ポプリローズフィールド From 真名 耀子

ポプリローズフィールド From 真名 耀子

Be lated valentine


「Be lated valentine」 





たけると2月7日に喧嘩をしたまま既に3日が経過した。  

いつもだったら次の日に「ごめん、機嫌なおして」のメールが来て、ちゃら

っといつも どおりに戻るのに、次の日も、その次の日もその次の次の日の今

日もメールは届かなかっ た。  

どうかしている。

私はたけるに「何か忘れてない?」と言いたかった。 

大体たけるは無神経なのだ。わざと私が気に障ることを言っているんじゃな

いかと思う ときがある。

今回の喧嘩も風もなく雲ひとつない穏やかな晴れ間に突然雷が遠くで鳴り出

したかのように始まった。 週末のデートで映画を見たあとにカフェに入った

時に、たけるがテーブルの私の足を覗き こんだ。

「なに?」

「いや、かわった格好だな、と思ってね」  

その日私は、ミニスカートにレースのレギンスを履いていた。たけるはこう

いう格好を なにやらややこしい格好で、おしゃれだと思う感覚はないことは

分かっている。でもわざ わざ覗きこんで言わなくてもいいんじゃないかと思

う。私は何も返さなかった。

「流行ってるの? それ」  

追い打ちをかける

この一言がなかったら、平穏な空気に何も気づかなかったふりして戻 れたも

のをたけるは雷雲を頭上に引っ張り込む。

「普通にみんなしている格好じゃない」

「そういうのがかわいいっていうのがわかんないね~」

 ウェイトレスがオーダーを取りに来た。いつもならオーダーを取りに来る前

に何にする かたけるに言って、たけるが二人分のオーダーをするのに、この

時はたけるの失敬極まり ない言動のせいで、メニューさえ見ていなかった。

私はさっと目をソフトドリンクに走ら せ、ソイラテを頼んだ。たけるは普通

のカフェオレ。  

まだ私はムスっとしている。私たちは視線を合わせないままただじっとオー

ダーが来る のを待っていた。つい20分前は手をつなぎ合って、たけるの肩に

寄りかかって映画を見て いたのに。時々私たちはこうなってしまう。

「ソイラテのお客様」  

ウェイトレスがカップ二つをトレーに乗せて戻ってきた。  

私が「はい」と言う前に、たけるが手で私の方をそちらです、というように手

で差し た。  

もうさっきのことはなかったことにしよう、とたけるのちょっとした仕種に

思わされ た。たけるは無骨なエスコートをいつもしてくれているんだな、と

デートの度に思う。  

たけるのたけるがカップから一口啜って、顔をしかめて言った。

「うげ、こっちがソイじゃん」

「あ、ほんとだ。こっちが普通のだ」  

私たちはお互いのカップを交換し、これで仲良く温かいものを飲みながらこ

のあとはど こに行こうか相談するはずだったが、たけるの一言で私はまた頭

上を逸れつつあった嵐の 中に引き戻された。

「これをうまいという人の気が知れないねー」  

まるでそんな人とは一生無縁でいたいです、のような突き放したような響き

のある言い 方だった。おおげさだと思われそうだが、わざわざ気が障ること

を気が障る言い方で言っ てくれなければいいようなものの、たけるには否定

症候群気味なところがある。 私がムスっとしていると、

「なんで怒るんだよ。その格好のことだって流行ってるのか聞 いただけだ

し、お前のことをかわいくないって言ってるわけじゃないだろ。それにうま

く ないって言っているのはソイラテで、そもそも豆乳なんて俺は好きじゃな

いしさ。正直に 感想を言っただけだろ。お前が作ったものをまずいと言った

わけでもないのにさ~」 ともっともらしいことを言ってくる。

「わざわざ人が気に障るような言い方しなくてもいいでしょ? 神経を疑うわ

よ」

「じゃあ、聞くけどさ。俺はいつだって同意しなくちゃいけないわけ? 俺に

だって好み があるよ。それがお前と違うだけだろ? それを悪者みたいに言

わないでくれる? そっ ちの神経の方が疑わしいよ」  

ここで私は、また始まったと思う。もっともらしいことを並べたて、たける

はいつも私 を攻撃する。普段口数が少ないくせに、こういうときだけ饒舌

で、その正論ぶりに私は口 を閉ざしてし、やっぱり私たちはうまくいかない

んじゃないかと思い知らされる。  

ソイラテもカフェオレもすっかり冷めきってしまった。   

バレンタインが近づいてきて、私は帰宅する帰り道にいつもチョコレートを

買うかどう かを迷った。私とたけるは、去年の3月に付き合い始めてまだ1年

も経っていない。なの に、愛は最初の1年で3年分かそれ以上に年を取ってし

まった気がする。今回みたいな喧嘩 は日常茶飯事で、いつも私はムスっとし

ている。

 たけるから「ごめん」のメールが来ないまま、私は義理チョコを1つ多めに

買った。た けるへの愛がその程度なのかというと、そういうわけではなく

て、もしたけるにあげる機 会が訪れなかったとしても、一つあまったチョコ

を見て、ショックを感じたくなかったか らだ。混雑の中吟味して買った有名

パティシエのトリュフが15日にまだ手元にあったらと 思うとチョコが嫌いに

なりそうだ。このまま無くなってしまうかもしれない愛に私はたけ るからの

メールを待つことしか出来ずにとうとう義理チョコを配るだけのバレンタイン

が 過ぎて行った。  なんでバレンタインなんてあるんだろう。それもなんで

女からなんて決まりがあるんだ ろう、と手元に残った義理チョコを見ながら

思った。

「これは多めに買っておいて余っただけなんだから、気にしない、

気にしない」

自分で自 分慰めながらラッピングをほどき、アーモンドチョコを口に放り込

んだ。噛むとカリカリ っといい音がして、同時にぽろぽろっと涙がこぼれ落

ちた。

「あ、そうだ。バレンタインを利用して仲直りしたいって普通に言えば良かっ

たんだ」  

そんなことを今更思いつき封をあけてしまったアーモンドチョコの箱を閉じ

てバッグに 投げ込んで、玄関を飛び出した。

たける、たける、と心の中で唱えている声とアーモンド チョコが箱の中で踊

っている音がハモっている。  

あぁ、そうだ。去年の3月に付き合ったのはホワイトデーのことだった。バレ

ンタインに 何もあげなかったのに小さな花束とキャンディーをくれて付き合

ってほしいと言われたの だった。逆バレンタインみたいだと笑ったけど、男

の子がバレンタインに告白された気分 がどんなものだか味わえたと私は喜ん

だ。たけるは来年のバレンタインが楽しみだ、と言 っていた。

 たけるは待っていてくれるだろうか。24時間遅れのバレンタインを受け止め

てくれるだ ろうか。封を開けてしまったアーモンドチョコで納得してくれる

だろうか。

 私はたけるに向かって立ち止まらずに走っている。息が苦しくても早く会い

たい一心で 走っている。会ったら言おう、いつものメールが来なかったから

ずっと待っちゃったじゃ ない。いつものパターンを崩さないでよね。好みが

違くったって、やっぱりたけるのこと が好きだよって。



ハートフラワー



おもしろかったらクリックしてね



new2.gifcouple's ショートストーリーがメルマガになりました。ご購読はこちらをクリック。メルアド登録だけですよ♪


couple's ショートストーリー TOPに戻る








© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: