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2004年07月10日
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テーマ: 人間関係(949)
カテゴリ: Essay

 背中を太陽がこれでもかと照りつけた。
 四時を少し回っているというのに、その陽射しは全く衰えを見せなかった。拭っても拭っても汗が滴り落ちる。昨日買ったおニューのTシャツが、背中に張り付いた。
 ホテルの回転ドアをゆっくりと押して、集合場所のロビーに辿り着くと、すでに約束の四時を十数分過ぎていた。まだ誰も来ていないようだ。こちらに向かう電車の中から、わたしが乗り遅れたことを、携帯電話のメールで知らせてあったから、どこかで時間をつぶしてくれているのだろう。

 中央に配されたソファーに腰をおろした。少し身体が傾いだ。
 座り心地が悪いのは、長居無用のためなのかもしれない。深く座りなおして、わたしはバッグから携帯電話を取り出した。到着したことを携帯メールで告げるためである。

 利きすぎたエアコンの冷気で、先ほどの汗はすっかり引いたけれど、今度は背中に不快な冷たさが残っていた。

 実は、以前から混雑の少ないロビーだとわたしは知っていた。
 だから、あえてこのホテルを選んだのだ。
 何か面白いものはないか物色するために立ち上がり、数歩歩き出したところに、かつての同僚数人の姿が、ガラス越しに見えた。
 わたしは回転ドアの傍へ、慌てて方向転換をした。
 懐かしい顔がひとりずつ、ドアを押して入って来た。
 みんな少しも変わっていなかった。
 素敵な笑顔をたたえている。
 きっと二本の足を大地につけて、きちんと生きている証であろう。
 二年前、わたしは家庭の事情で退社して、遠くへ引っ越した。だからもう一度こうして、かつての同僚たちに再会できるとは、夢にも思わなかったのだ。
 懐かしさと嬉しさが、ある種の気恥ずかしさを伴って、わたしの胸の中に奇妙なバランスで留まっていた。


 それがこの年になって、会いたいと思える女友達ができた。その気持ちを、どう分析したものか分からないが、すごく自然に向き合えるようになっていた。

「遅くなってごめんなさい」
 中の一人が少し足を引いている。
「どうしたの?」
「履きなれない靴を履いたから、靴擦れしたの。痛くてここまでやっと辿り着いたのよ」

 ソファーに座った足元を覗き込むと、赤く擦れたところや、水ぶくれが見えた。これは相当痛いはずである。
「大丈夫?」
「ええ、大丈夫です」
 とはいうものの、少しも大丈夫ではなく、きっと足をもらった人魚姫の心境であろう、と思った。
「ごめんね、わたしがそっちへ移動すればよかったわね」
 時間をつぶすために彼女らが居たショッピングセンターが、これから向かうレストランのある場所なのだ。
 わたしは心から申し訳なく思った。

 再び、猛暑の中に出た。
 今度は、ホテルが作った巨大な影に沿って、暑さから逃れるようにみんなで歩いた。
 これから始まるささやかな宴の、飛び切り冷たいビールを想像すると、乾ききった喉の奥がぐぐっと鳴った。








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最終更新日  2004年07月11日 20時53分03秒
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