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2004年06月12日
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カテゴリ: Essay

 ふらふらとウインドゥショッピングのつもりが……。

 長女の身長は、172センチ。
 今までだと絶対に仕立てあがりは間に合わなかったし、振袖を作る時だって特注だったから、ほんの柄探しというか、冷やかしというか、軽い気持ちでデパートを歩いていた。
 ところが、今ではトールサイズとかいうのがあって、どうやら長身の彼女にも間に合うようなのだ。
 四枚ほど袖を通してみることになった。 
 藍色地に白単色の大輪の菊、薄墨色に色トリドリの花火、藍色地に萩や桔梗の秋草模様、クリーム地に藍色のカサブランカ等など。
 どれも素敵だったけれど、わたしの中では最初から菊が良いと思っていた。昔ながらの浴衣で、とても涼しそうなのだ。

「おばあちゃんだったら、菊を選ぶだろうねぇ」
 と、しみじみというわたしの一言で、それに決めて買うことになった。
「だって、お母さんの着物って全部おばあちゃんの見立てなんでしょ?どの着物も素敵だから、おばあちゃん好みなのが間違いないの」
 わたしも母の見立てが好きだったから、異存はない。

「ありがとう。前に母さんに買ってもらった浴衣を無くしたでしょ?自分で買ってみたけど、なんか落ち着かなくて嫌だったの。だからこの浴衣、とっても気に入ってるの。嬉しいわ」
 彼女は、なんども何度も礼を言った。
 ほんのウィンドゥショッピングのつもりが、かなり大きな出費となって、わたしの懐は一気に風邪を引いてしまった。
 でも、わたしも嬉しかった。
 遠い日、母とこうして着物を買いに歩いたっけ。
 わたしの試着した姿に、目を細めて嬉しそうな顔をしていた母が浮かんだ。
 あれから、ものすごい時間がわたしの上を通過して、今は、その母をわたしがやっているのだ。我侭を言いながらも、母は決して怒らなかった。一枚でも多くの着物を箪笥に入れてやりたいと、家計に余裕ができると、わたしの着物を増やしてくれた。嫁入り道具に着物の数を競った時代だから、特にそうだったのだろうけど、高価な買い物に、わたしはただ、はらはらとして見ていたものだ。

 今夜から家計を締めて、やりくりをしなくちゃ……。

 長女は、早速、彼氏にその包みを見せている。
「うん。これは素敵だね。似合うよ、きっと。花火大会じゃなくても、デートのときに着てよ」
 後から合流した彼氏は、びろーんと鼻の下を伸ばしている。

 思いがけない出費だったけれど、わたしはすごく良い気持ちで目の前の若者達を眺めている。


 母さん、ありがとう。
 わたしは心の中で、亡き母にそっとつぶやいた。





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最終更新日  2004年06月12日 10時54分29秒
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