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お別れ
りきちゃんとすごした日々 その4
りきちゃんは、最後にすごく頑張って、そして、ついにパパとママから旅立ってしまった。
りきちゃん・・・さようなら。
最後の処置の間、家族宿泊棟に戻った。はっきり言って、この間記憶が無い。
とりあえず、パパは、大阪の実家に電話した。パパのパパ(おじいちゃん)が出た。
りきちゃん、死んじゃった・・・あかんかったわ・・・
あとは、泣くしかなかった。
再び電話が鳴る。準備が出来たので、来てくださいと。
りきちゃんは、いままで見たことも無いようなかわいい姿になっていた。
からだから全ての管、チューブ、電極がはずされ、本当の自由になっていた。
口紅を塗られて、かわいい服を着ていた。
この後お話があります、そう言われ、別室へ。
机の上に、紙が一枚あった。死亡診断書だった。説明をはじめる先生。
力斗くんの容態が急に変わった直接の原因は分かりませんが、残っていた逆流が心臓に負担をかけていたのだと思います。
それがボディブロ-のように効いて、少しずつ弱って、今回で一気にきたのでしょう。
説明は聞いていたが、もうどうでも良かった。
これ以上説明を聞いて、一体何の役に立つのだろう・・・?もう、りきちゃんはいないんだ・・・
力不足で、申し訳ございません・・・先生達は頭を下げた。
こちらこそ、いままでありがとうございました。お世話になりました、と挨拶する。
帰りはママに抱っこされ、一緒に帰ることとなった。
そして、病室に置いてあったおもちゃなどの荷物をまとめた。
りきちゃんの好きだった、どーもくんの絵本は病院の備品だったが、無理言ってママがもらってきた。
りきちゃんの一番好きな絵本だったから、ママがもらってきた時、うれしかった。
そうしてついに退院する時がきた。
先生、看護師さん、守衛さんまで、見送ってくれた。皆さんが深々と頭を下げた。
お世話になりました。
りきちゃんを抱っこしたママを乗せ、パパがドアを閉める。
クルマに乗ったのは4時5分だった。パパはあの光景が目に焼きついて離れられない。
そうして、初めてのパパとママとりきちゃんの3人のドライブが始まった。
パパは、りきちゃんが一緒でうれしかった。
りきちゃんはもういない。でも、すぐココにいる・・・
りきちゃん、パパの車だよ!良かったね良かったね・・・
ママはそういってた。
まだ、りきちゃんは少し暖かった。本当に寝ているみたいだった。かわいい寝顔だった。
パパはラジオをつけた。流れていたのは、坂本九の、上を向いて歩こうだった。
上を向いて、歩こうよ、涙が、こぼれないように・・・
いつもの道。走りなれた病院からの帰り道。でも、今日はいつもと違う。りきちゃんがいっしょなんだ。
ゆっくりと走った。いつまでも、このまま走りつづけたいと思った。
りきちゃん、お家いついたよ。りきちゃんのおうちだよ。初めてのお家だよ!
ママは泣いていた。
うれしくて泣いていたのか、残念で泣いていたのかわから無いが、多分その両方だろう。
りきちゃんを布団に寝かせた。そして、生まれて初めて、親子3人で川の字になって寝た。
パパもママも全然寝れなかった。寝るのがもったいなかった。こんな幸せな時が、永遠に続けばいいとおもった。
そして、布団を引いて横になったあと、パパは思いっきり泣いてしまった。
何もしてあげられなかったこと、こんなに辛い思いをしても、結局辛いままだったこと、
いつも寂しい思いをさせてしまったこと、りきちゃんの寝顔が余りにも可愛いかったこと、
いっしょに過ごした日々がとても幸せだったこと、いろんなことが思い出され、いろんな想いが噴出した。涙が止まらない。
りきちゃんに何もしてあげられなかったことが、何よりも悔しかった。
りきちゃんは辛い思いをいっぱいしてきた。
でも、いつかそれが過去のこととして笑って過ごせる時が来る、いつか元気になって幸せに過ごせる時が来る、そう思っていたからこそ、いままで頑張ってこれた。
それが、一気に崩れ去ったいま、パパには気持ちを押さえるすべが無かった。
我慢できなかったし、もう我慢する必要も無かった。
声をあげ、嗚咽し、号泣した。
あたりが明るくなってきた。
りきちゃんの顔を見つづけて、お話を続けて、気が付けば朝になってしまった。
これから忙しい数日間が始まる・・・
とりあえず、朝早くパパの会社に連絡を入れる。息子が亡くなったので、お休みを下さい、と。朝9時ごろにはママのおじいちゃんとおばあちゃんが来た。
10時ぐらいには葬儀会社の人が来た。
ドライアイスでからだが痛まないように冷し、さっそくお線香をあげてくれた。
お葬式についての打ち合わせが始まった。そんなに人数はこなくっても良いから、ちゃんとお葬式を挙げたい、そう思った。結局お通夜も、お葬式も行うことにした。
その方が、ちょっとでもりきちゃんといっしょにいられる時間が長くなるし。
それが今まで何もしてあげられなかったことに対して、せめてもの償いだと思った。
葬儀場は完全貸しきりタイプのところだった。これは良かった。
祭壇のお花は、普通は菊の花であるが、赤ちゃんなので、かわいいのにしてください、とお願いする。
火葬場もうまく希望通りの日時に予約が取れ、そうして、お通夜やお葬式の日程が決まっていった。
お寺さんやお墓については、どうされますか?
よく分からないので、お墓はまだつくらないで、お坊さんはママ側のところで拝んでもらうことにした。近いし。
夜になって、ママがりきちゃんに好きだったおもちゃで遊んであげていた。
りきちゃん、動かない・・・なんで??なんで??
ママは泣いていた。
きっと寝てるんや。いつもの寝顔やん、これ。よく寝てるよ・・・
ママがかわいそうで、そしてりきちゃんが可愛くて、パパも泣いてしまった。
パパもりきちゃんに話し掛けた。
りきちゃん、今日は良く寝るね、いい子だね・・・かわいい顔しているね。
そっと触ってみる。冷たい。いのちの暖かみはなく、ただ、冷たかった。
りきちゃん、何で動かないの、何でこんなに冷たいの・・・・
いつもみたいにこっち見てよ・・・誰かいないと、涙があふれてくる。
その日の晩も、りきちゃんといっしょに寝た。
これで、りきちゃんとお家でいっしょに過ごすのは、今晩が最後だ・・・
次の日、1月5日は納棺の後、お通夜である。
お昼2時ごろ、葬儀会社の人が棺を持ってきた。とっても小さくて、かわいい棺だった。
そして、りきちゃんをみんなで抱え、棺の中にそっと寝かせた。
好きだったぬいぐるみや絵本なんかも一緒に入れる。みんなみんな名残惜しい。
とうとうお棺の中に入ってしまった。
そして、ついに葬儀場へ出発する時が来た。
みんなで棺を抱え、車に乗せた。短いクラクションの後、葬儀場へ向けて出発した。
葬儀場は、とても立派なところだった。そして祭壇に案内された・・・・びっくりした。
祭壇にはとてもかわいいお花と、たくさんのぬいぐるみ、犬の形をしたカーネーション、ディズニーのBGM・・・
お葬式の雰囲気ではなかった。まるで、結婚式場みたいだった!
どう?りきちゃん。これでいい?これでいいかな?満足かな?
パパは嬉しかったが、こんな形でしかりきちゃんにしてあげられることが無いと思うと悲しかった。
親族控え室は、なんと祭壇の真横から出入りできる。
これはちょっとした感動だった。すごく便利。一晩中、一緒に過ごすことができてよかった。
お通夜が始まるまで、ママはりきちゃんに絵本を読んであげていた。
その姿が、かわいそうだった。パパも一緒になって読んであげた。
お通夜が始まる30分ほど前には、お通夜の参列者もぽちぽち来始めた。
アナウンスがあり、お通夜が始まった。
パパは慌てて数珠をつかんで、親族控え室から祭壇の横にある喪主席に座った。
続々と参列の方が入ってくる。
赤ちゃんだから、お通夜とお葬式で50人くらいかなーとか思ってたのに、すごい人。
会場に置かれていた100人の席はほぼいっぱいになった。
ちょっとビックリした。友人知人をはじめ、上司や会社関係の人、御近所の方もたくさん来てくれた。
そして、司会の方のアナウンスでお通夜が始まる。
お坊さんが入ってきて、読経をはじめる。
パパは、そのあいだ、棺に入ったりきちゃんの顔を見ていた。
安らかな顔だった。満足そうな顔をしていた。
ほら、りきちゃん、分かるかな?みんながりきちゃんのために来てくれたよ。
りきちゃんを見たことがある人なんて、誰もいないんだよ。
でも、みんな来てくれたんだよ。りきちゃん、良かったね。人気者だね。
焼香の時間になった。
喪主からはじめる。
これがりきちゃんのお通夜だと思うと、泣けてきた。
全員の焼香が終わり、そしてお通夜が終わってしまった。
お通夜の後、お清めということで、式場が用意してくれた夕食を親族でとった。
意外にもお鍋だった。ちょっとリラックスした。
その晩。それはりきちゃんと一緒に過ごせる、最後の夜。
ずっとりきちゃんのそばにいた。ママと一緒に、りきちゃんのそばにいた。
お話したり、遊んだり、絵本を読んであげたり、いつも聞いていたオルゴールを鳴らしたり。
だんだん寒くなってきた。夜も更けて、2時ごろになった。
りきちゃんがいなくなって、もう2日たつんだね・・・
時計を見て、病院で起った出来事を思い起こす。はるか昔のようだった。
パパは、ひつぎの横にイスを持ってきて、毛布に包まって、一晩中りきちゃんといっしょにいた。
そして、いろいろお話した。
りきちゃん、ごめんね。
こんな形でしか、一緒に過ごせなかったね。
パパは、りきちゃんと一緒に過ごせる日を待ち望んでいたけど、こんなことになるなら、ずっと病院にいてくれた方がうれしかった。でも、りきちゃんはもう疲れちゃったのかな。
もう、パパとママといっしょにいなくても良いって思っちゃったのかな。
パパが、りきちゃんにオモチャ買ってあげなかったっから、怒っちゃったのかな。
パパとママは、りきちゃんが大好きなんだよ。
それはこれからもずっと変わらないよ。なんで、りきちゃん逝っちゃったのかな。パパとママには分からないよ。
どうして・・・・
どうして・・・
知らずと涙があふれる。
一生の間に、こんなに泣いたことは無かった。
一晩中、りきちゃんとお話をしたが、りきちゃんがいなくなった意味が、結局分からなかった。でるのは、どうして、と言う疑問ばかり。
そして、朝になった。
式は昼過ぎからだった。そのころになると、参列の方もぽちぽち見え出した。
アナウンスがありお葬式が始まった。再び喪主席に座った。
お坊さんがきて、読経をはじめる。
そのあと、
りきちゃんへの手紙
をママと一緒に読んだ。
昨晩、ママが一生懸命書いたものだった。パパは、声が震えてしまった。最後には涙声になってしまった。
続いて喪主挨拶。焼香。それから参列者一人一人に挨拶をする。
そしてお別れの儀へ。その間、ほとんどの参列者の方が帰らず残ってくれた。
参列者みんなで、お花や、完成できなかった千羽鶴を棺にいれた。
りきちゃんの棺は、見る見るうちにお花で埋まっていった。
すごくきれいだった。りきちゃんは可愛かった。
りきちゃん良かったね、良かったね、きれいね、かわいいね・・・パパもママも一生懸命誉めてあげた。
りきちゃんいままで良く頑張ったよ。お花いっぱいでよかったね・・・
りきちゃんかわいいね。いい顔しているね。よく頑張ったね。。。みんな泣いてくれた。
パパは、最後の写真をいっぱい撮った。
そしてパパは精一杯りきちゃんに話しかけた。最後だったから。
そして、ついに棺のふたを閉めるときが来てしまった。
じゃあね、りきちゃん。バイバイ。またね。
またね、またね、またどこかで合おうね、りきちゃん。
またね・・・
本当に、これで最後だった。りきちゃんのかわいい顔。
そして、棺を霊柩車に載せ、火葬場に向けて出発した。いつも見慣れた町並みが、全然違って見えた。
何も話すことは無かった。
火葬場では係の人が手際よく焼香台をセットし、最後の焼香をした。
そして、釜のまえにきた。ふたが開けられ、棺が入れられた。
ああ、これで本当に最後だ。りきちゃんは、天国に旅立ってしまう。
バイバイ、りきちゃん。またね、またね、またね、バイバイ、・・・・
棺が入れられるとき、そういい続けた。ふたが閉まる最後の瞬間まで見届けた。
係の人がスイッチを入れた。ごぉーっというものすごい音がした・・・・
そして、手を合わせた。涙がこぼれ続けた。体中の力が抜けていった。
しばらくその場から動けなかった。
煙突から出る煙を見上げながら、りきちゃん、ちゃんと天国にいけるかな?と問うてみる。
ずっとずっと煙突を見上げていた。その間、パパは我を忘れてただひたすら涙していた。
ふと、坂本九の上を向いて歩こうを思い出した。
それは病院から家に帰る間にラジオから流れていた曲。
上を向いて、歩こうよ、涙が、こぼれないように・・・
上を向いても、涙がこぼれるときもある・・・
パパは煙突の煙を見ながらそう言った。
りきちゃんがいなくなったんだ、泣いてもいいよね・・・
突然、さーっと日の光が差し込んできた。
きっと、りきちゃんが天国に行ったから太陽が出てきたんだよ。
きっとりきちゃんは上手く天国に行ったんだよ…
小一時間ほどしてお骨を拾いにいった。
りきちゃんの骨は、ちょっとしかなかった。
みんなで箸渡しで大きな骨を拾って骨壺に入れる。なんと小さい骨壺。
小さい小さいけど、歯もあった。
今まで分からなかったけど、ちゃんと生えてきていたんだ・・・
りきちゃんの成長が分かって嬉しかった。
耳の穴も両方空いていた。ちゃんと聞こえていたんだな・・・パパとママの声、忘れないでね。
パパは、お骨になったりきちゃんを見ても、あまり、悲しくなかった。
これからいつもりきちゃんが一緒だと思うと、ちょっとだけ嬉しかったのだ。
りきちゃん、今までお疲れさま。
よく頑張ったね。
いい子だったね。
いろいろありがとう。
パパとママは、りきちゃんからいろいろ学びました。
本当にありがとう。
またね、どこかで合おうね。
さようなら、りきちゃん。
バイバイ・・・
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