第8話 妖精の恋



 その日の夜、くんこの部屋の戸を、だれかがたたいた。
「はーい・・・・・」
 ただでさえ不機嫌だったくんこ。せっかくナビィ用のワラ人形を作っていたところだというのに、突然の来客である。くんこは面倒くさそうに返事をし、戸をあけた。
 ドアの外にいたのはナビィであった。
 くんこ、怒りモード突入。どうせだれも見ていないのだから、もう猫かぶる必要はないのだ。くんこはゆっくりと本性を出していった。
「何しにきたのよ」
「あんたと話しつけにきたのよ。リンクのことでね」
 ナビィはすでに勝ち誇った表情(?)である。それがさらに本性を開放しかけていたくんこの怒りをあおった。
「のぞむところよ。だけど、あんたなんかに勝ち目、あると思って?」
「そのセリフ、そっくりそのままかえすわ」
 二人の間に見えない火花が散った。怖い・・かなり怖い・・・・・・。
 くんこは不敵に微笑んだ。
「フン・・・知らないかもしれないけど、私とリンクくんはKISSvし・た・の!もうそこまで進んでるのよねー、私たちの関係vあんたなんかの入る余地なしっていうかー」
「キ・KISS!?ムカつく・・!・・・・・・・・へぇ、まだまだねぇ」
「なにがまだまだなのよ!」
「私たち、同居するの。同居!!同棲ってやつかしらね~」
「ど・同棲!?」
「そうよ、同棲。リンクが好きでもない女と同棲なんかすると思う?思わないわよねー?わかった?私とリンクは愛し合ってるの!!」
 ただ単に前に住んでいた森が伐採されて住居がなくなってしまったナビィを、リンクが哀れんで家に泊めているだけなのだが・・・・・・・。
 とにかくこのことはくんこに多大なショックを与えた。
『リンクくんが・・このチビで生意気な妖精と同居・・・そんな・・・・・・・・』
「そ・・そんなことぜったいさせないんだから!!」
「まだそんなこと言うの?もうあんたの負けなのよ」
「まだ勝敗は決まったわけじゃないわ。・・・・・裁判で勝負しましょう!!」
「フン!のぞむところよ!!」
 なぜかこういう展開に・・・また裁判・・・;;

 と、いうわけでむかえた裁判当日。
『負けるわけにはいかないわ・・・・・』
 くんこは闘志を燃やしていた。今日、この女の戦いに終止符が打たれるのだ。
 ちなみに当のリンクの意思が完全に無視されていたことにはだれも気付いていなかった。
「これより開廷!」
 裁判が始まった。

 ―――ひと通りの証言が終わり、あとは判決を待つだけとなった。
 くんこ&ナビィ、緊張の一瞬である。裁判長が口を開いた。
「判決は・・・・」
 裁判長の声が響きわたる。
 と、その時
「ちょっと待ってください!!!」
 いきなり法廷の戸が開き、なんとリンクが現れた。
「リ・・リンク!?」
「リンクくんっ!!?」
 会場がざわつく。
「静粛に!」
 それを裁判長が静めた。また、沈黙が流れる。
 リンクは先日の病院ゲロ事件のあとの処理のため、裁判所に立ち寄ったらしい。そこでぐうぜん今日のこの裁判のことを耳にしたのだ。
 リンクは、一歩前へ進み出た。
「僕のことで裁判してるんだって?なら、何の裁判かしらないけど、僕にも発言の権原があると思う。僕にも証言させてください!」
「・・・・・・・・・;;」
 このままいくと、おそらくくんこがリンクLOVEvだということがばれてしまうだろう。くんこピンチ!それに、もしリンクはくんこよりナビィのほうが好きだったら・・・・・・・。
 くんこは不安と緊張で頭をかきむしった。それに対し、ナビィはすでに勝ち誇った表情(?)である。
「そうですよ、みなさん。ここはリンクにも証言してもらいましょう」
 ナビィはそう言ってくんこに不気味な視線を送った。

 そして裁判長から許可がおり、リンクの証言が開始された。
「僕は・・ナビィは好きだよ」
 リンクの証言は、いきなりくんこの痛いところから始まった。
「え・・じゃあ・・私は・・・・・・」
 先の言葉が出ないくらいショックを受けるくんこ。
『そ・・そんな・・私・・もう・・・・・・・』
 くんこはもう死ぬ気満々であった。リンクに好かれなければくんこは生きている意味がないのだ。くんこの一途な恋、ここで幕を落としてしまうのか・・?
「でも、僕はくんこちゃんも好きだよ」
「え?」
 こんどはナビィが青くなる番だった。
「ちょっとリンクどういうこと!?フタマタかける気!?」
 ナビィはリンクにむかって叫んだ。しかし、リンクはきょとんとした顔で続けた。
「フタマタ?なんのこと?う~ん、よくわかんないけど、とにかく僕はどっちも好きなんだ。だって、二人とも、大切な友達だから・・・・」
 ナビィの表情がさっと激変した。
「とっ・・友達・・・・。私たち、ずっと・・ずっといっしょにやってきたってのに、ただの友達・・・」
 ナビィは怒りとショックで今にも倒れそうだった。
 いっぽうのくんこはというと。
『よ、よかったぁ・・・私、リンクくんの“大切な友達”なんだ・・・・・。その“大切な”ってところが超うれしいよぉ―――vvこれから“友達”から“恋人”になっていけばいいのねvがんばらなくっちゃ!!』
 ナビィとはまったく正反対、前向きな考え(妄想)であった。
「リンク・・!まぁいいわ。あのね、今は友達とかそういうことを聞いてるんじゃないの!!どっちを恋人にするかって聞いてるの!!」
 ナビィが吠えた。そう、たしかにそれが本題なのだ。鈍感中の鈍感のリンクはまだ気付いていないようだが。
「え?なんでナビィとくんこちゃんのどっちかを恋人にしなきゃならないんだろう・・・・?でも、するとしたらくんこちゃんかも」

 一瞬、法廷は静まり返った。

 リンクは一人で続けた。
「だって、僕とくんこちゃんは“ヒト”でしょ。ナビィは“ヨウセイ”だし。べつに姿かたちにこだわるわけじゃないんだけど、やっぱり僕、つきあうんなら“ピーv”とかもしたいし・・・」
 リンクは言葉を切って法廷内を見まわした。
「だから、僕はくんこちゃんを選びます」
 リンクはそう言って証言を終了させた。
「判決は―――――」
 裁判長の声に、法廷はよりいっそう静けさを増した。
「くんこの勝利――――――!!!」
「や・・やったぁぁぁぁぁ―――――――!!!!!」
 くんこは飛び上がった。もう、何よりリンクが自分を選んでくれたのがうれしくてたまらなかったのだ。おもわず安堵のため息と歓喜の声がもれた。
「ありがとうリンクくん!!」
「くんこちゃん、それは裁判長に言わないと」
 リンクも正直言うと、くんこにこんなに喜んでもらえてうれしかったに違いない。
 くんこは
「ありがとうv裁・判・長・さ・んv」
そういって裁判長にむかって投げKISSをした。裁判長はめまいと吐き気に襲われ、そのままトイレに駆け込んだ。
「ナビィ、怒ってないかなぁ」
 リンクは心配そうにナビィの席へ歩み寄った。くんこももちろんついていった。
「ナ・・ナビィ!!!??」
 なんと、ナビィが床に横たわって動かないではないか。ショックのあまり脳の血管でもぶちきれたのであろうか。呼吸をしていない。
「きゅ・・救急車!!誰か救急車を呼んで!!」
 法廷は騒然となった。


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: