漆黒の空

漆黒の空

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小鳥も囀り、陽も大分照ってきた昼頃。
大きな草原に真っ白なキャンバスを広げている少女がいた。
その隣りには少年。真っ白なキャンバスとその少女を見比べて溜息をついている。
当の本人。その少女は腕を組み小さく唸りながら眉間に皺を寄せていた。

「…紗枝。どうすんだよ…明日までに提出だろ?」
「分かっているよ、霧也。」

少女の名は「さえ」と言うらしい。
隣りにいる少年は「きりや」

紗枝、と呼ばれた少女は一度溜息を吐き、キャンバスから離れた。
そしてその場に倒れこんだ。
少女は空を見上げている。真っ直ぐに漆黒の澄んだ瞳で、強く、強く。
霧也という少年も少女と同じように溜息を吐いた。
そして少女の横に倒れこんだ。
だが少年は空では無く、少女を見つめている。
少女は少年の視線に気付いたのか、空から視線を離し少年を見つめた。

「霧也。私の顔に何か付いているか?」

少年は少女の質問に焦った。
―――ましてや少女の横顔に見惚れていた
などとは口が裂けても言えない。

「いいや。何も付いてない。」

少年は一言答えた。
そして少女がしていたように少年は空を見上げた。
少女はその答えに一言「そうか」と呟くと、少年のように空をまた見上げた。

―――空を見上げ始めてどれほど経っただろうか。
少女はふと思い、空から視線を外し少年を見た。
少年は―――寝ている。
少女は少年の寝顔にふっと笑みを漏らし、何を思ったのかキャンバスに向かった。
そして真剣な表情でキャンバスに何か描いてゆく。
真っ白なキャンバスには「生命」が吹き込まれていく。
鮮やかに音を立てるいろいろな色の絵の具。

陽が傾きかけ、入日色に染まっていく頃。
少女は満足そうな表情をし、笑みを零した。
そして一言呟いた。

「出来た。」

そういう少女の顔は何よりも綺麗で美しかった。


                    fin



覗いた物語の一頁



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