れるな、人類が最高の知能者だと自惚ぼれる者があったら、どうかしてる。嘘に、
尾鰭を付けて、賭をしているようなものだ。
長く生きていると、厭な記憶がわんさかしている――石杭をつなぐ、
頑丈な鉄の鎖・・ぐるぐるに巻かれた、パンドラの箱。通俗的な、普遍的な、
非専門的なものでなければならない、というスポイルの誤解を恐れた者たちの末路。
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最終更新日 2014年01月30日 01時51分08秒
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