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2004年08月17日
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テーマ: 吐息(401)
カテゴリ: Essay
 緑のラメ入りカナブンが飛んできた。


 美しいといえば、小学生の夏休み。
 初めて出遭った玉虫の美しさには驚かされた。
 それまで、昆虫はすべて嫌いだった。
 仰向けにしたときの、あのもじゃもじゃ動く六本の足が厭だった。

 父に連れられて法事に訪れた親戚の家は、バス停からさらに一時間近く歩いて、ようやく辿り着くような山の頂上にあった。
 法事が終るや、父は一人で山を下りていった。
 わたしはどういう理由でか記憶にないのだけれど、大きな城の様な家に、一人残されていた。


 無愛想なその城の主は言った。
 怪訝な面持ちで返事をしかねているわたしに、ついて来いと頭で促した。
 仕方なくとぼとぼと、主の後をついて行った。

 そこを覗いてみろ、と又頭で促した。
 何の木だか分からない大木の根元に、小さな祠が祀ってあった。どうやらそこを指しているらしい。
 わたしが恐る恐るその祠を覗いてみると、ごそっと何かが動いた。
 無言で、主の顔を見た。
 「触ってみろ」
 もう一度目を凝らして覗き込んだ。
 カナブンのような虫がいた。
 「カナブン?」

 「それが玉虫じゃあ。親父に見せてやってくれと頼まれた」
 にこりともしないで、そういうなり玉虫を手にとって、わたしの手のひらに乗せた。
 主が恐くて悲鳴も上げられない。
 仰向けにならないように、背中から両脇をぎゅっとつかんだ。指先にうごめく足が触った。思わず投げ捨てそうになるのを、必死でこらえた。
 でも、その背中の模様の美しいこと。

 緑や青、赤の縦縞が整然と並び、燦然と光輝いている。
 わたしは我を忘れて、じっと見入った。
 いつの間にか、足のもじゃもじゃも気にならなくなった。
 「これに入れて持って帰ると良い」
 主は、竹の虫かごをぬーっと差し出した。

 わたしは、虫かごを大事に抱えて、山を下りた。
 虫かごの中には、さらに二匹を加えてもらった。

 後に分かったことは、城の主は父の従兄であり、父はわたしにその幻のような玉虫を見せてやりたかったのだ。

 その夏、わたしはクラスの人気者だった。
 母に薬を注射してもらって、玉虫は標本にしたのだ。

 今でも、玉虫はあの祠にいるのだろうか。
 不器用な父の愛情は、そんなことでわたしの記憶に留まっている。







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最終更新日  2004年08月27日 10時32分59秒
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