ないものねだり

ないものねだり

2015.12.31
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紀州の古刹 道成寺 は、文武天皇の勅願によって大宝元年(701)に創建された。

建久年間、道成寺で記された仏教説話集からは、後に古典の傑作が生まれた。
能や、後に歌舞伎のモチーフとなった 道成寺縁起 だ。

説話集には 紀伊国牟婁郡悪女(きいのくにむろぐんあしきおんな) と記され、
後世に物語として知られるようになり、能や歌舞伎の題材ともなった。
建久年間は、西暦で1040~1044年だから、なんと千年近く前の話だ。

「紀之国真砂悪女」 は、砂浮琴が紀伊国牟婁郡悪女を脚色した物語なので、
オリジナルの「道成寺縁起」とは少し異なるが創作話と理解して欲しい。


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砂浮琴 創作 「紀之国真砂悪女 (きのくにまさごあしきおんな) 」

それは、延長六(928)年のこと...
若い美貌(イケメン)の僧侶が、奥州から遥々と紀州まで修行の旅をして、
熊野権現 へ詣でる道中に起きた出来事だった。

僧侶は、紀伊国 牟婁郡 の 真砂 まで来て、ある館に一夜の宿を求めたことから、
運命が大きく狂いはじめた。 

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この夜、快く僧侶を泊めたのは、土地の豪族 庄司清次 の後家(未亡人)だった。

こともあろうか、僧侶に夜伽(よとぎ)を迫るのだった。

僧侶は、驚いて飛び起きた。


「今宵、契りを交わすに、何を憚(はばか)ることがありましょうや!」

そう言い放ち、女は驚く僧侶になおも迫った。

僧侶は当惑しながらも、とにかく女をなだめようとする。
「私は、熊野権現への参拝を願って遙々旅をして参りました」
「ここで戒律の破る訳には参りませぬ!」

僧侶はそう答えたが、女は聞く耳も持たない。 

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そこで僧侶は、 「それでは、熊野詣での帰りに、必ず参りますゆえ」 と約束して、
何とかその場は納得させ、館を発つことができた。

女は、僧侶の咄嗟の言葉を信じ、戻るのをしばし待ってはいたが、
僧侶は、一向に女のところへ姿を現さない。

そこで、通りかかった人に尋ねると 「若い坊様なら、だいぶ前にお帰りに」
女は僧侶に袖にされた事に気づいた。

「さては、すかしにけり!」 と、恥をかかされたことを恨みに思い、
怒り心頭に達した女は、髪を振り乱し、履いていた履物さえ脱ぎ捨てて、
脱兎のごとく駆けて僧侶を追いかけた。 

その女の姿は余りに異様で、道行く者たちも恐れたじろぐ様相だった。


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次第に、女の体には緑色の鱗が生え、目尻は吊り上がって口はみるみる耳元まで裂け、
口から吐く息は炎となって、とうとう恐ろしい 大蛇 に姿を変える。 

大蛇が追ってくると聞いた僧侶は、あの館の女主人に違いないと思い至り、
通りかかった道成寺に助けを求めた。 

僧侶から、事の次第を聞いた道成寺の僧たちはさっそく相談して、
寺の 大鐘 の中に、若い僧侶を隠し、皆で匿うことにする。 
しかし、それが裏目に出てしまったのだ。

僧侶を追い、道成寺へやってきた大蛇は、その大鐘を睨みつけるやいなや、
鐘に胴をぐるり絡め、尾で叩いたうえに大鐘にむかって炎を吹きかけた。
大蛇は、一刻ほどの間、鐘に胴体を巻きけたまま、炎を吐き続けた。 

そして、ようやく頭を高く持ち上げて、目からだらだら血の涙を流し、
焼けてただれた醜い胴体をゆるゆるとくねらせながら這い回り、
やがて日高川に身を投げて息絶えたのだった。

大蛇の炎を浴びた大鐘は、赤々と焼けて熱気で誰も近づけないほどだった。 
我に返った寺の僧たちは、大鐘に水をかけて冷やし、鐘を持ち上げて中を覗くと、
若い僧侶は、哀れにも炭のように焼け焦げた骨となっていた。

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それから数日後のこと。
道成寺の老僧が眠っている夢の中に、一匹の蛇が現れる。
蛇は 「私はあの鐘に閉じこめられ焼かれた僧です」 と老僧に話しかけた。

その蛇がいうには、自分は焼き殺された挙げ句、今は夫婦にされているので、
老僧の手で 法華経 を納経して悪縁を断ち切って欲しいとのことだった。 

「生前、私は法華経を尊んでおりましたが、未熟であるがため未だ救われません」
「どうかお願い申します」
そういい終え、蛇は姿を消した。

目覚めた老僧は、さっそく法華経を写経して、僧侶と女を手厚く供養した。

その数日後、老僧は再び夢を見た。 
そして夢の中で、若い僧侶は天界の 都卒天 に、女は 刀利天 になって、
無事に天に昇ることができたと知るのだった...

後に、この法華経の法力を解いた仏教説話は能の「道成寺」となり、
時代を経て多くの 芸能 へと発展する。

歌舞伎では 「娘道成寺 」、文楽では 「日高川人相花王」 から芝居の 「安珍清姫」 へと、
それぞれの時代を反映しつつ脚色され、今に伝えられている。

さてさて、紅白歌合戦を観終わると、いよいよ新しい年を迎える。
今年は、世の中が平和で慶び多い年であるようにと祈りたい。






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Last updated  2015.12.31 23:37:46
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