こころのしずく

こころのしずく

NARUTO 28~33




お礼リクエスト小説。黒ヒナタが様々な人々(主にカンクロウ)に危害を加えるお話です。(黒ヒナタとカンクロウ他・ギャグ)

注:キャラがものすごく壊れていたりものすごく酷い目にあったりしています。苦手な方は絶対に読まないでください。ご了承頂ける方のみお読み下さい。


 あの日以来
 絶対近づかないと
 心に誓った あの女
  <カンクロウ 心の詩>

『黒の完全犯罪』(NARUTO28)

 その日暇だったカンクロウはふらりと木ノ葉の里をぶらつき、偶然会ったナルトにポンと肩をたたき声をかけた。
 キラーン。建物の影から白眼の瞳が爛々と光った。その瞳の持ち主は、中忍になっても相変わらず木ノ葉の里ナンバーワン女ストーカーヒナタだった。
「おのれ憎き砂狸の一味カンクロウ。よくも私のナルトくんに触れたわね」
 たったそれだけで、ヒナタは怒り心頭に発していた。最近、ナルトより背が高くならないようにと牛乳を飲んでいなかったヒナタ。カルシウム不足のせいだろうか。さらにヒナタは反抗期真っ最中。恋にときめくお年頃。
 ヒナタの怒りは、ゴゴゴゴゴと地鳴りがするほど凄まじい。
「この落とし前、必ずやつけてあげるわ」
 ヒナタの逆鱗に触れたカンクロウの運命は……。

「こんな夜遅くに夜遊びに出かけようとするとは……。お前はいつからそんな不良娘になったんだぁ!」
 パンパンパパパパパーン! 
「ふごぁっ」
 ヒナタは父ヒアシに往復ビンタを食らった。ヒナタは頬に手を当てうつむき……。ヒアシは娘の姿を見て心躍った。我が宗家長女ヒナタは、とにかく健気! 父には娘のことなど手に取るように分かる。ヒナタは目に涙をため、小さな声で、ごめんなさい、とつぶやくのだ。そしてさらに、明日は一日謹慎だ、などと言うと、落ち込みきって蚊の鳴くような声で、はい、とうなずくのだ。ヒアシはそんな健気泣きヒナタに萌えていたため、ヒナタが幼少の頃からいじめまくってきたのだ。
「父上……私……」
「謝っても許さん」
 ここで厳格な態度を崩さぬことが大事だと思いながら、ヒアシは娘の健気萌えシーンの始まりにわくわくしていた。が……。
「私、やられたらやりかえす主義なんです」
 ヒナタはヒアシに柔拳を食らわせた。
「ゴフッ」
 不意打ちを食らったヒアシは吐血して倒れた。しかしヒアシは体より心の傷のほうが大きかった。あの萌え娘ヒナタが壊れてしまった! ヒアシはショックのあまり泡を吹いて失神した。
「父上ったらあっけないのね。あらネジピー」
 ちょうど門前を通りかかったネジは、ヒナタに呼び止められた。ネジは振り向く。なんだか今ネジピーと呼ばれた気がしたが、疲れているせいだろうと思った。
「はっ! ヒアシ様! どうされたのですかっ!?」
 ネジは駆けつけた。
「ああコレはいいの。それより、ちょっとお願いがあるんだけど……」
「コレって……」
「砂狸の里まで、連れて行ってくれないかしら」
 砂隠れの里を砂狸の里というヒナタ。ネジはこの間違いを指摘するかどうか迷った。
「あの……聞いてる? ネジピー」
 ネジは錯乱状態におちいった。
「ネ、ネ、ネジピー、というのは、もしやオレのこと……ですか?」
「うん!」
 ヒナタはくったくのない笑顔で答えた。ネジは務めて冷静になろうとした。きっとヒアシ様が倒れたのを発見して、頭がおかしくなってしまったに違いない。
「ヒナタ様! 病院へ行きましょう!」
 ネジはヒナタの腕をとって歩き始めたが、ヒナタは動かない。
「ヒナタ様?」
「あの、聞いてなかったのかな、私の話……」
 ヒナタのまわりから、またしてもゴゴゴゴゴと音がわきあがる。
「砂狸の里へ連れてけって言ってんのよネジピーさっさとしなさいよブンケ」
 ネジはヒナタの豹変ぶりとネジピー+ブンケと言われたショックで四つん這いになった。ヒナタはその上にドスンと乗った。
「ふふふ馬みたいで素敵よネジピーブンケ! さあこのまま砂狸まで三分で行ってちょうだい」
「そっそんなヒナタ様! 砂隠れ……あ、いえ、砂狸の里まで三日はかかりますよ!」
「問答無用。命を削ってチャクラを放出させるのよ。だいじょうぶ。後で病院には連れてってあげる。集中治療室へね。じゃあ早速、ハイドー!」
 ネジは泣きながら、人生終わりだと思った。

「チッ。砂狸まで七時間もかかるなんて……」
 ヒナタは激昂しながら、風影の家へ直行した。ネジは砂隠れの里の入り口でぶったおれヒナタに置いていかれたが、かろうじて意識のあったネジは、ぷるぷる震える手でなんとか携帯を取り出し、医療班を呼び助かった。だが心の傷は大きく、病院のベッドで泣きながら、父上オレは人間以下の扱いをされてしまいました、とブツブツつぶやいていた。
 午前二時。ヒナタは、圧倒的な強さで見張りを次々と倒し、風影邸へ侵入した。部屋がたくさんあったので、片っ端から開けてみる。途中で金目のものがあると、ヒナタはすべて盗んだ。
 そしてあるドアを開けると、そこには風影我愛羅が眠っていた。ヒナタは我愛羅の前髪をそっとかきあげる。
「フン。なにが愛よ。あんたなんかこーよ」
 ヒナタはポーチから白と黒の油性極太マジックを取り出すと、白で愛の文字を消し、代わりに極太黒文字でヘッポコプーと書いた。
 次の部屋を開けると、テマリが眠っていた。手に抱いているのは、小さなシカマルぬいぐるみ。
「なによこんなもん。彼氏がいるからっていい気になってんじゃないわよ」
 ヒナタはシカマルぬいぐるみを窓から投げ捨て、代わりに猛烈な勢いで作り上げたグロい大蛇丸ぬいぐるみをテマリに持たせた。しかもそのぬいぐるみに呪いをかけた。
 ヒナタが次々に扉を開けていくと、とうとう憎きカンクロウを発見した。ヒナタはずかずか部屋へ侵入すると、カンクロウを足蹴にした。
「おらぁ! 起きなさいよカンクロー!」
「……んぁ?」
 カンクロウはむっくりと起きあがった。ぼんやりした意識の中、目の前にはなかなか好みの女がいる。まてよコイツ見たことあるな。そうだ。木ノ葉の里の……。
「って、確かヒナタとか言ったっけ? なんでここにいるんじゃん!」
 カンクロウはめちゃめちゃあせった。いくら好みの女とはいえ、真夜中に突然部屋にいるというのはどう考えても異常だ。
「あ、その……。ごめんなさいカンクロウさん。私、あなたに会いたくて……」
「オ、オレに?」
 年頃少年カンクロウは、胸が高鳴った。こ、これは噂に聞く、夜這い逆バージョンでは!!
「な、なんでじゃん?」
 カンクロウはドキドキしながら、期待に胸膨らませた。
「なんでじゃん、ですって?」
 ヒナタの脳内からブチンと切れる音がした。
「復讐に決まってるでしょー!!!」
 ヒナタはチャクラを全身にたぎらせ、右手に螺旋丸、左手に千鳥をバチバチさせた。カンクロウは仰天のあまり口をカパカパさせた。
「ちょちょちょちょちょっと待てー! いったいオレが何をしたって言うんじゃん!!」
「なにをしたかですってー!? あれほどの超極悪S級犯罪を犯しておきながらシラを切るつもりなのね!」
 ななななななにをしたんだーオレは! とカンクロウは混乱する頭をなんとか回転させて考えた。しかし全く身に覚えがない。
「あ、あの、ヒナタ、さん。お、落ち着くじゃん。とっ、とりあえず、落ち着こうじゃん」
 カンクロウはヒナタを刺激しないように、まるで腫れ物にさわるようにヒナタをなだめた。
「あんたが落ち着かないだけでしょ。まぁいいわ。何よ?」
「もし良かったら、オレがなにをしてしまったのか、教えてください、じゃん」
 カンクロウは恐怖のあまり、完全に低姿勢になっていた。
「キー!! 自分が犯した罪にも気付いていないなんて! サイテーサイテーサイテー」
 ヒナタが金切り声を上げている間、カンクロウも頭の中で、この女最悪最悪最悪……とエンドレスに泣き叫んでいた。
「……いいわ。あなたがなにをしてしまったのか、教えてあげる」
 ヒナタは急に静かに語った。
「あなたはマイダーリンナルトくんの……」
 再びヒナタからゴゴゴゴゴと轟音が響き出す。螺旋丸は最大限にチャクラが圧縮され、しかも大玉螺旋丸と化している。ものすごいチャクラで千鳥の腕をバチバチさせすぎて、腕はこげかけている。
「ナルトくんの肩をポンって叩いたのよー!!!」
 ヒナタはカンクロウに螺旋丸&千鳥を食らわせた。
「たった……それ……だけ……?」
 その言葉に、ヒナタはこの世のものとは思えないほど恐ろしい形相になった。
「ぬあんですってー!?」
 ヒナタは倒れたカンクロウを踏みつけて部屋の奥へ行くと、飾られていた傀儡コレクションを一つ残らずバッキバキに壊した。
「……じゃん」
 カンクロウはショックのあまり気を失った。
「仇は討ったわよ! ナルトくん!!」
 ヒナタは爛々と目を輝かせると、怪鳥のような形相になり猛スピードで木ノ葉の自宅へ帰り、お布団に入って眠った。パジャマ、布団、枕はすべてナルト柄で統一されていた。

 翌日、砂三姉弟は大変だった。
「オレの愛が……オレの愛が……」
 我愛羅は鏡に映ったペッポコプーの文字をそこらへんに転がっていた消しゴムで消そうと一生懸命だったが、いっこうに落ちなかった。
「うっ、うっく……。私の手作り……愛のシカマルぬいぐるみが、こんな気持ち悪いブツに……」
 大蛇丸ぬいぐるみは舌をべろりんとのばしていた。しかも全身血みどろで、明らかに呪われていた。
「くそぉあの女……ケーサツにつきだしてやるじゃん!!」
 カンクロウは110番に電話した。

 しかし警察はヒナタを逮捕できなかった。なぜなら、ヒアシとネジはショックのあまり黒ヒナタの記憶をなくしてしまったからだ。うちのヒナタが、あのヒナタ様がそんなことをするはずがないと、二人は心から警察にうったえた。
 結局証拠もなく、もちろんヒナタはシラを切り通したため、この事件はうやむやのままに終わった。

 しかしカンクロウは諦めなかった。傀儡コレクションを全破壊されたことは、カンクロウにとって耐え難い屈辱とショックだった。螺旋丸&千鳥を食らったその体で病院へも行かず、木ノ葉にやってきたのだ。
「黒……黒……どこじゃん……」
 壊れたおもちゃのようにブツブツと同じ言葉を繰り返しながら、カンクロウは殺気をただよわせ血眼でヒナタを探す。
 対にカンクロウはヒナタを見つけた。ヒナタはナルトと超幸せそうに並んで街を歩いている。
「おのれ黒ぶっ殺す!!」
 カンクロウはヒナタに猪突猛進した。
「よくもオレの傀儡コレ――」
「ナルトくん助けてっ!」
 ヒナタは可愛い声でナルトの背中に隠れた。
「おいカンクロウ! ヒナタになにするんだってばよ!」
 ナルトは両手を広げてヒナタをかばった。
「どけナルトっ! こいつは可愛い弟我愛羅の顔にヘッポコプーとか書いて、愛しい姉さんテマリが大事にしてたシカマルぬいぐるみを捨てたあげく世にも恐ろしい呪われた大蛇丸ぬいぐるみを持たせ……あ、ちなみにそのぬいぐるみは舌をべろりんとのばし……そして家の財産をすべて盗んだあげく……そしてオレに螺旋丸&千鳥をくらわせ……そしてそしてそして最愛の傀儡コレクションを全破壊したじゃん!!!」
 カンクロウはヒナタの悪事の多さがあまりに多かったため、説明しただけで疲れ果てた。しかもヒナタの悪事は、カンクロウが説明したよりさらに多い。
「なにバカなこと言ってんだ。ヒナタにそんなこと出来るはずないだろ」
 ハァハァしているカンクロウに、ナルトはさらりと答えた。
 出来るんだよそれが!! カンクロウは心の中で叫んだ。
「ナルトくん、私、怖いよ……」
「だーいじょうぶだってばよ。オレが守ってやっからなっ」
 ヒナタに頼りにされたナルトは気分上々、やる気満々になっている。カンクロウはとうとう観念した。
「分かったじゃん……。じゃあなナルト……」
 悔し涙をのんでヒナタを見ると、ヒナタはナルトの背中で悪魔の笑みを浮かべていた。そしてヒナタはカンクロウに近づいた。
「カンクロウさん。こんなにひどい怪我して……。だいじょうぶですか?」
 そうして傷をみるふりをしながらカンクロウの耳元でそっと――
「いい気味」
 と言った。

 ふふ……。ふふふふふ……。カンクロウの頭の中を、黒ヒナタの笑い声がこだまする。
「あの女、マジ怖ぇじゃん。世の中にあんな腹黒真っ黒女がいるとは……」
 カンクロウは、もう二度とナルトには触れないと、そしてヒナタの前に姿をあらわさないと固く心に誓うのだった。

*悲しいおまけ*
「聞いてくれよ、いのー。テマリんちに行ったら、窓の下にオレのぬいぐるみが投げ捨ててあって……。そんでテマリの部屋へ行ったら、代わりに大蛇丸のぬいぐるみが置いてあって……あ、ちなみにそのぬいぐるみは舌をべろりんとのばし……あいつ大蛇丸とつきあってるのかよー。くっそぉあいつのどこがいいんだよー! ってかオレはフラれたってのか? 訳わかんねーよ! オレの方が正義キャラだし頭いーし人気も上だし……」
 シカマルの熱いアピールは永遠と続いた。ここにも、黒ヒナタ被害者がまた一人……。



☆あとがき☆
黒ヒナタとカンクロウのギャグというリクエストを頂きました。
辛口すぎましたね(>_<) ギャグを通り越して、なんかホラーになってしまったような気が……。いろいろ、すみません。お礼小説なのに、恩を仇で返している気がしてなりません(>_<)
この物語を、相互リンク記念絵をくださったお礼として、哀鈴様へ捧げます。




55555キリ番リクエスト小説。サスケ奪回任務後。土(ツチ)と子色(ネイロ)※ともに土鳥子様オリジナルキャラ。木ノ葉の少年と少女、幼なじみな二人の物語。ナルトとサクラの微妙な関係をからめています。(土と土色他・ほのぼの)

※土と子色の簡単プロフィール
土  :14歳の少年(ナルトより一つ年上)
子色:14歳の少女。あだ名はネロ。


『苺クリームケーキ味』(NARUTO29)

 土(名字不明)十四歳。のんびり屋で戦略家な少年忍。子色。十四歳。自信家で好戦的なくノ一。土は綱手の古い友人の子であるが、謎多き少年。幼なじみ子色とともに、今回カカシ班の任務に参加中である。ナルトたちと顔合わせをした二人だが、今日の任務はなし。同じアパート内に住む二人は、どちらが誘うともなく演習場へと向かう。
「なんで土がついてくるのー?」
「ついてってるわけじゃないよ。ネロがついてくるんだろ」
「ネロじゃなくて、ネ・イ・ロ! 何度言えば分かるのよ!」
「はいはい。行くぞネロ」
 取り合わない土に、ふくれっ面の子色。土は、そんな子色をちらりと見る。忍らしからぬおしゃれな服装は、いかにも子色らしい。土はふと、ナルトの言葉を思い出す。

『子色姉ちゃんの方が大人っぽいってばよ』

 土と子色を見比べて言ったナルトの言葉。ナルトの心は真っ直ぐで、嘘偽りがない。土は改めて子色を見ると、確かに子供のころには感じなかった色気というか、たとえば胸が少しふくらんで――
「ちょっと! なにじろじろ見てんのよ!」
「なっ、お、お前なんか見てないよ」
 土はあわてて歩を早めるのだった。

 リングを手にはめて攻撃してくる子色を、土は交わし続ける。二人の他に、演習場には誰もいない。
「もう! なんで避けてばっかなのよ! 修業にならないじゃない!」
「一発も当たらないくせに……」
 好戦的な子色に、防戦一方の土。あまり戦いが好きでない土は、ある意味子色とは正反対の性格である。
「ごちゃごちゃ言わないの! 早く修業をすませて、明日の任務に着ていく服を買いに行くんだから」
「また服買うのかよ」
「いいじゃない。女はおしゃれよ。土も付き合ってよね」
 呆れ気味の土を、子色はさらりと誘う。
「なんで俺が……」
「一人より二人のほうが退屈しないし」
「……それだけ?」
 その時、ナルトとサクラが演習場に現れた。
「あれ? なんで土と子色姉ちゃんが一緒にいるんだってばよ」
「だから土さんは年上なんだから、呼び捨ては失礼だって言ってるでしょ!」
 サクラはナルトをにらむと、土たちのほうを向き、笑顔でお辞儀をした。
「こんにちは。土さん。子色さん」
「こんにちは。サクラさん。ナルト」
 なにげに土も、サクラだけさん付けで呼んでいる。
「こんにちは! ちっちゃいお二人さん」
 くったくのない笑顔であいさつする子色に、ナルトとサクラは固まった。ちっちゃい……ちっちゃい……ちっちゃい……。ナルトとサクラの頭では、その言葉がエコーしていた。
「ネロ! ちっちゃいっていうなよ! いくらちっちゃいからって……。あ、ごめん」
「い、いえ……」
 サクラはかろうじて笑顔で答えたが、二人にその言葉は決定打だった。
「ほらー! 二人とも落ち込んじゃってるじゃない! アンタが悪いのよ土!」
「お前が初めに言ったんだろ!」
「私はさりげなく言っただけでしょー! アンタはもっと内心グサリとくる言い方だったわ!」
 ものすごいいきおいでケンカを始めた二人を、ナルトとサクラは呆然と見ていた。
「ナ、ナルト。そろそろ帰ろっか」
「そ、そうだな、サクラちゃん」
 二人は去っていく。
「あ、ねぇちょっとサクラさん、ナルト。修業に来たんじゃなかったの? 自分悪かったと思ってるからさ」
「そうよ土が悪いのよ! もっとあやまんなさい?」
「なんだとぉ!? だからネロが初めに言ったんだろ!」
 そうして土と子色が本格的にケンカを始め、気が付いたときにはナルトたちは既に去っていた。しかも朝からここにきたというのに、既に夕方になっている。
「お腹すいたよー! 服買いに行けないよぉ……」
 ペタンと座り込み、駄々をこねる子色。土は、ふぅと息をつくと、子色の前に腰を下ろした。そして、リュックからなにかを取り出した。
「子色。ほら」
 土は子色の口に、そのなにかを放り込んだ。
「……ん、甘い」
「木ノ葉チョコレート苺クリームケーキ味。お前が好きそうだから、食料のついでに買っておいた」
「おいしい!」
 子色は、ぱあぁと笑顔になった。土は、チョコレートを買っておいて良かったと思った。
「ねぇ土。ナルトくんとサクラちゃんって、私たちに少し似てない?」
「どんなとこ?」
「しょっちゅうケンカするところ」
 にっこり笑う子色に、土はガクッとした。
「それなのに、不思議と、仲良しなところ」
 土は、ドキンとした。
「チョコレート、甘くておいしかった。ありがとう、土」
 夕日にとけてしまいそうな子色の笑顔を、素直に可愛いと土は思った。



☆あとがき☆
土烏子様より55555キリ番リクエストです。
作中の土くん、子色ちゃんは、土烏子様の小説『NARUTO-ナルト- 土物語』のオリジナルキャラです。幼なじみ二人の微妙な関係を、ナルトとサクラをからめて書いてみました。尚、『子色姉ちゃんの方が大人っぽいってばよ』というナルトの台詞は『NARUTO-ナルト- 土物語』からの引用になります。
55555キリ番リクエストありがとうございました。
この物語を、土烏子様へ捧げます。




イタチお誕生日企画作品。うちは一族悲劇の日から約一年。サスケが誕生日に見たものとは……。(イタチとサスケ兄弟もの・シリアス)


 青い空と。
 ぽかぽかの日差しと。
 野に咲くたくさんのたんぽぽ。

 平和な春。
 見上げた先にはいつも。
 優しい兄の笑顔があった。


『太陽とたんぽぽと……』(NARUTO30)

「サスケは本当に、たんぽぽが好きだな」
 かけずりまわりはしゃぐサスケに、イタチは言う。
「……うん」
 たくさんのたんぽぽに囲まれて。あたたかい太陽の下で。腰を下ろす兄を見つめて。
「どうした?」
「……ううん。なんでもないよ」
 サスケは照れたように笑うと、またかけだした。

 夕方になり、疲れて眠るサスケをおぶり、家路を歩くイタチ。
 サスケの手には、一輪のたんぽぽがにぎられている。
「……ん」
「起きたのか? サスケ」
「これ……兄さんに……」
 とろんとした目で、サスケはイタチにたんぽぽを差し出した。
「オレに?」
「うん……。だって……す……き……」
 そうしてサスケは、またすぅすぅと眠る。居心地のいい、一番安心出来るその背中で。

 目が覚めたら、静かだった。
「ゆめ……」
 小さなサスケは、ベッドから体を起こす。
 うちは一族の悲劇の日から、約一年の時が経つ。サスケは寝ぼけまなこで顔を洗い、ご飯を作る。独り暮らしには慣れたけれど、孤独な心が癒えたわけではない。たびたび、昔の夢を見る。
 毎年一緒に兄と過ごしたたんぽぽ畑。けれど独りになった今年はもう、行かなかった。やがてたんぽぽは枯れ、もう真夏の太陽が照りつける季節になっていた。
 ふとカレンダーを見たサスケは、今日が自分の誕生日であったことに気付く。けれど、サスケはもくもくと朝食を食べ、そして修業へ行く支度をする。

 家のドアを開けた瞬間、サスケは信じられない光景を目の当たりにした。
 辺り一面のたんぽぽ畑。青い空から舞い降ちる、たくさんの黄色い花びら。雨の雫をのせた花たちは、まぶしい太陽に照らされ、きらきら輝く。息を呑むような、幻想的な世界。
 サスケは、少しの間魅入っていたが、ハッとして黄色い花の中へかけだした。
「兄さん……!」
 サスケは、この世界のはてをめざし、思い切りかけていく。
「この幻術、兄さんが見せてくれてるんでしょ! 今日はオレの誕生日だから……。そうなんでしょ!」
 何度も転んでは、また起きあがりかけていく。息を切らして。
「ありがとう兄さん……。オレがたんぽぽを好きだと思って、プレゼントしてくれたんでしょ」
 そうしてサスケは、兄の姿をもとめて必死で走る。けれど、兄の姿はどこにもなく、永遠と広がる花畑。とうとうサスケは転んで、動けなくなる。
「だけど……ちがうんだよ兄さん……。オレは……たんぽぽが好きなんじゃなくて……」
 小さな肩を震わせるサスケ。
「あったかい春の日に……太陽の下で……」
 涙声で、たんぽぽ畑を抱きしめるサスケ。
「たんぽぽに囲まれてる兄さんが……好きなんだ……」
 そうして、サスケは泣きじゃくり……。
 やがて泣き疲れて、目を腫らしたサスケはあおむけになり、空を見上げる。ふわりふわりと舞い落ちる花びらは、サスケの体にそっと降り積もる。サスケの頬に張り付いた花びらは、あたたかい太陽の陽をいっぱいに含み心地よく。サスケの涙は染みこまれていく。
「兄さんに……包まれてるみたいだ……」
 サスケはそっと、目を閉じた。
 感じるのは、花の香り。あたたかい太陽。
 兄の、ぬくもり……。



☆あとがき☆
 記念すべき(?)NARUTO-ナルト小説30作目です。この小説は恐れ多くも「Mutsumix」むつき様が開催された「兄と弟(と書いてイタチとサスケと読む)期間限定お誕生日お祝いページ」へ投稿させて頂きました。そして掲載して頂きました。企画に参加するのは初めての経験だったのでドキドキでしたが、管理人のむつき様はとてもあたたかく作品を迎え入れてくださいました。本当にありがとうございます。 
 優しいイタチ兄様と、そんな兄様が大好きでたまらない仔サスケを書いてみました。二人の兄弟愛を、たんぽぽとか、太陽とか、ほのぼのあったかいもので表現してみました。イタチ生誕企画なのに何故サスケの誕生日? ってことにはあまり突っ込まないでいただけると^^; 未熟小説ですが、読んで頂ければ幸いです。

追記:この小説は、企画主催者様であるむつき様と、挿絵を描いてくださったかんこ様へ捧げます。




64500キリ番リクエスト小説。ナルトたちが忍になりたてDランク任務をこなしていた頃。ナルトとサスケ、任務中の話です。(ナルトとサスケ(多少サスナル含)・ギャグ)

注:サスケのキャラが壊れています。苦手な方はご遠慮ください。
注:多少サスナルが含まれます。苦手な方はご遠慮ください。

『サスケのリュック』(NARUTO31)

 ナルトとサスケ。二人きりの任務は初めてだった。
「フン。せいぜいオレの足をひっぱるなよ」
 クールに決めたサスケは、自分の十倍あるリュックを平然と背負った。
「なっ、なんだってばよその山のような荷物はっ!」
 当然、ナルトはビックリ仰天だ。
「まずめんつゆだ」
「は?」
 ナルトは目をまんまるくする。
「肉じゃがにめんつゆはかかせん。そんなことも知らんのか」
 やれやれといった感じで、サスケはため息をつく。
「いいかナルト。肉じゃがをつくれんと嫁にいけんのだぞ。そしてだ……このめんつゆは、これ一本で味付けカンペキーなすぐれものだぜ。ふふふ……」
 サスケは一見クールを装っているが、実は超自慢気なのが見え見えである。
「おいサスケ。それが任務とどういう――」
「具の主体となるトマトも忘れちゃいねーぜ」
 サスケはもはや自分の世界に入り込んでいる。しかも意味不明である。
「具が……トマト…って……。肉じゃがだったらじゃがいもだろ」
「このウスラトンカチが。どこの世界に肉じゃがにじゃかいもを入れるヤツがいる。普通はトマトだろう。というか、トマトのみだな」
 真顔で言い切るサスケが怖い。
「じゃあまさかそのリュックにはトマトがいっぱい……」
「いやトマトは朝五個ほど川に流してきた。地球がどうなってもよくなりますようにと願いを込めてな」
 ナルトは朝っぱらから壊れっぷり全開なサスケに、あまり関わらないようにしようと固く心に誓った。しかしそんなナルトの気持ちなどまるでお構いなしに、サスケの話は続く。
「知ってるかナルトちゃん。地球は丸く――」
「いや地球とかじゃなくて今オレのことナルトちゃんって!!」
「嫌か?」
 サスケは不思議そうにたずねる。
「マジで嫌だってばよ」
「地球は丸く、宇宙に浮いているんだぜ」
 サスケはナルトを無視したあげく、当然のことを超得意気に話す。
「どーでもいーけど……お前リュックひきずってんぞ」
 ナルトは疲れてため息をつきながら、呆れた目でサスケのバカデカリュックを見る。
「それと爪切りと消しゴム。鉛筆はないがな」
 どうやらサスケは、リュックの中身を再び語り始めたらしい。ナルトはいいかげん頭にきた。
「おいサスケ! もう任務中だってばよ!!!」
「Dランク任務といっても多少は危険が伴う。気を抜くなよドベ」
 突然元に戻ったりするから、なおさら手に負えない。
「だったら早く里を出て依頼主のところへ行くってばよ! お前が荷物ひきずって歩くから、一分間に三歩しかすすめねーじゃないか!」
「よし。休憩にするか」
 サスケは、当然のように往来のど真ん中にバカデカリュックを下ろした。そしていそいそとテントを張っている。その異常な光景を道行く人々はじろじろ見たが、一番滝汗を流したのは言うまでもなくナルトである。
「ナルト。今日からここがオレたちのすみかだ。よろしくな……」
 サスケは無表情ながらほんの少し顔を赤らめる。どうやら照れているらしい。
「肉じゃがを作ってやろう。おっとトマトを冷蔵庫から出さねーと」
 サスケは、バカデカリュックから大型冷蔵庫を取り出した。
「テレビでも見てくつろいでいろ。オレの料理が食えるんだありがたく思えよふふふ」
 サスケはさらにリュックからテレビとソファーを取り出して瞬時にセットし、混乱しているナルトを座らせた。さらにさらにシステムキッチンを往来に堂々とセットし、サスケは爛々とトマトをざく切りにしている。火遁豪火球でボウボウと火を吐きながらトマトを炒めつけているサスケは、どこからどうみても異常そのものだった。
 やがて混乱ナルトの前に、皿がドンと置かれた。皿に山盛られていたのは、真っ黒に燃え尽きたトマトの残骸である。
「なっ、なっ、なっ……」
「さぁ食え! 心ゆくまでな!!!」
 ナルトは混乱を通り越して石になった。
「どうした食わんのか。仕方のないやつだなオレが食わせてやろう」
 サスケは残骸をスプーンですくうと、ナルトの口に無理矢理押し込めた。
「どうだ最高だろう」
 満足感いっぱいなサスケの横で、ナルトはショックのあまり覚醒した。
「おっ、おっ、おっ……」
「なんだナルト、上手いか? それとも大事な話でもあるのか? オレのことがす……いや、何だ」
 ふふん心の準備は出来ているぜと言わんばかりに、サスケは余裕たっぷりの笑みを見せる。
「お前なんかだいっきらいだー!!!!!」
 ナルトは泣きながら叫ぶと、ダッシュで行ってしまった。
「ナルト……」
 サスケは、リュックの中身を往来にぶちまけた。そこには、テーブルや箪笥等家具から耳かき棒等の小物まで生活用品一式がそろっていた。さらには『サスナル命!』と書かれたダブルベッドまであった。
 サスケは任務も荷物もほったらかしでその場を後にし、帰りながらナルトとの出来事を振り返ってみた。
「ごく普通の会話をして、ただ一緒に暮らそうとしただけだってのに……。愛の告白がそれほど恥ずかしかったのか。ふふふ可愛いヤツだぜ……」
 この期に及んで、自分の壊れ加減にはみじんも気付いていないサスケであった。
 サスケは爛々と目を光らせながら、次なるサスナルー作戦を楽しげに練るのだった。



☆あとがき☆
airin様より64500キリ番リクエストです。
「ナルトと壊れサスケ・ギャグ ※少々サスナル可」というリクエストが意外に難しく……。う、うまくいってますでしょうか(ドキドキ) リクエスト内容を受け付けておきながら、いつもずれててすみません(^-^;;) しかも勝手にいくつか造語が入ってます;; 
ちょっとサスケの壊れレベルが高すぎましたね^^; 次はもっと精進しますのでお許しを……><
64500キリ番リクエストありがとうございました。
この物語を、airin様へ捧げます。




サスケお誕生日企画作品。サスケ五歳の冬。兄弟の絆を書いた物語です。(イタチとサスケ兄弟もの・シリアス)


兄さんが好き。
幼い頃は、ためらいもなくそう言えた。


『ココアとマフラーと兄』(NARUTO32)


 その年の冬は寒かった。五歳のサスケは、兄に手を引かれ、土手を川沿いに歩いていた。日も沈みかけて、辺りは薄暗い。突然の強風に、サスケは思わず兄に抱き付く。兄も、サスケの肩に手をやる。
「あっ」
 サスケは小さく叫んだ。ホットココアの缶が小さなサスケの手から離れて、土手を転げ落ちていったのだ。それは、寒そうなのを必死でこらえているサスケに、先程兄が買ってやったものだった。サスケはそれを、ずっと大切そうに握りしめながら歩いていたのだ。
「待っていろ」
 兄がぼそりと言った次の瞬間には、サスケの目の前から消えていた。
「兄さん……」
 独り残されたサスケは、ぽつんとつぶやく。一秒、二秒、三秒……。兄が、いない。
「ほら、サスケ」
 こつん、と、サスケの額に当てられたのはココアの缶。ひんやりとした感覚に、驚いて見上げた先には、水に濡れた兄が微笑していた。どうやら、川に潜って拾ってきたらしい。
「兄さんだいじょうぶっ? オレのせいで……ごめんなさいっ……」
「これくらいなんでもない」
「……」
 サスケは、数秒間兄を見つめると、急に兄にガバッとしがみついた。堰を切ったように、思い切り泣き始める。
「泣くな。家に帰ったら、またあっためてやる」
 兄はサスケにココアを渡そうとしたが、サスケの両手は兄の服にひしとしがみついて離れない。
「……れ、……」
「なんだ?」
「お……れ……」
 サスケは泣きじゃくりながら、必死で言葉を紡ぐ。
「今……、急に兄さんが……いなくなって……、やだったよぉ……」
 うわあああんと肩を激しく震わせるサスケに、兄は少し驚き、そしてサスケを考え深げに見つめた。
「サスケ……」
 兄は、ココアをポーチにしまうと、サスケの両肩に手を置いた。
「オレの顔、ちゃんと見ろ」
 兄は、サスケの涙を手でぬぐう。サスケは、兄を見上げる。止まらない涙が、あとからあふれる。
「もしも……オレが父さんと母さんを殺して、お前から離れていったらどうする」
 サスケは一瞬びくんとした。それから、あどけない目に少しだけ大人びた表情をにじませ、考える。
 やがてサスケは、静かに答えた。
「兄さんを、憎むよ」
「そうだな……」
 兄は、微笑した。
「だけど、きっと兄さんを好きって気持ちは消えないから……」
 サスケは、さみしそうに兄から目をそらす。そして再び、兄を見つめる。
「好きだから憎んで、ずっと追いかけていくよ」
「そうか……」
 兄は、サスケのずれたマフラーを直してやると、そのままサスケを抱きしめた。

 その時。 
 サスケの頬が赤かったのは、寒さのせいだろうか。
 兄の目がうるんでいたのは、水に濡れたせいだろうか。





 あの時、抱きしめられたオレは、うれしくて。
 けれど兄はいつか行ってしまうのだと、確信した。
 背中にまわされた手から、兄の辛さが伝わってきたから。
 オレは泣くのを懸命にこらえた。

 五歳のオレが兄に伝えた気持ち。それは、十四になった今でも変わらない。
 もう、好きとは言えずに、けれどずっと追いかける。
 今年の冬も寒い。思い出すぬくもり。

 寒さに震えるオレをあたためてくれた、ホットココアと。
 巻いてもらったマフラーの、やわらかな安らぎと。

 大好きな兄の、泣きたいほど幸せな腕の中……。



☆あとがき☆
 この小説はまたまた恐れ多くも「Mutsumix」むつき様が開催された「兄と弟(と書いてイタチとサスケと読む)期間限定お誕生日お祝いページ」へ投稿させて頂きました。
 前に投稿させて頂いたのがシリアスだったので、明るいものをと思っていたのですが、気がついたらこんなものを……;; しかも誕生日とは無縁で季節はずれで(汗)
 ええと、兄を復讐しなければならない立場になったとしても、兄を好きな気持ちは消えないというサスケの気持ちを書いてみたかったんです。
 この物語を、兄弟生誕祭へ投稿させて頂くとともに、むつき様へ捧げます。




イタチお誕生日企画(2007年)作品。里を出て長い日々を過ごしたサスケが、雨の日に思い出す兄は……。兄弟の絆を書いた物語です。(イタチとサスケ兄弟もの・シリアス)


 木ノ葉の里を、第七班を抜けて、長い月日が流れた。
 アジトの外に、今日も降る冷たい雨。
 オレは、雨に濡れないよう、籠もる。
 約束を、したから。
 心が冷え切ったオレにはもう、自信はないのだけれど……。

 雨には、濡れないから。
 温かく、しているから。
 だから泣くな。七歳のオレ。

 雨の日は、いつも思い出させる。
 幼い日。降り続く雨音を、二人でじっと聞いていた。
 二人の頬に伝ったしずくと、約束――

 ああ、また、過去へと引き戻される。
 見上げればいつも、兄さんがそばにいた日々。


『雨のしずく』(NARUTO33)

 兄さんは、雨がよく似合うと思う。
 なんでか、分からないけれど。



 ある日兄さんは、雨の中、空を見上げてた。
 傘も、ささずに。
 うちは集落が見渡せる、小高い丘の上で。

「兄さん、雨、好きなの?」
「……」
「ぬれちゃうよ」
 オレは背伸びして、兄さんに傘をさしてあげた。

「サスケ……」
「何? 兄さん」
「お前がぬれる」
 兄さんは傘をとって、オレだけにさしてくれた。

 雨の音だけが響く中で。
 兄さんは言ったんだ。
 ほとんど、聞き取れないくらいの声で。

 オレは冷たいから、雨に濡れてもいい

「兄さん……」
 どうして、そんなこと……。
「けれど、お前は、温かくしていないとダメだ」

 そうして、兄さんはオレの頬にそっとふれた。
 雨に濡れた兄さんの手は、ひどく冷たくて。

「やっぱり、温かいな……」
 オレをじっと見つめる兄さんの瞳が、なんだかさみしそうなのは……
 気のせいだろうか……。

 兄さんは、雨がよく似合う。
 だけど、そんなの悲しいよ。

「兄さん……!」
 オレは兄さんに抱き付いた。
 傘を、ほおって。

「冷たいなら、オレがあたためてあげる」
「……」
「だからひとりで、雨に濡れたりしないで」


 気が付いたら、雨が落ちてこなくなっていた。
 見上げると、兄さんが傘をさしてくれていた。
 オレを抱き寄せて、兄さんもちゃんと傘に入ってくれていた。


 そのまま二人で、ずっと傘の中にいた。
 黙ったまま、雨の音を聞いていた。
 しばらくして、兄さんが口を開いた。

「こうしていると、オレがお前を冷やしてしまうな」
 そっと離れた兄さんは、うちはの集落を見下ろす。
 兄さん、どうしてそんなに悲しそうなの?

「そんなことないよっ!」
 オレは夢中で、兄さんにしがみついた。

「オレ、いつもあったかくしてるよ。これからもそうするよ」
 濡れたままの、兄さんを見上げて。
「そしてオレが、いつも兄さんのことあたためてあげるよ」

 ぎゅっと、ぎゅうっと兄さんを抱きしめたら。
 兄さんが、少しだけあたたかくなったような気がした。

 頭の上から、ふっと笑う声が聞こえた。
 そっと顔をあげると。
 兄さんは穏やかに笑ってた。

 兄さんの頬を流れる雨が
 オレの頬にぽとりと落ちて。
 伝って、流れ落ちる。

 なぜか、胸がいっぱいになる。
 うれしくて、かなしい。
 涙のような、雨のしずく。





 幼い頃、オレが一番うれしかったことは。
 クールな兄が、ほんのたまに見せてくれた、笑顔。

 あの人は今も雨に濡れながら、うちはの廃墟を見つめているのだろうか。
 はるか遠いどこかで。
 冷え切った体を、そのままに、うつろな目をしているのだろうか。

 その様はとても似合うだろう。
 けれどオレの気持ちは、今も変わらないまま……。


 あの日の約束を、今も覚えている。


――そしてオレが、いつも兄さんのことあたためてあげるよ――

 永遠に消えることのない、七歳のオレは、今もオレの中にいて。
 「兄さん」が落とした雨のしずくを、伝わせている。

 あの人を再び温めることが出来たなら
 七歳のオレは、オレという枷から解放されるだろう。
 そうして無邪気に笑い、あの人に抱き付いて。
 もう二度と、離さないだろう。



 そして今日も眠りに落ちる。
 「兄さん」と呼んだオレに気付いて振り向くあの人は。
 雨に濡れながら微笑する。

 オレは兄さんの体を抱きしめて、あたためてあげるんだ。

 今日も冷たい兄さんの体が、少しでもあたたまりますように。


 それは、繰り返される過去の夢。
 それは、七歳のオレの切なる願い。
 そして今のオレの――


 けれど今日も雨のしずくは。
 あの日の二人を濡らし続ける。



☆あとがき☆
「Mutsumix」様主催『兄弟生誕祭2007』(うちは兄弟お誕生日お祝い)参加作品です。
 昨年も参加させて頂いたので、二回目(作品としては小説三作品目)になります。お祝いのお祭りなのに相変わらずシリアスな話ですみません;;
 イタチ兄さんは一族を滅ぼしましたが、何か深い訳があるのでは…と想像しています。そしてこの兄弟は、本当は憎み合ってはいないのだと信じたいのです。イタチ兄さんはサスケに自分を憎ませようと、サスケはイタチ兄さんを憎まなければならないのだと、そう思い――お互い悲しい思いをしている気がしてなりません。二人が早くまた昔みたいに仲良く出来る日を願ってやみません。
 作品はシリアスですが、サスケの気持ちが、イタチ兄さんへのプレゼントになったらなぁと思います。
 この物語を、兄弟生誕祭へ投稿させて頂くとともに、むつき様へ捧げます。





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