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今日もまた、あの子がいた。

キレイなキレイな銀髪の少年。

少年の姿の性悪な悪魔。


“罪人の心、悪魔知らず”


俺の名前は、塩野 章太郎(しおの しょうたろう)。
NO.49863。
なんのナンバーかって?
さぁて、何でしょう?
・・・
答えは地獄(正しくは魔界、下界)の罪人ナンバー。
俺の罪は、人殺し。
殺したのは親友。
俺の恋人、愛する人を自殺に追い込んだ我が親友。
親友の死体を山に埋め、俺は恋人の墓の前で首を切った。
今、思うと恋人に悪いことをしたなと思う。
自分の墓の前で血だらけで俺が死んでるんだから。
おかしなことに後悔をしていない。
親友を殺したことにも自分を殺したことにも。
それは、俺がもともと狂っていたからか、地獄に長くいるせいか。

ま、そんな昔話は置いといて。
うーん・・・地獄の話をしようか。
この暗い暗ーい底の世界の話を。

地獄と呼ばれるこの場所。
正式には下界、魔界と呼ばれるところ。
ここに住むのは閻魔大王と死神達と悪魔達とそして人の世界で死した罪人の魂。
閻魔大王は人の世界で死した魂を裁き、死神達は閻魔大王に仕え、悪魔達は自由に退屈に長き時間を生きる。
そして、罪人の魂はここで罪を償う。
罪を償うとは何をするか。
それは、2種類ある。
1つは、ここの東の果てから石を運び、西の果てへ持って行き、石の塔を作ること。
もう1つは、西の果ての石の塔を壊して、その石を東の果てへ持って行くこと。
毎日、毎日繰り返す。
罪人たちは毎日、毎日不毛を繰り返す。
自分の刑期が終わるまで。
刑期が終われば、罪人は天と地の狭間に連れて行かれ、新たな命として人間界に生まれる。
あぁ、俺は次は猫に生まれたいな。
気ままな猫に。

刑期は、各々違うんだ。
犯した罪の重さによって刑期も変わってくる。
ま、それは当たり前だけど。
俺は、親友を殺した罪と自分を殺した罪の分、地獄で不毛を繰り返す。

ここは嫌だ。
とてつもなく退屈なんだ。
ただただ、意味の無い仕事に毎日疲れ、不変の中で過ごさなければならない。

そんな俺の数少ない楽しみ。
それは、毎日俺達を冷やかしで見に来る悪魔を見ること。
少年の姿をしていて、髪は肩ほどまでの長さのキレイな銀髪。
くりっとした目に幼い顔立ち。
天使かと思うような外見だが、とがった耳と背中に生えた黒い翼がその子が悪魔だと物語る。
確か、名前はソウ。
最近、一緒に来るようになった血のような色の髪を持つ男がそう呼んでいた。
あの男の名前は、ゼノス。
堕神だと聞いた。
金色の眼は神にしかないそうだ。
外見だけ見れば、悪魔ともとれるだろうな。
あんな仏頂面の神様誰が信じるかよ。
ま、それは俺が人間界でいたら思うことで、地獄でいる俺には不思議でもなかった。
だって、あの閻魔大王がぷにぷに~としたちびっ子だぜ?
死神達はお世話にもてんてこ舞い。
噂に聞いた話だが、本来の姿はとんでもない美男子なんだそうだ。
まったく。どちらにしろ閻魔大王からはかけ離れている。
俺の想像では、ごっついあごひげもっさりのいかつい顔のおっさんだったのに。

っと、なんか話がそれたな。
ま、俺の楽しみはそのソウって名前の悪魔を見ること。
周りが暗い顔の罪人ばかりの環境でイヤミっぽくても活きた顔をしてる悪魔を見るのはどうにも日々の労働の支えになるようだ。

あぁ、死神が呼びに来た。
また、今日も罪滅ぼしの不毛の繰り返しへと。


石を運ぶ。
重い石を運ぶ。
死した人の怨念がこもる重い石。

モノクロの世界で銀色と赤色が揺れた。

あぁ、今日も来た。
今日もまた見れた。
俺の世界の月と太陽。

そして、目が合った。
キレイな金色の眼と。
血色の髪を持つ、堕神ゼノスと。
俺はそのキレイな眼から目が離せなくて、ずっと見入っていたらそのキレイな眼の持ち主に笑われた。
不思議と腹は立たなくて、あぁ、いっつも仏頂面だけど笑うんだなぁ。と思った。
しかし、何がそんなにおかしいよ?
そう思っていると、堕神が俺の方に近づいてきた。
その後ろに天使の顔の悪魔が興味深そうな顔をしてついてきた。

「笑ってしまってすまない。」
「はぁ。」
「あまりに、その、間抜けそうな面で俺達の方を見ているから、つい。そんなに珍しかったか?」
「いえ、まぁ、地獄で堕神もその堕神とつるむ悪魔も珍しいですけど。」
「でも、いつも僕等の方見てるよね?」

しまった、気付かれてたか。
うーん、今度から注意しよう。
ジロジロ見られるのは俺も嫌だしな。
目の前では堕神が「そうなのか?」と意外そうな顔をしていた。
悪魔はそのカワイイ顔を意地の悪い顔に変えてコチラを楽しそうに見つめていた。
うわぁ、どうしよ。
ま、とりあえず、石降ろそう。重くてしょうがねぇ。死神に見つからないことを祈りつつ。

「とりあえず貴様の名は?49863は罪人ナンバーだろう?」

堕神が尋ねてくる。
何で俺のナンバーがわかるのかというと、頬にそう刺青を彫られているから。
罪人は、地獄に来ると頬に罪人ナンバーを彫られ、首と両手両足に“枷”をはめられる。
その枷は、罪人を罪人として地獄に縛る枷。
その枷を付けている限り、罪人としてここに囚われ続ける。それは、魂の従属。
おっと、余計なことを考えるのは俺の悪い癖だ。

「俺の名前は、塩野 章太郎。」
「そうか、章太郎か。俺は、ゼノス。こっちは」
「ソウだよ。ま、知ってるよね?」
「知ってますよ。有名ですから。」
「有名なのか?それは、知らなかった。そして、何故貴様は俺達の方を見ていたんだ?」

ん~・・・どうしたものか・・・
なんと答えればいいのやら・・・
そして、この堕神けっこー天然入ってるな・・・

「目立ちますから!」
「キッパリ言うね、章太郎クン。」
「え、目立っているのか?」
「うーわー、スゴイですねゼノスさん。その鈍感さは超人的ですよ。こんな、暗っい世界で銀髪やら赤髪やら目立たないわけ無いでしょう。」
「ふむ、そういうものか。だが、貴様の髪の色も珍しいな。」
「はぁ、黒髪なんかいっぱいいるじゃないですか。」
「そうだよ、ゼノス。こんな色もう見飽きたよ。ついに目もおかしくなったの?」
「ソウ、お前は口を開けば毒しか出さないな。そうじゃない、黒と言っても、んー・・・何と言えばいいのか。」
「ちょっとしっかりしてよ、頭までイっちゃった?」
「そうだ、闇色。どこまでも深い闇。手を伸ばしても届きそうも無いような闇色。」
「うん、ま、確かにそんな感じだね。でも、臆面もなくそんなこと言って恥ずかしくないの、ゼノス?」
「俺は真実を言ったまでだ。」

スゴイと、そう思った。
真正面からそう言えるのはスゴイと思った。

「闇色ですか・・・」
「む、何か心の傷に触れたか?」
「いえ、そんなものじゃないんですけど。俺の恋人も同じこと言ってたから。」
「その恋人はまだ生きているのか?」
「いえ、多分ここに来てると思いますよ。」
「そうなのか。誰かを殺してしまったのか?」
「えぇ、自分自身を。」
「そうか。」

少し、場の空気が重くなった。
そう思った。
だけど、視界の端に意識の端に捉えてしまった、天使の姿をした悪魔の悪魔らしい笑みを。
それは、例えるなら新しい玩具を見つけた子供のような。
獲物を見つけた肉食動物のような。

「面白いね、章太郎クン。」
「は?ソウ、お前は何を・・・」
「ゼノス。」
「・・・何だ?」

堕神の顔から微かに血の気が引いた。
それとは逆に悪魔が楽しそうに笑う。
俺の背中を汗が流れる。

「僕、コレ欲しい。」

堕神と俺がしばし、停止する。

「な、何を言い出すんだ、ソウ!!」
「欲しいってそんな人を物みたいに!!」
「欲しい欲しい欲しい欲しい~!!」
「駄々っ子ですか、アンタは!!?」

目の前で悪魔がじたばたと暴れだす。
堕神が頭を抱え始めた。
いやいや、助けてくれよ。
そして、ぴたっと悪魔が動きを止めた。
それから、俺の方をジッと見つめてくる。
眼が据わっている。
口の端を吊り上げて笑っている。
手がコチラへ迫ってくる。
そして、口が開かれ、歌でも歌っているかのようにつらつらと言葉が流れてくる。
頭を抱えていた堕神が目を見開く。
え、ちょ、俺何されるの!!?

「アハハッ」

次の瞬間には、俺が十字架にはりつけにされていた。
痛冷たいと思って、足元を見れば、黒い炎が揺らめいていた。
足が焼かれてるというのは、感じるが思考では「あぁ、これが悪魔の呪文かー。」と関係ないことを考えている。
そろそろ痛さで気を失うかと思った頃、堕神の慌てた声が聞こえた。
言い終わった途端、周りを光が包み、十字架と炎が消えていく。
そして、最後に焼け落ちかけていた俺の両足が元に戻っていく。

「さ、更なる地獄に堕とされるかと思った・・・・」
「ソウ!!お前、防衛呪文も扱えない奴に向かって何をしてるんだ!!」
「いいじゃん、これ以上死ぬことないんだしー。」
「いいわけあるか、阿呆が!!」

涙がボロボロ出てくる。
マジで怖かったー・・・
足がちゃんとあるのを確認するため、両足をさすりまくった。
よかった、ちゃんとある。
指も全部ついてる。
そして、石運びをサボりすぎたのか枷が俺を元の罪人の列へと帰そうとする。
待ってくれ、もう少しだけ。

「両手焼いたうえに肋骨を楽器代わりにされたくなかったら、僕らについて来いー。」

脅しにかかりやがりました。
いや、まぁ、俺もそっちついて行きたいけど、枷があるからそんなこともできねぇし。
そんなことを思っている間に枷が俺を引っ張り始める。
今は、少し遠くに見える罪人の列へと。
そして、手足が言うことをきかなくなってきた。
首が罪人の列の方を向く。

「ちょっと、勝手にどこ行こうとするのさ。」

悪魔が列へと向かって歩き出した俺の右腕を掴み、頭を掴む。
ものすごい力で。

「いや、枷のせいで体が勝手に・・・」
「あぁ、そういえば、罪人には、“魂の枷”が付けられるのだったな。」
「むー、めんどくさいなぁ。」
「っ、痛い痛い!!爪が食い込んでますよ!!」
「枷取ってあげようか?」
「は?取れるんですか、コレが。」
「取れるよ。簡単簡単♪」

そう言って、悪魔が俺の両腕を後ろ手に掴んだ。

「ゼノス、ゼノス!!」
「何だ?」
「コレに抱きついて。」
「はぁ!?」
「ついにコレ扱い!?ってか、何させようとしてんですか!!」
「早く!!」
「わ、わかった。」
「えぇ!!?」

堕神の長身が目の前に迫ってきた。
えぇ、ちょ、マジで!!?
そして、そのデカイ体に抱きしめれた。
顔に血色の髪が触れる。
いつの間にか、悪魔の手が離れていた。

「ゼノス、もっと強く!!」
「こうか?」
「もっと!!背骨とか肋骨とか内臓とかもう全部グチャグチャにするぐらい!!」

どんどんと力が加わってきた。
いや、普通に痛いんですけど!
よく見ると、周りが光っている。
楽しそうに笑う悪魔もよく見える。
そして、足元にボトボトと焼ききれた枷が落ちていく。

「ね?取れたでしょ?」
「ほ、ホントですねー。すんげぇ痛かったけど、背骨とか。」
「何故取れたんだ?」
「ゼノスはこれでも元神だからね。どんなにここでいても天界の気を消し去ることは不可能なんだ。ここの物はたいてい天界の強い気に当たると脆くなるんだよ。」
「へ、へぇー。」

悲しきことに体中が痛い。
軽く体を動かしてみると、そこらかしこがボキボキと鳴る。

「取れたんだから、ついてきてよね。」
「はぁ。」
「断ったり逃げたりしたら、閻魔殿の結界に突っ込んでやる。」

俺に拒否権は無いようだ。
拒否する気も無いが。

「ハイハイ、ついていきますよ。」
「ん、よろしい。」
「貴様も可愛そうな奴だな、章太郎。大変な奴に目を付けられたな。」

いや、堕神サン。
憐れんでるけど、顔はキッチリ笑ってるよ。


悪魔が笑う、堕神が笑う、罪人も笑う。



月が笑う

太陽が笑う

闇も笑う―――――


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


退屈な世界の続きです。
地獄物語。
時々、ふと昔書いたものの続きを書きたくなります。

確実にソウとゼノスの2人じゃ話進まないだろうなと思って、章太郎クンを投下。

章太郎クン、死んだ理由とか考えんのめんどくさかった。(ぇ
殺人狂とかにしたかったわけじゃないから。
できるだけ生前の話は出したくない・・・

続き書けるかわかんないスね。
閻魔大王出したいとかは思いますが。

章太郎クンは、わがまま悪魔と天然堕神に振り回されてればいいよ。(オイ



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