漆黒の空

漆黒の空

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ふと耳を澄ましてみると小さな歌が聞こえたんだ。
それはとても儚くて。
すぐにでも消えてしまうんじゃないかとでも思うくらいの声で。
だけど可憐で繊細で。凄く綺麗な響だった。

僕は誰が歌っているのか分からない
歌声に聞き入っていた。
声から推測すると、女性…というにはまだ早いような。
少女…という方が相応しい…のかもしれない。

僕は目を閉じた。
すると、ピタリと歌は止まった。
僕は不思議に思って目を開いた。
すると、少し先の方に綺麗な黒髪の少女が大きな岩の上で座っていた。
僕の方をじっと見ている。

暫く沈黙が続いた。
僕はそんな雰囲気に堪えきれなくなり、口を開いた。

「…君は此処で何をしているんだい?」

僕の一言に彼女は答えた。

「私は…悲しみを訴えていたの。」
「え…?」

彼女は深呼吸をし、また僕に一言言った。

「私の悲しみを聞いてくれるかしら、お兄さん。」

そう言う彼女の顔は少し寂しげな微笑みを浮かべていた。




31.歌う


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