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戦争に勝ったら何がもらえるの? どうでしょうか。ぼくは感心しました。質問しているのは 7歳 の エリック君 です。小学校一年生になるかならないかの年齢です。答えているジーさんは、なんの遠慮もしていません。 「わかりやすい病」 が蔓延している、ニッポンの児童書では考えられない、堂々たる態度です。とにかく、そこのところに、感心しました。
エリック 7歳
争いに勝つことはできても、戦争に勝つことはできない。戦争というものは、どちらの国にとっても、ひどい損失だ。ものが壊れるだけではなくて、いたましくも無実の命が奪われてしまう。
戦争がおこると、勝ったほうはごうまんになり、負けたほうは復讐の念を抱くことになる。そして、終わったとたんに、すでに次の戦争が予告されている。「門出の歌」で誇らしげに謳いあげられている勝利だけど、現実はそんないいものじゃない。
ドイツとフランスのあいだで動きが取れなくなっていたアルザスの人間として、ぼくは2度敗北を経験した。奇妙な戦争のあと、1940年にはドイツがアルザス地方を支配し、ぼくたちにフランス語を話すのを禁じた。そして、1945年にフランスはアルザスを取り戻し、それ以後ドイツ語やアルザス語で話すのを一切禁じたんだ。フランスの軍服をまとわされ、次はドイツ、そしてまたフランスと、強制的に兵役につかされたアルザス人の、なんと多かったこと!
でも、ぼくたちは奇跡を体験したんだ。何世代にもわたって殺し合いをつづけてきたにもかかわらず、フランス人とドイツ人のあいだでほどすみやかに和解が訪れたことは、世界の歴史上なかった。その例は、ああ、なんとも残念なことに繰り返される気配はないけれど。これは、ひどい戦争を経験した2国の人たちが和解できた珍しいケースだ。
ぼくはといえば、憎しみを憎んでいる。 (P14~15)
トミ・ウンゲラー Tomi Ungerer
1931 年 11 月 28 日 、 ストラスブール 生まれ。絵本作家、グラフィック・デザイナー、イラストレーター、おもちゃ発明家、コレクター、広告デザイナー 。 代表作に『すてきな三にんぐみ』( 1961 年、日本語版は偕成社より 1969 年刊)、『ゼラルダと人喰い鬼』( 1967 年、日本語版は評論社より 1977 年刊)、『キスなんてだいきらい』( 1973 年、日本語版は文化出版局より 1974 年刊)、『オットー : 戦火をくぐったテディベア』( 1999 年、日本語版は評論社より 2004 年刊)などがある。
1998 年、「小さなノーベル賞」と称される国際アンデルセン賞画家賞。
2019 年 2 月 9 日、アイルランド で死去。
アトランさやか Sayaka Atlan
1976 年 生まれ。青山学院大学文学部フランス文学科卒業。 2001 年に渡仏、著書に『薔薇をめぐるパリの旅』(毎日新聞社)、『パリのアパルトマンから』(大和書房)、『ジョルジュ・サンド 愛の食卓: 19 世紀ロマン派作家の軌跡』(現代書館)、共著に『 10 人のパリジェンヌ』(毎日新聞社)がある。
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