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ポプリローズフィールド From 真名 耀子
桜が散ったとしても
「桜が散ったとしても」
気に入っていた手袋をなくした。
電車に乗り込んだときにはたしかにポケットに突っ込んだはずなのに、電車を
降りて、また手袋をはめようと思ったら、左の手袋がない。
僕は右手の手袋だけはめてみた。コピー&ペーストで左手も複製したいが、
できるはずがない。周りを見渡してみると、片手だけ手袋をしている人など見
当たらない。誰もが当たり前のようにペアになった手袋をはめている。どうし
て僕の片っぽは失くなってしまったんだろう。この右手の手袋のペアになる手
袋はたった一つしかない。そのペアが見つからなかったら、この右手の手袋だ
け持っていてもしょうがない。両手が揃ってこそ役に立ってくれるものなん
だ。片手じゃどうしようもない。
左手だけが冷たい風にさらされ、手袋があればどんなに幸福だったか、と喪
失感が募る。手袋のない左手を僕は皮ジャンのポケットにつっこんだ。駅の遺
失物係に問い合わせたら見つかるだろうか。片っぽだけの手袋だ。拾っても盗
む人はいないだろう。僕にとって大切ものだったとしても、他の誰にとっても
得になるものではない。
来た道を戻るべきだろうか。でもそうすると仕事に遅れてしまう。今戻れば
あるかもしれない。でもあるという保障はない。人の波が僕を通り過ぎる。僕
は右手の手袋の温もりを左手にも分けてあげたかった。
気に入っていたその手袋は、美奈子の手編みの手袋だった。美奈子というの
は、女友達の一人で、男と女の友情というものがあるとすると、その関係は僕
らに当てはまる。
美奈子には恋人がいたし、僕にもいた。だけど今は美奈子に恋人はいない
し、僕にもいない。そして僕らには友情がある。
僕はどうしてその手袋が大切なのかを考えてみた。
僕の好みの色だったし、僕の手にすごくフィットしていた。僕のために作って
くれたものだから特別感があったし、他のどこを探そうと同じものは見つかり
そうもない。この手袋はもらって何年も経っていたけど、僕の洋服の好みが変
わろうともこの手袋がお気に入りであることは変わらなかった。
冬が終わるたびに僕はコートやマフラーと一緒にクリーニングに出した。クリ
ーニング屋に預けている間も実はちょっと心配だった。失くされやしないか、
無事に戻ってきたにしても縮んだりして僕の手にもうフィットしない手袋にさ
れてやいないか。他のコートやマフラーのことはそんなことがあったとした
ら、弁償してもらえばいいし、という気持ちもあったし、第一クリーニングに
出すのにいちいち心配などしたことはない。だけど、この手袋だけは、僕がい
くらクレームをつけたところで、誰も弁償ができない。値段のつけられない手
袋だ。とにもかくにも僕だけの大切な手袋だった。
そんな大切な手袋が失くしたまま、僕は仕事をしなければならない。サラリ
ーマンとは悲しいものだ。
会社について、おはようございます、と言って、パソコンの電源を入れて、自
販機に缶コーヒーを買いに行って、席に戻ったら、いざ始業だ。だけど頭は手
袋のことでいっぱい。
手袋はいわば願掛けの一つだった。これが僕のそばにあるということは、美奈
子もどんな関係だろうとそばにいる。だからこれだけは絶対に失くしたくない
と思っていた。
僕にとって友情とはいつまでもいつまでもの関係。男であっても女であって
も、疎遠になろうと、つるんでいようと、大勢だろうと、二人だけだろうと、
一度友情を結んだら、永遠だ。といっても僕は人付き合いが大の苦手だ。幼稚
園から数えても、僕の言う友情を結ぶような相手は5本の指に納まる。知り合
いはたくさんいる。会社関係、取引先関係も含めればわんさといる。合コンで
一度会っただけの女の子だって僕にばったりどこかで会って、一緒にいる誰か
に僕を紹介するとしたら「知り合いです」と言うだろう。そう、一度会えば知
り合いだ。だけど僕は知り合いとは友情は結ばない。
僕だってそんな偏屈な男じゃない。友達が少なくたって、恋人は出来る。だ
けど、僕にとって恋人とは、いつかきっとさようならをする相手なんだ。
僕にとって友情より確かな人間関係はない。もちろんそれは家族以外のという
ことになるのかもしれないけど、他人との人間関係というのはいささか悩まし
い場合がある。
僕は付き合ってきた彼女たちに別れ間際に逆プロポーズされるという傾向が
ある。
僕はこれを恐ろしく感じている。僕は恋人たちを邪険に扱ったことはない。
いつかさようならをする相手だとしてもそれは美しい関係だし、その一定期間
は僕にとって一番大切な相手であることには変わりない。だけど、僕は一生を
共に過ごしたいと思うような相手とつきあったことはなかった。おじいさんに
なった僕が、おばあさんになった彼女と手をつないで仲良く散歩をしたり、庭
弄りをしたり、などという図は浮かばない。どうしたものか。
一気におじいさんになったことを想像するのはおかしなことだ。おかしなこと
だから、別の例を出すと、僕が朝起きると彼女がいる。夜家に帰っても彼女が
いる。休日も彼女がいて、旅行にいくにも彼女がいて、そしてどんどんお互い
に歳を重ねていって・・・などというのは僕の望んでいるものとちょっとばか
し違う。
僕が煮え切らないと思って、彼女たちは別れかゴールインかを賭けて、駆け
引きをする。とても楽しい付き合いをしているというのに、このままじゃいや
だ、という。僕は来たな、と思う。これでお別れだと。
それは僕にとっても悲しいことでもある。できればもう少しだけでも僕にお付
き合いください、そう言いたい。だけど、そんなことはどの彼女にも通用しな
いと分かっている。「ごめん、まだ結婚する気になれないんだ」こんな言葉を
女の子に言わなくてはいけないとき、僕はクローンを作って彼女たちに差し出
したくなる。これで良ければ、と。
僕だって、別れた直後は心のどこかにぽっかりと穴が空いたようになってし
まう。僕だって悲しいものは悲しい。だけど、いつか別の誰かが穴を埋めてく
れることは知っている。僕を去っていった女の子たちだって、そうであって欲
しい。別の誰かとペアになるべきなんだ。
恋人たちの空けた穴はいつか埋まる。これを失くしてしまったら最後だ、と
思うのは友情を結んだ相手との関係。僕は美奈子と固い友情を結んでいる。
美奈子が僕の前から去ることだってあるのだろうか、僕はカタカタとパソコン
をたたき、つまらない棒グラフの色を黄色にしたり、青にして、仕事をしてい
るフリをしながら考えていた。
「みっちゃん、いつも話長いのよ」
僕は失くしたと思った手袋があったということを美奈子に電話で話してい
た。もちろん、その手袋が僕にとってどんな存在で、失くした時どんな気持ち
になったのか、そして落し物です、というメモつきで、電信柱にぶらさがって
いたのを夜の暗がりの中でも見逃さなかったこととか、その人にお礼が言いた
くて、今拾ってくれた人を捜索中であることなども全部話した。
「でも良かっただろ」
「そうね。でも私のあげた手袋を失くしてたなんて信じられない。一生懸命作
ったのに」
「でも確かあれは美奈子が彼氏に作ってあげるための練習作だったんだよな。
練習作のわりにはよく出来てるし、サイズぴったりだけど」
僕は手袋をしながら電話をしていた。ここにある、ある、というのを噛み締
めたかったわけだ。
「あげた彼氏には手作りなんて重いって嫌われちゃったけどね」
「それ何人前の彼?」
「何人前って変な聞き方ね。もう思い出したくないわ」
「まだ傷ついてるの? そいつのことで」
「私が? まさか」
「だろ? 恋なんてね、一時のものさ」
「また恋することなんてあるのかしら、と思うことがあるの」
そこで僕らの会話は一時停止した。僕だってそう思うことがある。誰かの事
を想いながら別の誰かと恋をするのは相手にとっても失礼だし、自分を偽って
いるような気持ちがずっと離れない。
「心配しなくても、大丈夫だよ、美奈子は」
「みっちゃんはどうなの?」
「う、ん。ぼちぼちだよ、ぼちぼち」
「いい人いるの?」
「いないよ、全然。今は手袋が見つかったというだけで大満足」
「分けわかんない。あー、もう分けわかんないこと話してたらもう2時間も話
してるー。切るね」
「ああ。またな」
僕は美奈子からかかってきた電話を切った。
僕は今年も手袋をクリーニングに出して、無事に戻ってきたところを誇らし
く思い、他の冬物と一緒に閉まった。桜の季節がもうそこまで来ている。今年
の開花予報はいつもより2週間も早かった。僕は毎日の通勤電車からの景色を
眺めながら、桜の花が少しずつ見ごろを迎え、そしてまた終わりを迎えようと
しているのを見守った。きれいなものを見ると、誰かに見せてあげたいと思
う。その誰かは決まって美奈子で、僕は桜が散ってくれるなと願った。美奈子
だってどこかで桜を見ているだろう。だけど、二人で一緒に満開の桜の下に立
って、きれいだね、と言い合えたら、などと小さな願いを抱きつつ、僕は桜を
見に行こうなどとは言えなかった。いつもの調子で言えばいいものを、僕は言
えない。散っていく桜を美奈子と眺めたら、柄にもなく僕は切なくなってしま
うんではないかと思うわけだった。だからといって葉桜になったところを一緒
に見たいとは思わないんだけど、ごめんなさい、葉桜さん。でも桜はどうして
あんなに切ないんだろう。
電車から眺める限り、桜はまだ満開の体を保っていた。「桜を見に行こう」
はまだ間に合うんじゃないかと勇気付けられ、僕はその日の夜電話した。
電話をしてから5日目に週末はやってきた。その間に雨も降り、風も吹い
た。早く見ないと、散っちゃうよ~、と言われているようだ。だが、桜は待っ
ていてくれた。
桜の花びらが舞い散る中を踊るように美奈子が歩いている。僕はまぶたに焼
き付けた。絶対に失くしたくない人。そう思って、ずっと大切に思っていた人
と一緒に桜を眺めている。どうしたら失くさずにすむかを思い悩んだ末に、固
く友情を結んだ人。
「きれいだね。見て、川にも花びら」
美奈子に言われて、下を流れる川を見ると、薄ピンクの花びらが流れる水の
上を泳いでいる。
「散っていく桜を見るのも風情だね」
「何かで読んだことがあるの。川はいつもそこにあるけど、流れる水はいつも
変わり行くものだ、って。不思議よね。同じ場所に川はある。でも中身は常に
変わっていく。変わっていかないと、川は濁ってしまう、澱んでしまう。きれ
いな川は眺めていても飽きないわ」
美奈子は橋の欄干にもたれかかって川を見ながら言った。
僕らは二人でしばらく、次から次へと花びらが川へ舞い降りて、流れていく
のを見つめていた。
「見ていて飽きないよ。ずっと見つめていたいよ」
僕は川を見ながら美奈子のことを言った。
僕は言ってから、急に照れくさくなって、動かずにいられなくなってしまっ
た。
「少し歩こうか」
僕は美奈子の横顔にそう言って歩き出した。
「桜の季節にね、いつも思うことがあるんだよ。あれ? これも桜の木だった
のかって。咲いた途端にみんなにもてはやされてさ、普段は気づかれもしない
のにさ、その木の下に人が集って、きれい、きれいと賞賛されてさ。これは
さ、桜が年に一度アピールしてるんだよな、気づいてください。ここでーす、
ってさ。散るときも大アピールだよ。風の力を借りて、とぉーくまで花びらを
散らしてさ。桜は桜であることを忘れないんだなぁ、なんて思ってね。はかな
いけど、強いしね。毎年、毎年咲いてさ」
「みっちゃん、話長い」
美奈子がそう言って、僕らは笑った。見てみると緑の葉の見え始めた桜もき
れいなものだ。生命力のようなものや、繰り返しても繰り返しても変わらない
ものを感じた。しばらく桜の下を僕らは歩いた。穏やかな一日だ。僕にとって
終わりかけの桜は最高の見ごろで、ありがたいことに一般的には花見のピーク
は過ぎているのか、僕ら以外にだれもいない。
歩きながら、僕は普段から思っては消して、また思っては消してを繰り返
し、それでも消せずにずっと心にあることを話し始めた。
「美奈子、前にも言ったことがあるかもしれないけど、僕はね、何を見ても美
奈子に例えてしまうところがある。手袋だってそう。川だってそう。桜だって
そう。どれも僕が一生愛し続けるものだよ。絶対に失くしたくない。だから美
奈子とはしょっちゅう会っていなくても、つながっていると感じているだけで
もいいと思ってた。それはこの命が終わってもずっとずっと変わらないよ。で
も何十年も経って、僕がもし死ぬときがあったら、そばにいてほしい。で、美
奈子に僕を見送ってほしいんだ。死んだとしても僕はずっと見守るからね。美
奈子がもし僕より先に死んでしまうことがあっても僕は絶対にそばにいるから
安心して」
僕はまた話が長い、と言われてしまうんだろうと思ったが、言い切った。伝
えたい相手が目の前にいて、伝えたいシチュエーションが揃っていた。僕は大
切な人に大切なことを伝えられた。
「お願いします」
美奈子はそう言って、くるりと僕に背を向けて、桜の木の下を歩いていっ
た。僕は友情も貫くけど、そこに愛情が目立つようになってきてもいいことに
した。
桜は散っている、川は流れている、手袋は両手揃って他の冬物と一緒に仲良
く眠っている、四季のはじまりを薄ピンクに混じったグリーンに感じた。来年
もそのまた来年も、この先ずーっと、僕は飽きることなく眺めるだろう。
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