2006年03月15日
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
池井 優著  『オリンピックの政治学』

この本では過去のオリンピックにおける政治的バランス、特に国際政治に関する影響力について考察している。
最近のオリンピックは、選手の育成に湯水のようにお金が使われ、その見返りとして国やメーカーの知名度や政治力を向上するという図式が指摘はされている。
ここでは1936年の第11回ペルリン・オリンピックについて言及されているが、この頃はまさに第2次世界大戦直前の戦争機運の高まっている時期であり、オリンピックがヒトラーによってプロパガンダとして利用されていた様が描かれている。

もちろん、プロパガンダにおける条件ともいえるものにマス・メディアの発達が挙げられる。
大衆へ向かって一方的に発信する情報源が無いことには、洗脳も難しい。
で、この時期登場したのがラジオだった。

「ラジオによる放送ははるかドイツのベルリンとの時間差をなくす同時性とともに、アナウンスメントの効果によって想像をかきたて、日本選手の活躍に日本国民のナショナリズムはいやがうえにも高まったのである。」

まずはなんと言っても通信技術の進化の最大のメリットとして、物理的な距離により生み出されていたタイムラグを埋めたことだろう。

これはIT技術の進化によって、より個人レベルにまで還元された効果だと思う。
そして、もう一つの大きな効果がプロパガンダである。
この場合、必ずしも発信者側に政治的意図がなくてもよい。
マス・メディアの一方通行的な情報発信による大衆心理操作全般を指す。

この年のオリンピックで前畑秀子が200メートル平泳ぎで金メダルを獲得しているのであるが、そのときの決勝戦での河西三省アナウンサーの実況中継が有名な「マエハタ、ガンバレ!」の連呼である。
当時この放送は実況放送ではなく応援放送だと揶揄されたそうであるが、この放送が当時の日本国民のナショナリズムを大いにあおったことは事実だろう。
検証のしようがないので正確に結論付けることは不可能なんだけど、前畑の金メダル獲得というイベントがひとつの事象として淡々と提示されたとしたら、それほど強いアジテーションにはならなかったのではなかろうか。
特にラジオだと聴覚からの情報しか与えられない。
そこには必然的に実況しているものの取捨選択が入り込んでくる。
知らず知らずのうちに日本の一国民として、同一化されるような情報を提供しているのだ。
この効力は受けて側の情報が少なく、同じ価値観を共有していればいるほど大きくなる。

武装することの正当化なんてほとんどこれだ。
これに対抗するには自分の中の他者存在を常に意識するか、外的存在となって客観的に事象を概観するしかないのかもしれない。

それはそれとして、この本にもう一つ面白いことが書いてあった。
このときヒトラーが全世界にたいしてナチスの力を示すという意味でもオリンピックの記録映画を撮っているのであるが、その監督として白羽の矢がたったのがレニ・リーフェンシュタールである。
彼女はもともと映画俳優でありダンサーであったが、映画監督、写真家とマルチタレントぶりを発揮している。

ひとつの仮説でしかないが、ヨーロッパというのは国が物理的に隣り合っており、たとえプロパガンダで大衆の心理操作が行われていたにせよ、他国の文化に外的存在を見つけ出すことが可能だったのではなかろうか。
だからこそメッセージ性の強い芸術や哲学が生まれてきたのだとぼくは思う。
まあ、それを一気に飛び越えたアメリカのポップアートも興味深いけどね。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2012年04月07日 11時17分36秒
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

コメント新着

Jeraldanact@ Проститутки метро Выборгская Брат замминистра инфраструктуры Украины…
Adamixp@ Свежие новости Где Вы ищите свежие новости? Лично я ч…
FLUR @ >alex99さん(2) alexさん、こんばんわ! >いいえ。 …
alex99 @ Re:>alex99さん(09/23) FLURさん >一休和尚がご乱交!? -----…
FLUR @ >alex99さん alexさん、こんにちわ! >万物はうつ…
FLUR @ >alex99さん alexさん、こんにちわ! 返事が遅くなっ…

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: