Spring Has Come

Spring Has Come

静かな誕生


突然、痛みがなくなった。
あれ・・・?もしかして生まれたの?
だが、誰もおめでとうとか女の子ですよとか
言葉をかけてこない。
じゃあまだお腹の中なんだな。
でも変だな。

自分の足の方を見ると、小児科の医師らしき人と数人のスタッフ。
そして、台の上に小さな頭が見えた。
え・・・?やっぱり生まれたの?私の子だよね?
スタッフは心臓マッサージらしきことなどをしている。
その小さな子から産声は聞こえてこなかった。
しばらくして、その子――春歌は、集中治療室のような所へ
運ばれていった。

O先生が私の会陰を縫合し始めた。無言だった。
私も無言だった。
麻酔の注射も縫合もかなり痛くて悲鳴を上げそうになったが、
悲鳴も息も押し殺さなくてはいけない気がした。
しばらくして、どちらからか忘れたが話しかけ、
事の成り行きを知ることとなった。
突然の常位胎盤早期剥離で、分娩室に入った頃には
心音がほとんどなかったこと。
ただ今蘇生を試みているが、
心音停止から胎外に出すまで5分以上経過しているので
生存の可能性は低いということ。
そして、急だったせいで私の会陰はお尻の方まで裂けたらしい。
出血も相当なものだったが、輸血までは及ばなかった。
・・・縫合は丸々1時間かかった。

その後そのまま分娩室で安静にしていた。
自分以外に誰もいない分娩室。
何も考えたくなかった。何も信じたくなかった。
目を見開いて、あらぬ方向をじっと見ていた。
そこへ、職場から戻った夫と母がO先生に連れられてやってきた。
夫は私の顔を見ると、「大丈夫?」と私の頭を撫でた。
私は黙っていることしか出来なかった。

O先生は単刀直入に事情を話さず、母はついに切れてしまった。
「じゃあ、赤ん坊は死んだってことなんですか?!」
夫も同じようなことを言い、先生に詰め寄っていた。
・・・どうして死んだなんて言えるんだろう。
 今、一生懸命息を吹き返そうと頑張っているのに。
 みんな酷いよ。春歌が生まれたのに誰もおめでとうと言ってくれない・・・
私はそんなことをぼんやり思っていた。

それから1時間近く経ち、春歌の心音が復活したと聞いた。
ほら見ろ!やっぱり死ぬわけないじゃない!
私は車椅子に乗り、夫と母と共に治療室に向かった。
新生児用の小さなベッドに、春歌は裸で横たわっていた。

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