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2014.11.25
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カテゴリ: Jリーグ観戦記
監督の文脈(13)

2014年10月22日 J1第32節@埼玉スタジアム 56,758人(95%)

浦和レッズ 0-2 ガンバ大阪
【得点者】
後半 42分 佐藤晃大(ガンバ)
後半 48分 倉田 秋(ガンバ)


 我われを記者席へと招いてくれるエレベーターの中で、顔見知りの女性記者に軽い会釈をされた。扉が閉まり、しばしの沈黙の時間を過ごすなか、おもむろに彼女が呟く。
「今日で決めてほしいな……」


 記者席へのポンプ輸送の役割を負った密室の中で、筆者は返す言葉に詰まり、つくり笑いをするほかなかった。「今日で決まってはおもしろくない。できれば最終節までもつれこみ、今季のリーグ戦を盛り上げてもらいたい」というのが本音だったからだ。
 エレベーターに乗っていたプレス関係者は20名ほどである。あまり見かけない顔ぶれのなかには、大阪からはるばる上京した記者もいたにちがいない。ごく短い時間のなかで思わず口をついて出た彼女の言葉に、なぜ紙媒体の専門誌が休廃刊に追い込まれてゆくのか、その原因を、あらためて思い知らされたような気がした。

 地域密着化が進むサッカーというジャンルは、ほかのスポーツと同じように「面」で報道しても、読者がついていきにくいという事情がある。
 たとえばレッズのサポーターたちにとって欲しいデータは、彼らのクラブに関する情報や分析、意見や声でしかない。全国各クラブの詳細情報を紙媒体がつつがなく網羅しても、「点」の情報を欲しがる彼らにとっては、それらの大半は文字通り「紙屑」に等しい。結果、現代を象徴するツールであるネットやツィッター上で展開される情報へ読者は流れてしまう。たとえそれらが正確性に乏しくても、だ。そして一方では、プロの編集者が管理し、カメラマンやデザイナー、書き手によって制作された紙は、無用のものとなってゆくわけである。
 自省を含めて指摘したいのは、取材者までもが、個人的な意見だけで主張しようとする傾向にあることだ。「journalizm」の接頭語「jour」には、既製の定点をもたずに客観的な視点から対象を眺めるという意味がある。にもかかわらず、その職にある者が主観性だけでの主張をあまりにも押し進めると、一般投稿者との区別がつかなくなるという危険性をはらむ。
 「点」による細分化が進むネット上のレポートには、客観性を失いやすいという難しさがある。それでも読者たちは、「有料の客観性」よりも「無料の主観性」を歓迎する傾向にあるというのが時代の流れだろう。だがこれは、ジャーナリズムやクリエイティブティの危機である。
先ごろ、角川グループの頭に就任したニコニコ動画・川上量生氏の言葉が印象的だった。
「お金を払わなくても情報が手に入るという考え方が当たり前になってきてるのは、ボクに言わせれば“躾の問題”ですね。お金を払ってでも読みたいものを入手するというのは、“習慣の問題”です」と。
 重ねて自省の念をこめていえば、ジャーナリストの質が問われる時代がきているのかもしれない。我われは、お金を払ってでも読みたいものを作らなければならない──。


「ウチは18名のうち誰が出ても闘えましたが、レッズは17名しかいなかったんじゃないかな。これがガンバの強さだと思います」
(長谷川 健太)


「サッカーは人生と同じように、常に浮き沈みがあるものです」
(ミハイロ・ペトロビッチ)



 1年でJ1へ復帰させた長谷川健太のガンバは、「現実的なサッカー」とよくいわれる。スペクタル性よりも、あくまでも結果を重視する。そのためごつごつとした内容になりがちで、「おもしろさ」という意味では、現在の浦和レッズのほうがまちがいなく上だろう。
 2週間前、ガンバは同じスタジアムでカップ戦のタイトルを手にした。健太は、「あれで三冠の呪縛から解き放たれた」と言ったが、立ち上がりのガンバは明らかに堅さが目立っていた。プレーの判断が半テンポ遅れ、レッズが支配する時間が長く続く。

 健太が振り返る。
「相手をどう抑えるかというよりも、自分たちのサッカーをどうするかだったんですが、相手の2シャドーとワントップをどう管理するかが難しかった」

 ともすれば脆弱になりそうな自陣最終ラインに加わったのは、おもにアンカーの今野泰幸だったが、彼の0・5列前で攻撃の起点を作っていた遠藤保仁もハードワークを厭わなかった。しかし、代表から帰ったばかりのふたりが攻守のさじ加減を間違えると、中盤が手薄となり、レッズの圧倒的支配を許してしまいかねない。健太も指摘する最終ラインと中盤のあいだのスペース管理をうまく切り抜けたことができたのは、このベテランふたりの力によるところが大きかった。

 取材経費が潤沢にあった時代は、もはや過去の話だ。関東圏の記者たちがガンバのような関西のチームに密着できる機会はめったにない。とりわけ筆者のようなフリーランスの者にとっては、気が遠くなるような暗闇の時代を迎えている。そこで在京の記者たちは仲間からの情報や、記録データからガンバの素顔を判断するしかないのだが、今季のガンバの全貌を知るには、ひじょうにわかりやすいデータが手もとに提供されていた。
 ワールドカップ明けの第15節からこの日まで、各クラブは17戦を消化してきた。ガンバは7月19日のヴァンフォーレ甲府戦を2-0で完封したのを皮切りに、じつに9戦を無失点で抑えていた。なかでも8月末の第22節アルビレックス新潟戦から、およそ1ヶ月後に行なわれた第25節清水エスパルス戦までは、4試合連続の完封試合で、奪ったゴールは11にものぼる。この完封ロードの新潟戦で2ゴールをあげたのが倉田秋、同じく第24節の大阪ダービーで今季初ゴールを決めたのが佐藤晃大だった。

 後半に入ってからも、ゲームをコントロールしていたのはレッズだった。この状況を、健太はあらかじめ予想していた。
「ガンバにとって我慢の時間が続くなかで、60分過ぎからアップテンポのゲームになると思っていました」

 一方の健太が動いたのは70分過ぎにあたる後半26分と29分、3バックの相手に対してワイドな位置でプレーしていた宇佐美貴史をリンスへ、同じく左サイドで宇佐美の背後をカバーしていた同期の大森晃太郎を倉田秋へとチェンジした。さらに38分には、パトリックを佐藤晃大に替えている。「一発で試合の行方を変えることのできる宇佐美をなぜ下げたのか」という記者からの質問に、健太はなかば呆れ顔でこう答えている。
「疲れで、あまり動けなくなっていたからですよ。この試合で終わりというわけではないし、疲れている彼を無理して使い切る必要はありません」

 両チームが新しいカードを次つぎと切るなか、レッズの悲劇は、41分に今野から得たフリーキックが序奏となった。クリアボールを拾ったガンバの阿部浩光がカウンターを仕掛ける。阿部が前線左のスペースへフィードしたボールは、相手DFの足に当たって角度を変えたものの、リンスに繋がれてレッズのゴール前へと運ばれる。そして、後方から猛然と走り込んできた佐藤が、リンスからの折り返しを右足で決めたのだった。
 悲鳴と沈黙が交錯する埼玉スタジアムで、ミーシャが反射的に動く。残り時間7分を切った段階で、右足腓骨骨折で戦線離脱していたエース・興梠慎三を投入したのである。慎三の決意と意地に勝負を賭けたのだろう。しかし終了間際の貴重な時間を費やしてまでの交代策が、はたして正解だったのかどうか、すべては結果論にすぎない。このときベンチには、山田暢久の背番号を受け継いだ山田直輝や、奇襲要員として使える184cmの永田充らがいたが、「信頼度」や「責任感」という点で慎三しかいなかったにちがいない。だが健太の目には、レッズの戦闘員は「18名マイナス1名」と映っただけだった。
 逆にガンバは先発から長く遠のいていたリンスと佐藤が結果を出し、同じ立場にいた倉田が止めの2点目を突き刺している。健太が「これがガンバの強さ」と胸を張るのも当然だった。どんなに面白味に欠けるサッカーでも、この大一番を制した者たちの一瞬の輝きは、かつてのレッズにも宿っていたものである。

 ミーシャはサッカーを人生にたとえて会見を乗り切ろうとしたが、「あれだけ長い時間ゲームを支配しながら、なぜ点が奪れなかったのか」という意地の悪い質問に、珍しく言葉を失っていた。長い沈黙のあとに彼が吐いた言葉は、あまりにも痛々しい。
「負けはしたが、間違いなく相手を上回っていました。だけどこういう大勝負では、ひじょうに細かいところで勝負が分かれるものです。昨季終盤の3連敗以来、レッズに連敗はありません。うまくいかなかったときにどうするかでしょう。次の鳥栖戦に向けて集中力を高めるべきです」
 昨季、レッズから優勝の可能性をかっさらっていったのが、現在4位のサガン鳥栖だ。今季も春先の第2節、ホームで迎え撃ったゲームに0-1で敗れている。そして最終節に待つのが、西野朗率いる名古屋グランパスとのホームゲームだ。「赤の時代到来」を待つ者には、またしても見逃せない大一番となる。

【了】

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最終更新日  2014.11.25 21:45:53
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