月の雫

月の雫

その3

安寧



彼には わたしが関った「見えない世界」についても
知り合った当初から話していた

彼は興味を示してくれて
引くかな?と思うような話にも
相変わらずの聞き上手ぶりを発揮していた



家庭生活がだいぶ落ち着きはじめていたので
わたしは全てがうまくいっていると思っていた
信じて頑張っているおかげで
今の暮らしが成り立っている
そう感謝していた



彼はわたしが何かを信じることに関して
とやかく言う人ではなかった
むしろ その世界観に興味を持って
あれこれ質問をしてきた


徐々に彼が持ち始めたのは
なぜ わたしが 心の安寧を得られないか
という疑問だった


わたし自身は 気付いていなかった
自分が不安定なことに
常に追われていることに
疲れきっていることに



人生は修行だから
苦しくても当たり前
それを乗り越えることが
この人生の課題


そんな風に考えて
自分のしていることに疑問を持つことはなかったし
努力とか忍耐は世間では美徳だから
頑張っていることを褒められはしても
なんで?と言われることはなかった

彼と
もう一人の人以外には



わたしは過去と未来と現在に囚われた囚人のようだった
わかりにくくて申し訳ないけれど
そう表現するしかない


そしてわたしを評価するのは
これまた第三者だった


自分ではかなり頑張ったと思っても
「まったく足りない」
そう言われれば それまでで
どこまでどうやればいいのか
キリが無い世界だった


まるで賽の河原で石を積むように
積んでも積んでも崩される

前よりは 大きな石を
よりたくさん積めるようになる
でも エンドレスなことには変わりなかった


彼の言葉で言えば
「無限連鎖」
「苦悩を自ら作り出して 消す作業」



どこまで行っても
義務と責任だった
満足感 達成感はあっても 
ほんのつかの間だった


もっともっともっと
努力 努力 努力
前と変っていなかった



自分で決めなさい
誰かに委ねるな
自分の人生を生きろ

彼はそう言いつづけた


決めてるよ
自分で選んでるし
わたしがこれを好きでやってる
このおかげでわたしは救われている

疑問は無かった
ただ 疲れていた
とっても・・・


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