蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「みずゞ」

金子みすゞの映画「みすゞ」を見た。
 主演、田中美里。
 淡々とした演出で、金子みすゞの生涯を知らないとよく理解できないかもしれない。
 ヒロインのみずゞをはじめ、登場人物がことごとく無口なのである。饒舌な状況説明がないものだから、ストーリーがなかなか見えてこなかった。

 私の隣で見ていた女性は、あまりお気に召さなかったようだった。
 しかし私はけっこう気に入ったのだ。抑えた演出だからこそ、みずゞの悲劇がより鮮明に胸に迫ったからである。
 従兄弟(弟?)との苦しい恋情、夫からの抑圧、病気・・・。激しい気持ちの吐露はないが、押さえ込んだ気持ちの苦しさは理解できた。
 才能ある夫を妻が支えるのは当たり前で、才能ある妻を夫が抑圧するのは仕方がないことなのだろうか?
 以前金子みずゞの生涯をドラマ化した番組を見たことがある。主演は確か松たか子だったと思う。そのドラマでは、みずゞに対する夫のDVぶりが、今回の映画に比べて顕著だった。
 映画「みずゞ」では夫のみずゞに対する激しいDV場面が、ほとんど無かった。
 しかし、みずゞに対して、詩も手紙も書くことはならない、といったシーンは残酷だった。彼女に「書くな」というのは、「死ね」ということと同義語だからである。
 抑圧され、生気を無くしていくみずゞ。見ていて哀しかった。
 死を選び、薬を飲むために、青いガラスのコップに水を入れる場面はひたすら美しい。まるでみずゞの涙が注がれたように、哀しく美しい水。
 ひたひたと寄り添ってくる哀しみにを胸にしまい、「みずゞはとても強い女性だったんだ」という結論を出しながら、帰路についた。











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