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2005年07月10日
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テーマ: 吐息(401)
カテゴリ: Essay


 その上、気が滅入るような元夫の病状。
 気分は最高にブルーなのに、長女と表参道のTOD'Sビル見学へ出かけることになっていた。

 頭の中を過ぎる不安は、やはり睡眠を大きく妨げた。
 目覚めているのに、身体はまだ眠っている。
 薄目を開けて目覚まし時計を眺めると、すでに八時を大きく回っていた。
 あわててベッドを抜け出したが、とても外出する気分ではなかった。
 冷蔵庫から冷たい麦茶を取り出して、コップに一杯飲み干した。

 それと同時に身体は一斉に覚醒を始めたようだった。

 「ねぇ、行く?」
 「行く」
 「なら、起きてよ」
 「うん。後五分」
 長女は、身体を海老のように曲げて背を向けた。

 その姿を見て、「今日は家に居たいけどなー」と一人ごちた。
 昨日までのことが、すばやく脳裏を過ぎった。
 仕事をやめて、別れた夫の最後の看病に行くこと。
 夢なら良いのだけれど…。
 確かな一日が、まるで遠くの出来事のように感じられる。

 ベランダに飛び散った鳩の糞の水洗いもしたいし、いつもより丁寧に部屋中の埃を拭いたい。
 洗濯機をフル回転させ、掃除機の唸る音がしても、長女は眠り続けている。
 半分くらい、わたしは外出を諦めていた。 
「仕度まだなの?」
 そんな折、長女が寝ぼけ眼で起きてきた。

 「うん。行く」

 仕度に小一時間かかって家を出たけれど、二人ともえらく不機嫌だった。
 本当は行きたくないのに、なぜか二人ともそれを言い出せないでいた。
 それなのに、電車に乗っても歩きながらも、表参道に到着しても言葉は出なかった。
 「お腹すいた」
 長女の口から最初に出た言葉だった。
 「じゃ何か食べる?」
 本当は、小じゃれたカフェでブランチをする予定だったのに、二人とも気分は少しも乗らなかった。
 長女の気持ちは分かっていた。
 しばらく田舎に引っ込んでしまうわたしに、都会の喧騒を味合わせたかったのだ。
 表参道でなかったら、銀座を提案してきたのも、そんなところからだった。
 「食事は夕飯でちゃんと食べよう。とりあえずは甘味でいかが?」
 というわけで入った店で、わたしはみたらし団子を、彼女は抹茶パフェを食べた。

 TOD'Sビルは、外見同様に内部も素晴らしく垢抜けていた。
 光の入り具合、シャープなデザイン。
 そして展示されている商品とのコラボレーション。
 そのどれもが、共鳴しあって相乗しているのだった。
 長女は、建物も良いけど中の方に興味があるらしく、バッグを一つ持っては値札を眺めている。
 「どう?」
 「そりゃあ欲しいけど。わたしにはまだ無理かな?でも、もう少し頑張ったら自分の褒美に買ってあげても良いかな?」
 などとうそぶいている。
 値札を見ると、やはりセレブ御用達。
 道のりは遠そうだ。

 ようやく気分が上昇してきたのか、周囲の喧騒も建物も身体に馴染んできた。
 若い頃、わたしがよく歩いた青山辺りまで足を伸ばして、インド料理の店に入った。
 以前、一度だけ一緒に来たことがあったのだ。
 本格的なインドカレーにナンは、食欲をそそってくれる。
 美味しいものは、ささくれ立った気持ちをすぐに癒してくれた。

 最近、よくぶつかる長女だけれど、気持ちはすごく伝わってきた。
 「今日はありがとう」
 「こちらこそ」
 素直になった彼女の『ありがとう』が、わたしの心の奥底までに沁みた。
 もう少し、頑張らなくちゃ。





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最終更新日  2005年07月11日 15時12分09秒
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