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2005年02月15日
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テーマ: 吐息(401)
カテゴリ: Essay
 奥歯が浮いて、噛むたびに顔を顰めていた。

 ところが日々痛みが増すので、少し遠回りになるけれど、
 仕方なく以前の歯科医に立ち寄ってみた。

 予約で空きがなかったのに、急患ということで快く受け入れてくれた。
 やはり、来てよかった。
 新規の患者だと、こうは行かなかっただろう。

 「名前も住所も変わったのですが」

 「はい。承知しました」と新人の受付嬢は笑顔で受け取った。

 「これはひどい。もう少し早くくれば良かったのに。今から抜きましょう」
 「え?今からですか?」
 わたしは心構えができてなかったので、ほんの少しうろたえた。
 「このまま放っておいても痛むだけでよくはならないよ」
 「はい。それならお願いします」
 「もう少し早くくれば手立てもあったのに。最後に来てからすでに一年ですよ。
  後二本、放って置けない歯がありますから、ちょっと通ってくださいね」
 目の前のレントゲン写真で、丁寧に説明してくれた。

 最初、カルテとわたしの顔を見比べて、少し戸惑いの色をにじませた。

 先生は軽くうなずいた。きっとわたしの事情を察してくれたのだろう
 帰るときは新しい名前で呼んでくれた。
 「また来週。どうぞお大事にー」
 そこには、かれこれ二十年近く通っていた。
 たったそれだけのことが、故郷に帰ったみたいでものすごく嬉しかった。

 通りの喧騒も、街の灯りも、どこかすでに身体に馴染んだものだった。
 麻酔のかかった奥歯のあたりを舌先がまさぐっている。
 舌先に鉄分を含んだ血の味を捕らえた。
 馴染んでないのは、空洞になった元の奥歯のあった場所とわたし自身だった。

 わたしは以前住んでいた家路に背を向けて、懐かしい道を駅へと急いだ。





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最終更新日  2005年02月16日 15時35分53秒
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Re:小さな故郷(02/15)  
医院、歯科医も各科も、あう病院、なれた病院が一番ですよ~

安心してお任せできるでしょう~
病いは気からって言葉もあり、知らない先生は信用しがたいことや時もあるから。

懐かしい道も、たまにはいいものでしょう^^
(2005年02月16日 22時55分55秒)

Re[1]:小さな故郷(02/15)  
Kara~慈恩・・・さん

今日も仕事が終わってから行ってきます。
娘達と三人で、スペイン料理を食べてきます^^) (2005年02月17日 15時32分25秒)

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